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6 魔族令嬢のスカートに顔を突っ込んでしまいました

 翌日。

 俺はハピネとヒルドに連れられて、屋敷の裏手の森に来ていた。


 久しぶりの外! ……なんだけど、全然爽やかな気分ではない。なにしろ俺は豚化させられ、屋敷からここまでハピネを運ばされてきたのだ。


「ぶひー……」


 乱れた吐息もすっかり豚になってる。

 馴染んでるみたいですごい嫌。


「いい天気ね!」


「そうですね。よかったです」


 そんな会話を交わすハピネとヒルド。


 ヒルドは持っていた敷物を広げ、その上に料理を用意し始める。


 ちなみにけっこうな荷物があったけど、それは護衛の兵士が運ばされていた。


 ハピネが外出しようとすると必ず護衛兵が二人現れてお供するのだ。

 前庭の小屋に住んでいるらしく、屋敷では全然見かけない。


 とにかくその兵士から荷物を受け取って、並べていくヒルド。


 ピクニックってわけか。優雅なもんだな、まったく。


 しかし表に出られたのは嬉しい。

 正直ずっと牢屋に閉じ込められて苦痛だったんだ。


 ちょっとそこらを走り回ってこようかな、と思っていると、ハピネが言ってくる。


「ぶー太、行くわよ」


「ぶひひ?」


 どこに?


 ハピネは俺の鎖を引っ張って森に入っていく。護衛兵がついてくる。


 ブナの木が立ち並んでいる森の中。

 うん? なにか匂うな。


「さあぶー太、トリュフ探しの始まりよ」


「ぶふふ!?」


 トリュフ!?


 ああ、この匂いはトリュフの匂いか。


 トリュフはブナの木とかの下に生えるきのこだ。

 貴族に人気の食材で、俺たちもよくそれを集めて村を訪れる商人に売って生活費の足しにしていた。


 しかし……このバカ小娘は。


「どうしたのよ、早く探しなさい」


 たしかにトリュフ探しには豚を使う。

 でもそれは、トリュフが豚の雄と同じ匂いを発しているからだ。

 つまりトリュフ探しに使えるのは雌の豚だけ。

 俺は豚化しても雄のままなので、トリュフ探しはできない。


 そんなことも知らずに、このクソお嬢様は豚というだけで俺にトリュフ探しを命じてるってわけだ。


 しかし、そんな事情を説明して、このわがまま娘が納得してくれる気がしない。

 きっと『トリュフを見つけられないならあなたなんかいらない』とか言って俺を白骨死体にしてしまうに違いない。


 冗談じゃないっ!


「ふごっ、ふごっ」


 俺は必死で地面に鼻を擦り付けるように臭いを嗅ぐ。

 さっきもトリュフの匂いはしたんだ。

 俺にも見つけることはできるはずだ。


「ふごふごっ!」


 こっちな気がする。


「いいわよぶー太、その調子よ!」


 ぽん、と俺にまたがって言ってくるハピネ。

 重いし無駄に疲れるからやめてほしいが振り落とすわけにもいかない。

 俺は仕方なくハピネを乗せたままトリュフ探しを続ける。


 が、しばらく探してもトリュフは見つからなかった。


 おかしいな……匂いはするんだが。


「ぶー太、いつになったら見つかるのよっ」


 ハピネがご立腹で俺の尻をべしべし叩いてくる。


「ふごふご、ぶひぶひ!」


 無茶言うな!


 俺は苦情を伝えるがハピネに通じるわけもない。


「早く見つけなさい。さもないと……」


「ぶーぶー!」


 やめろ! 白骨死体は嫌だ!


 俺は必死で鼻を地面に擦り付け、臭いを嗅ぐ。くそっ、人間の俺がなんだってこんなことを……ん?


 なんか、すごくいい匂いがしたような……。

 なんだこれ?


「ぶひーぶひっ!」


 急に、身体が勝手に動き出した。

 まるで心まで豚になってしまったみたいに、俺は漂ってきた匂いの元を探るべく走り回る。


「ちょ、ちょっとぶー太? どうしたのよ――きゃっ!」


 ぶるん! と俺が急停止してしまったせいで、ハピネが地面に振り落とされる。


 ヤバい、これは白骨死体待ったなし……と思うが俺の身体は止まらない。


「ぶふん、ぶふん!」


 と興奮して鼻息荒く、俺はそのままハピネに突進していった。


 ハピネの――スカートの中に鼻を突っ込んでいた。


「きゃーーーーー!」


 ちんちくりん小娘の悲鳴が森に響き渡る。


「やめ、やめなさいぶー太! なんのつもり!? ひっ、ひあ!」


 ハピネは俺の頭を押しやって引き剥がそうとするが、十歳の小娘と成豚だ。敵うわけがない。


 俺は俺で混乱している。


 なんでだ。

 全然こんなことしたいと思ってないのに、身体が止まらない。


「ふごっふご、ふごふごっ」


 鼻を鳴らしてひたすら小娘の股間に顔を押し付けようとしてしまう。


 おい、護衛兵。見てないで止めてくれ。

 こういうときのためにお前らがいるんじゃないのか。


 しかし二人は俺を止めに入らない。


「――お嬢様!」


 俺を止めたのは、ハピネの悲鳴を聞きつけてやってきたヒルドだった。


 駆け寄ってきて俺に体当たりをかますメイド。


 どんっ! と突き飛ばされて、俺はゴロゴロ転がり、樹に身体を打ち付けてようやく身体の自由を取り戻した。


 俺は急いで人間に戻る。

 これで暴走することはないだろう。


「ふう……」


 一息つく俺の目の前に、顔を真っ赤にして、見たことないくらい目を釣り上げたご令嬢が立っていた。


「ぶ~太~……っ!」


「いや、待ってくれ、今のはわざとじゃない」


 村で豚を飼っていたからわかる。


 雄の豚はあんなふうに雌の匂いを嗅ぐんだ。

 たぶん、トリュフを見つけ出そうと匂いに集中したせいで、豚としての習性が目覚めてしまって、勝手にあんな行動を取ってしまったんだ。


 なんて言い訳を、このお嬢様が聞いてくれるはずもない。


「この……エロ豚! おしおきよ!」


 エロ目的でお前のスカートの中なんか覗くかよ! と反論したかったが、首輪の鎖を引っ張られながら顔を踏みつけられて、そんな余裕はなかった。

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