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第4話 開拓村の夜に響く音

 はいぃ!?


 あぁびっくりした。急に後ろから声をかけないでくださいよ。

 えっ、そんな声を出すなんて兵士らしくない?

 そんなこと言われても困りますって。ただでさえ……。

 いえ、なんでもないです。


 で、どうしたんですか。こんな真夜中に。

 ふむ、トイレですか。

 それなら仕方ないですね。


 で、トイレへ行く途中に知ってる人の背中が見えたから、声をかけたと。

 真後ろから。私に。こっそり近づいて。いきなり声を。

 いやいや、怒ってないですよ。根に持ってないですから。


 トイレはこの廊下の先、あそこを曲がったところです。曲がらずにまっすぐ行くと出口ですが、そっちには行かないように。

 開拓民の人は夜間外出禁止ですからね?

 まあ出口にも立ち番の兵士がいるはずですから、外に出ようとしても止められるでしょうけど。


 私? 私は夜勤中ですよ。

 夜間警戒の当番なんです。朝までここで見張りですよ。

 一応この開拓村は防壁に囲まれてますけど、夜闇には何がまぎれこんでるかわかりませんから。

 それじゃ、どうぞ行ってきてください。


 ふぅ。

 みんなして驚かしてくれちゃってもう。


 さっきも獣騎士様の使い魔がこっそり歩いてきて、すごくびっくりしたし。

 あの人も、使い魔のキツネの子も、どっちも音を立てずに歩くから心臓に悪いわ。

 ま、悪気はないんでしょうけどねぇ。


 あー、やだやだ。暗いのやだ。

 早く朝にならないかなぁ。


 おや、戻りましたか。トイレは済みました?

 それじゃ、おやすみなさい。


 ん? どうしました? 変な顔して。


 え?

 変な音が聞こえた?

 なんか刃物を研ぐような? 不気味な音?

 女の笑い声みたいなのも聞こえた?

 うえぇ。うわさだけは聞いてましたが、まさか私の当番のときに……。


 えっ。

 いやいや。

 そんなわけないでしょう。

 幽霊なんていなるわけないじゃないですか。

 いやいやいや。


 そもそも幽霊ってのは死んだ人が化けて出るもんですよ。

 だからここに幽霊が出るはずがないんです。

 なんでかっていうと、死人がいないから。

 この開拓村はまだ新しいですからね。確かに魔獣も出ますし色々危なかったこともありましたが、まだこの村で死人が出たことはないはずです。今のところ。少なくとも私は聞いてません。

 だからここには幽霊なんていないんです。絶対。


 え、早口すぎる?

 ほっといてくださいよ!


 うー。

 とはいえ、異常ありということなら確認はしないといけません。

 しょうがないなぁ。行きますか。行きたくないけど。


 あー、戻ろうとしないで。一人にしないで。

 一緒にいてください。じゃなくて一緒に来てください。

 だって案内してもらわないといけないじゃないですか。

 連れていってください。その音が聞こえたほうに。

 ゆっくり進んでくださいね。私からあまり離れないように。


 違いますよ!

 怖いんじゃなくて安全のためですって!

 言ったでしょう、夜闇には何がまぎれてるかわかったもんじゃないんですから。


 うげ。

 確かに聞こえますね。

 ええ、私にも聞こえました。

 刃物を研ぐ音に、なんか水っぽい音。

 それに、あっちって。

 あっちは、食堂?


 ええ、わかってますよ。行きます。

 行きますが。

 ゆっくり行きます。ゆっくり。


 前には出ないでください。私の後ろに。

 これでも兵士なんですよ一応は。

 でも、ついてきてくださいね?


 確かに聞こえますね。奥から。

 明かりは、全部消えていますか。

 暗いですが、窓からの星明りで物の陰ぐらいはギリギリ見えるかな?

 テーブルやイスとかに引っ掛けて転ばないようにしてくださいね。

 そーっと、そーっと。


 あれ? 音が消えました。 

 おかしいな。聞こえてましたよね?


 ですよね。

 あっちは調理場です。

 もうちょっと進んでみましょうか。


 ひっ!

 それ包丁あああやめてやめて!

 放して触らないで殺さないでいやああああ!


 え?

 あれ?

 剣の騎士様?


 いや、はい。私、兵士です。夜番の。

 なんか怪しい音が聞こえてきたので、確認しに来たんですが。

 なんでその、そんなギラついた包丁を持ってるんですか?


 え、包丁を研いでた?


 驚かさないでくださいよ!

 なにやってるんですかこの夜中に!

 料理人の朝は早い? あなた騎士様でしょ!?

 だいたい、なんでこんな真っ暗な中で包丁を研いでるんですか!

 あなただって騎士様とはいえ女性でしょ!? 夜中に一人でいちゃ危ないでしょ!

 明かりの燃料がもったいない? そりゃ節約は大事ですけどねえ!

 本気で幽霊かと思ったじゃないですか!

 何言ってるんですか泣いてないですよ!


 ふー。ふー。

 いや、その、すみません。そんな謝らないでください。

 私こそ、声を荒げてしまって。申し訳ありません。

 夜が苦手なもので、過敏になってました。


 つまり、騎士様はただ包丁を研いでいただけだと。

 水音は砥石を濡らしていた音だと。

 なんでまたこんな時間に。外はまだ真っ暗ですよ?


 目が覚めちゃったと。朝食当番だし、最近食堂でつまみ食いがされてるようだから早くここに来たと。

 それならせめて明かりはつけてくださいよ。私じゃなくても警備の兵士が来ますよ?

 笑い声に包丁を研ぐ音なんて聞こえたら、ねぇ。


 えっ。

 笑ってない?

 そもそもしゃべってない?


 いやいや。

 またまた。

 そうやってまた私をおどかそうとしてるんでしょ。

 もうだまされませんよ?


 えっ、本当?

 いくらなんでも包丁を研ぎながら笑ったりはしない?

 だって、食堂に入るときもどこかから小さな女性の声が。

 あっちって。


 えっ、言ってない?


 ……えっ?


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