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1 魔族令嬢に百万ベリアで買われました

「百万ベリアよ!」


 魔族の町にある奴隷オークション会場。

 商品としてステージに立たされていた俺を指差して、その小娘はそう声を上げた。


 百万ベリアが魔族にとって法外な値段だってことはわかった。

 俺の前に落札された、エルフの少女の奴隷は五十万ベリア。それでも会場のあちこちから驚きの声が起こったほどだ。

 ましてや俺は、ただの人間の男の奴隷。

 魔族にとって、エルフの少女の倍の価値があるとは思えない。


 事実、オークション会場はさっき以上のざわめきに包まれた。

 ……が、声をあげたのがそのちんちくりんの小娘だとわかると、ざわめきはため息や小さな呟きに変わった。


「ああ……キューブリア家のご令嬢か」

「じゃあ仕方ないな……」

「しかしあれが百万ベリアって……」

「なにに使うんだあんなの」

「お金をもらってもいらないわ」

「貴族の趣味はわからんな」


 魔族に同意するのはむかつくが俺もそう思う。


 オークションの司会の魔族も意外な展開だったんだろう。しばらく固まっていたが、やがてもっと高い値段をつける客がいないか呼びかける。


 当然、そんな者がいるわけもなかった。


「おめでとうございます! 人間族の若い男は、キューブリア家のご令嬢ハピネ様が百万ベリアで落札でございます!」


 声を張り上げる司会。

 会場からはまばらな拍手。

 ハピネとかいうお貴族様は満足げに笑って手を振っていた。


 俺はその小娘を睨みつける。

 十歳くらいだろうか。魔族特有の闇色の肌をバカみたいに豪華なドレスで包んでいる。銀色の髪の隙間からは、まっすぐ上を向いた二本の細い角が生えている。

 赤い両眼は細められて、とっても嬉しそうだ。


 ……人を買うのがそんなに楽しいかよ。


 大声でそう叫びたい気持ちにかられたが、そんなことをすれば殴られるのがオチだ。

 俺は黙って奥歯を噛みしめた。


        ○


 オークションが終わると、俺は牢から出され、手錠を外されると、移動式の檻に入れられた。台車のついた、家畜を運ぶための檻だ。


 檻は、オークション会場が雇っている奴隷によって、豪華な馬車に後ろ付けされた。

 その馬車は俺を買ったご令嬢の馬車だったようだ。

 さっきのちんちくりん小娘がメイドと一緒に会場から出てきた。

 横には、オークションを主宰している奴隷商人がへばりついている。


「このたびはまことに」とか「またなにとぞよしなに」とか言いながら頭を下げまくっていた。ただの人間の男が百万ベリアで売れたのがよっぽど嬉しいんだろう。


 小娘のほうはさして興味もなさそうで、適当に返事をしながら馬車のところまできた。

 そして、檻の中にいる俺を見ると、ニコッと笑みを浮かべて訊いてきた。


「あなた、名前は?」


「……ブルータスだ」


 一瞬無視してやろうかとも思ったが、最初から悪い印象を与えるのは良くない。


 もちろんクソ魔族の小娘と仲良くしたいなんて思ったわけじゃない。

 油断させておいたほうが、逃走だって反逆だってしやすいだろう。


 まあ……ちょっと意外だったってのもある。

 魔族は自分たち以外の種族なんて家畜くらいにしか思っていないんだと思ってた。

 だからわざわざ名前を訊かれたのには驚いた。


 もしかしてこの少女は、ほかの魔族とは違うのかもしれない。

 そう思ったから素直に名乗った。

 ……しかし。


「へえ、ブルータスね。ちょうどいいわ」


 少女は俺を指差すと、


「じゃああなたは今日からぶー太ね!」


「はぁ!? なんでだよ!」


 ひょっとして『ブ』ル『ータ』スだから略してぶー太ってこと?

 ふざけんなよクソ魔族のクソ小娘! 人の名前をなんだと思ってるんだ!

 俺は叫ぶが、クソちんちくりん小娘は楽しそうに笑いながら馬車に乗り込んだ。

 ふざけやがって……。


 こうして俺は、魔族のご令嬢に百万ベリアで奴隷として買われ。

 ぶー太というふざけた名前を与えられたのだった。

お読みいただきありがとうございます!


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