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4 魔族令嬢に【豚】にされました

 ある日、普段ならもう牢屋に戻れる時間なのに、俺はハピネに鎖を引かれ、屋敷の玄関ロビーに連れてこられた。

 この屋敷について最初に、檻から出されたあの場所だ。


「なんの用だよ」


 もう疲れたから早く休みたいんだけど。


 ちなみに、ハピネは俺の口の利き方にはあまりうるさく言ってこない。

 最初は敬語を使っていたが、面倒くさいのでタメ口にしている。

 魔族にとっちゃ、人じゃない奴がどんな口調でもどうでもいいってことなんだろう。


「ふふふ、面白いものが手に入ったのよ」


「面白いもの?」


「ヒルド」


 ハピネが命じると、メイドのヒルドが玄関扉の前に置いてあった木箱を持ってきた。

 それを開けると中には金属の箱。

 その中はさらに頑丈そうな鍵付きの箱。

 ずいぶん貴重な品みたいだ。


 鍵を開けて箱を開くと、やっと中身が出てきた。

 それは眩く輝く、拳大の宝石に見えた。


「すげえ……」


 俺は思わず呟く。

 ハピネはそんな俺を見てドヤ顔で得意げだ。クッソむかつく。


「ふっふーん。すごいでしょ。でも、これはただの宝石じゃないのよ。モーフジェムっていうすごい力を持った魔石なんだから」


「モーフジェム?」


 人間族にもわかるように説明してあげるわ、と小憎たらしい前置きをしてから、ハピネは語る。


 この大陸には、様々な力を秘めた〈ジェム〉と呼ばれる魔石が存在している。

 その中でも〈モーフジェーム〉は貴重な品で、滅多に市場に現れない。それをハピネは運よく発見し、五百万ベリアで手に入れたのだそうだ。俺の五倍の値段……。


「貴重なのはわかったけど、なんでそんなのを俺に見せる?」


 ただの奴隷の俺に。


 すると、ハピネはモーフジェムを手に取ると、ニタリとクソむかつく笑みを浮かべて言ってきた。


「もちろん、あなたに使うために決まってるでしょ、ぶー太」


「なっ……!?」


「ヒルド」


 俺は逃げる暇もなく、メイドに背後に回り込まれる。

 そして着ていた服をべろりとめくり上げられる。くそっ、またこのパターンかよ。


 今度は胸の上まで露わにされる俺の身体。そこにハピネがモーフジェムを近づけてきやがる。さっきは綺麗だと思った宝石の輝きが、不気味なものに見えてくる。


「やめろ、離せっ!」


「おとなしくしなさい。白骨死体になりたいの?」


「……っ!」


 白骨死体はいやだ。けど、わけのわからない魔石を使われるのもいやだ。


 どっちがマシかと判断する暇もなく、ハピネは俺の胸にモーフジェムを押しつけた。


「うぐっ……」


 ずぶっとジェムが俺の身体に沈み込んだ。

 まるで泥の中に石が落ちていくみたいに、魔石は俺の体内に消えていく。


 痛みはない。しかし――。


「うわああああああ!?」


 全身が熱くなる。俺の身体そのものが太陽にでもなったみたいに、内側からすごい熱が生み出されている。


「落ち着きなさい、ぶー太。すぐに治るから」


「はっ……はっ……」


 シャクだがハピネの言うとおりだった。

 熱はすぐに引き、俺の身体は元どおりになった。


「なんだ……? おい、俺の身体になにをしたんだ!」


 俺は声を荒らげる。


 パン! と突然ハピネが俺の目の前で手を叩いた。

 びっくりして俺は一瞬目をつぶる。

 その一瞬で――


「……なんだ?」


 俺の視界が急に低くなった。

 視界が黒と赤の市松模様の床で埋まる。


 さっきまでハピネを見下ろしていたのが、見上げないと顔が見えなくなっていた。


 俺、いつの間に四つん這いになったんだ?


 立ち上がろうとする。

 しかしうまく立ち上がれない。


 なんだか手足が短くなって、関節の位置もおかしくて、まるでこの姿勢の方が自然な身体になってしまったみたいだ。


 なんだ、どうなっている。


「ヒルド」


「はい」


 メイドが俺の前にしゃがみ込むと、手鏡を見せてくる。


 そこには、えっと、あ? なに? なんだこれ。



 そこには――豚がいた。



 ピンと立ったペラい耳。

 くりっとした小さな目。

 正面に突き出たでかい鼻。

 まるまると太った胴体。

 どこからどう見ても豚だ。


 なんで? え? どこから現れたの?

 と横を確認したりする必要はなかった。


「やった! うまくいったわね!」


 ハピネが万歳して喜んでいたからだ。


「大成功! ぶー太が豚になった! ぶー太が豚になった! あはははは!」


 豚になったのは俺。

 間違いないらしい。


 ふざけんなよこの小娘!


 思わずそう叫ぼうとした俺だが、豚である俺の口からは、


「ぶひっ! ぶひっ! ぶーぶー!」


 とひどく間抜けな鳴き声しか出てこない。


 くそっ! くそっ! くそっ!


 ハピネはビシッと俺を指差して言ってくる。


「いい? この【豚化】モーフジェムは、鍛えれば自分の意思で豚に変身できるそうよ。だから、私が命じたらいつでも豚になれるよう、特訓しておきなさい」


「ぶひっ、ぶひんっ!」


 ふざけんな、死ね! と言ったんだが、当然ハピネには通じない。


「いい返事ね。楽しみにしてるわ」

「ぶひっ、ぶひんっ!」

「ぶー太ぶー太! あはははは!」

「ぶひっ、ぶひんっ!」


 ちくしょー、なにが楽しいんだよクソガキ!


 ……こうして俺は、名実ともに魔族令嬢の【豚】奴隷になったのだった。

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