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1 幼馴染 吾妻かりん

ラブコメ、書いてみました。

お楽しみいただければ幸いです!

「うわっ! ビックリした。いつもなら起きないのに、急に……」



 有島(ありしま)()(いろ)が目を覚ませば、吾妻かりんの可愛らしい顔が飛び込んで来た。


 日色の幼馴染の少女。


 肩口で切りそろえた艶々とした黒髪に、くりくりとした黒目がちの瞳。十人に訊けば十二人が美少女だと答えるような、まるで良く磨かれた黒曜石のような彼女。胸も大きく、幼い頃から共にいた身としては、あれがこう育つとは、まさしく女とは神秘だとは思わずにいられない。


「あれ、どうしたの日色、なんか、変な顔してる。嫌な夢でも見たの?」


 彼女は心配そうな顔をしていた。

 その顔に、日色は自分の想いが膨れるのを感じた。


 ――ああ、そうか、こいつ、こうやって、今までずっと俺のことを心配して、支えても来てくれて……。


 その彼女を隣から喪いたくないと想った。

 その感情が止まらない。


 どのような夢を見ていたのか分からない。だけど、それはとてもとても哀しい、彼女が隣にいないという夢で、……



「たぶん、そうだったんだと思う。正直、内容は覚えてないんだけど……」


「そうなの……大丈夫?」


「まあ、大丈夫。お前の顔を見たから」


「そう……」


 かりんはそう頷いて……、



「って、えぇッ⁉ わわ、私の顔見たからって、なんでッ⁉」


 彼女の顔は真っ赤。そして、積極的に墓穴を掘っていた。或いは、教会を建てていたと言うべきか。


「なんでかって……」


 日色は少しだけ逡巡した。

 普段であれば、



『朝起きたらお前の顔があるって最悪だな』


『何よ、馬鹿日色、そんなこと言うともう起こしてあげないんだから』


『起こしてくれなんて頼んでねぇよ』


『ばーか』


『ばーか』


 それでもかりんは甲斐甲斐しく毎日起こしに来てくれる。

 そのような間柄であったのだ。


 だけど、


 ――それじゃあいけないんだ。

 ――なんでか分からないけど、このままじゃ、かりんが居なくなる。

 ――それは、とても嫌だ!


 夢の内容は覚えていなかったが、それは日色の心にしっかりと刻まれていた。或いは、魂に刻み込まれた、とも。


 ――だけど、それならどうすればいい? どうすればかりんと一緒にいられる?


 そう思った時、天啓が降りてきた。



『素直になればいい』



 素直になって、自分の気持ちを伝えれば……。



「朝起きて、お前の顔があるって、すっげぇ幸せなことだなって」



 日色はかりんにそう答えていた。


 真っ直ぐに、黒目がちの眼を見詰めて。

 とても恥ずかしい。

 けれど、とてもスッキリとして、かっちりとハマっていた。


 だからこそ、


「今まで言えなくてごめんな。それでありがとう。こんな俺だけど、これからも起こしに来て欲しい。朝起きてかりんの顔が見られると、幸せだし、安心できるんだ。今日一日頑張れるって想う。もう俺、かりんに起こしてもらわないと起きられないかも知れない」


 溢れ出る想いをそのままに。

 日色は、それをかりんへとぶっかけていた。さすれば必然、


「………………」


「かりん?」


 彼女の顔は真っ赤であり、フリーズと言うよりはオーバーヒート。


「ぷしゅうぅ……」


「ちょっ、おいッ!」


 空気が抜けるような音と共に、かりんが日色に向かって倒れ込んで来た。その時だった。



「どうしたのかりんちゃん、お兄ちゃんまだ起きないの? それともなんか変なことされてる? あははっ、鈍感へたれのお兄ちゃんがそんなこと出来るわ、け……」


 入って来たのは日色の妹のめぐみ。

 日色とかりんの一個下の高校一年生。艶やかな黒髪をサイドテールに結び、彼女もかりんと同様に、すでに青海学園の制服に着替えていた。


 めぐみはかりんがベッドの兄に覆い被さっている姿を目撃した。可愛らしい眼をまん丸くさせ、眼を閉じて頭を振り、もう一度その光景を眼にし、眼にし、



「………………」



 ふっと、優しい眼で笑った。

 ソッと、兄の部屋のドアを閉めていた。



 ドタドタドタッ!



「お母さぁあーんッ! うちに、うちにお義姉ちゃんが出来るーッ! かりんちゃんが、嫁に来てくれるーッ! お兄ちゃんを襲ってたーッ!」



 階段を駆け下りる音に、近所にも聞こえるほどの大音声。

 流石は水泳部のホープと言われるめぐみだからだろうか、あんまりにもあんまりな肺活量。間違いなくご近所様にも聞こえているに違いあるまい。


「ちょっ、違ぁっ、違うからぁあああッ!」


 ガバッと起き上がって顔を真っ赤にさせて追い駆けて行くかりん。

 階下から聞こえる声が姦しい。


 いつもの日常。


 いや、そう言うには、歯車が大きく音を立てて奔りはじめていた。

 心配など、不安など、めりめりと噛み潰してしまうように。


 ふっ、と、日色は思わず笑っていた。


 ――ああ、やっぱり、かりんには傍に居てもらいたい。

 ――じゃあ、もっと素直にならないとな。


 そう思って、かりんの温かさ、薫り、そして、柔らかさが躰に残っていて、……


 そっと赤面す。




   /




「日色の馬鹿、日色の馬鹿。あんな、あんな、うぁあああああ……お母さんも、めぐみちゃんもぉお……」


 道を行きつつ、かりんは両手で顔を覆って頭を振る。


 かりんの両親は父親の単身赴任に母親がついて行っていた。そのため寝泊りこそ吾妻家であったが、朝食夕食は有島家で取っていた。今朝はお赤飯が出され、日色の両親とめぐみがニヤニヤしながらの朝食だった。

 たいそういたたまれない。



『お義母さんって、呼んで良いからね』


『私もかりんお義姉ちゃんって呼ぶことにする!』


『今までも娘みたいなものだったが、ついにか……日色のことをよろしくな』


『えっ、あっ、はい』


 と思わず素で応えてから気が付けば、ますますにやにやとされた。今更違うとは言えやしない。それに、違わなくなくなくもないし……。



『あんたの所為でしょ』


 と日色にアイコンタクトを送れば、


『今のはお前の所為だろ』


 とアイコンタクトが返って来た。



『すごい、もう眼で会話してる。お幸せに』


 めぐみの生温かい眼は目蓋の裏に張り付いた。



 ――あぁああああ~~~~~ッ!


 かりんが身悶えれば、黒髪が紗那紗那と揺れ、陽光を反射するさまはいたく綺麗だ。



「かりんって、綺麗だよな」


 日色はそれを素直に口にしていた。


「………………」ギンッ、と音が聞こえて来そうな目つきでかりんが睨み付けて来る。顔はすでに耳まで真っ赤っか。「……ねぇ、日色、あんた、今日どうしたのよ。朝からおかしいわよ。あ、あんなことを言うなんて……」


 睨み付けて恨みがましくも、それでも嬉しさを押し殺せない顔。

 日色はそれを知ってか知らずか、「あんなことってなんだよ、あれは俺の本心だよ。それからかりんのことを綺麗だって思ったのも本心だ。正直自分でも恥ずかしいんだけど、素直に想って伝えてることの何が悪い」



 ――素直にならないと。



 日色の顔も赤かったが、それは譲れない事柄だ。そうして、かりんを繋ぎ止めておかないと。夢で何を見たかは忘れていたが、それでも、それだけは譲れない。だから、


「ふぇっ⁉」日色に手を握られたかりんはビクンと硬直した。



 ――えっ、えっ、あっ? 私、日色に、手、握られてる? 手、手汗とかかいてない? 大丈夫? ってか、日色って、手、大きいんだ。それに、ゴツゴツとして……日色と最後に手を繋いだのっていつだったっけ? ……でも、成長した……男の子の、手……。



 かりんは自失しつつも日色の手を握り返していた。

 その柔らかさに日色も握り返す。



「これは、手を繋いでいて良いってことだな? 今更違うって言われても遅いからな? 俺は、かりんを離さない」


 真剣な瞳。


「……………………、ひぇっ⁉」


 はっと気が付いたが、文字通りもう遅い。

 振りほどこうにもすでに歩きだし、今振り解けば、かりんの手放したくないものすら手放してしまうかも知れない。



 ――この手……私も、離したくない……。


 かりんの方からも力を籠めれば、まるで心臓を捕まえられるような力で握り返してくる。



 ――ヤバい、口元が緩んで戻らなくなる。日色、お願いだからこっち見ないで。


 そう思ってチラッと彼の顔を見れば、彼も耳まで赤かった。



「ッ~~~~~~~~~!」


 かりんは真っ赤で、嬉しさと恥ずかしさを混ぜ合わせた凄まじい貌をしていた。




   ◇




「ッ、日色の馬鹿、日色の馬鹿ぁああッ!」


 昼休み、青海学園高等部二年A組の教室では、かりんが悲鳴をあげながら有島日色をぽかぽかと叩いていた。生徒たちが昼食を取る、クラスの中だ。

 チラッと見る者もいたが、



『ああ、いつもの夫婦喧嘩か、あんなものじゃなくって弁当喰お』


『信じられるか? あいつらあれで付き合ってないんだぜ? 手を繋いで登校してたって言うから訊いてみたんだけど、付き合ってないって言われたぞ。青海七不思議は今日も健在ってわけだ』


『爆発しろ爆発しろ』


『俺、コーヒー買って来る』


『俺の分も頼む』『俺も』『私も』


『私の血潮は砂糖で出来ている……砂糖に溺れて糖死しろッ!』


『このクラス、コーヒー常備した方が良いんじゃないか……?』


 などと、いつもの光景にひそひそとクラスが囁く中、二人は仲良く同じ内容の弁当を食べていた。同じ家で作って来るのだから当然の事だ。



「何を怒ってるんだよ」


「そういうところもよ!」


 フガーッ、と吠えるかりんはまるで猫のよう。

 日色はやれやれとばかりに卵焼きをぱくりと食べる。



「ん、これかりんが作ったんだな」


「よく分かったわね」


「お前の味が分からないわけないだろ。美味しい。いつもありがとうな。これからもお願い」


「任せなさい。じゃなくって、そうなんだけどそうじゃあなくって!」


 にへら、と笑ってから再び憤慨する。ただしその唇は無様なほどに緩んでいる。



『………………なあ、前より糖分上がってねぇ?』


『ああ、あれは砂糖災害だ。俺、このクラスでコーヒー売りはじめようと思ってる』


『俺にも一枚かませてくれ!』


『私も!』『俺も!』


 昼休みに事業が立ち上げられるクラスも珍しい。



「だからぁ、素直になるのは良いんだけれど、TPOはわきまえなさいって言ってるのよ!」


 そうかりんが怒声を上げるのも無理はない。何故ならば、……



『もう学校だから手、離そう?』


『嫌だ、かりんを離したくない』


『どうして駄々っ子みたいなことを言うのよ。あんたも顔赤いくせに……靴をはき替えたらその後は手を離したままで……てッ、また握って来て……ッ』


『かりんは嫌か? 嫌って言うなら離す』


『~~~~ッ、……………嫌じゃない』


 そのままかりんからも握り返して教室に着いた。



『とうとう付き合ったのか』


『おめでとう』


『お幸せに』


『式には呼んでね』


『いや、付き合ってないけど』


『……なん、だ、と……?』


 そこからはじまり、



『ちょっと、日色、宿題やって来たの?』


『黙秘権を行使する』


『そこも素直になりなさいよ! まったくあんたは……今日の所は怒られなさい。だから今日の分はあんたの部屋で一緒にやるわよ』


『わかった、お願いする』


『うん、お願いされました。本当に、あんたは私がいないと駄目なんだから』


『ああ、俺はかりんがいないと駄目だ。だからずっとそばに居てくれ』


『ンなッ、そ、それって、ぷぷぷぷろ……』



『すげぇぜ、朝の会話でプロポーズしやがった。俺たちには出来ないことを平然と……じゃねぇな。日色も顔赤いな』


『ってか、今普通に部屋に行くって約束してたわよね。それで付き合ってないの? 何も起こらないの?』


『『…………………』』


 授業の空き時間も、



『日色、お前、吾妻さん見てるのか』


『ああ、見てると落ち着くんだ』


『………………。顔赤いのによく言えるな』


『俺は素直になるって決めたんだ』


『そうか、頑張れ。俺たちも頑張るから』


『何を?』


『何もかもを! コーヒー買って来る!』


『お、おう……』


『き、聞こえてるから、聞こえてるんだから馬鹿日色ぉお……うぅ……』


 散々だった。そしてこれがまだ一日目なのである。



「日色、素直になるのはいいんだけど、いい加減にしなさい!」


 かりんのライフはもうゼロよ。

 ただし日色も着実にダメージは受けていたが。



「で、だからどうして急に素直になったのよ」箸を進めつつかりんが問いかけた。


「いや、なんか自分でもわからないんだけど……朝起きて、かりんが一緒に居てくれることは普通の事じゃないってことがわかったんだ。で、ずっと一緒にいてもらうためには、どうしたらいいかって思ったら、かりんに想ったことは素直に伝えるってことだった」


「……そ、そう……それで……あんたは、私とずっと一緒に居たいって……それって、もも、もしかして、わわ、私のこと、す、すすす……」


 頑張れ、頑張れ吾妻かりん!

 クラスの皆は心を一つにして固唾を呑んでいた。


 グッと彼女は唇を噛みしめて、



「す、すごい大切に想ってくれてるのね」


 あぁ~~~っ、と天を仰ぐのも皆同じポーズだった。

 そうだけど、そうじゃないんだ。だが、その油断が悪かったのだろう。


「……ああ、俺は、かりんをすごい大切に想ってる。ずっと、一緒に居たいって思うくらいには。かりんはどうなんだ?」



「ひぇッ! わ、わわわ、私? えーっと、わ、私は……」


 かりんは真っ赤な顔で眼を泳がせ、やがて観念したかのように、


「…………うん、私も、日色とずっと一緒に居たいって思ってる」


 すると日色の手がかりんに伸びて来た。

 ギュッと手を握り――彼の顔も赤かった――、



「ありがとう、かりん……ン、ああ、そうか」


 そこで彼は何かに気が付いた顔をした。いつの間にか、かりんも彼の手を握り返している。日色は赤らんだ顔で真っ直ぐにかりんの眼を見詰め、


「かりん、好きだ。正直に言って、俺、今までそのことに気が付いてなかった。だけど、かりんが受け入れてくれて凄いホッとして、それで……なんか、気持ちが溢れて気が付いた。好きだ、かりん、俺と、付き合ってくれ」


「ッ! あ、あんた……」


 かりんはまるで猫のようにビクリと肩を跳ねさせると、


 ふにゃ、


 と顔を崩して、嬉しくても、ちょっと泣きそうな顔で、



「……うん、こちらこそ、よろしくお願いします。私も、日色のこと、好き……もう、遅いんだから、馬鹿」


「悪い……」


 そうして見つめ合う二人の指は、いつしかしっかりと絡み合い、見つめ合うがままに……、


 と、そこで二人はハッと気が付いた。


 ここが、昼休みのクラスだったということに。


 周りを見渡し、みるみるうちに真っ赤になり、同じ顔で俯いてしまう。それでも絡めた指はそのままに。


 ……………………。



『エンダァアアアアアアーーーーーーーッ!』


 その叫び声と共に、皆が砂糖の柱になって崩れ落ちる様を、廊下を通りがかった生徒は幻視したのだと()う。

ブックマーク、感想、評価、たいへん励みとなります。

少しでもお気に召していただければ、是非是非ポチリとお願いいたします。


当方豆腐メンタルでチョロいので、マシュマロと☆を投げてヒロインにしてください!(錯乱)


暫定の完結までは書いておりますので、それまで毎日投稿です。

よろしくお願いいたします!

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