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第2話 開拓村で走る理由

 あ、どうも。こんにちは。

 はい。自分、開拓村の警備兵です。

 今日は村の外周警備でしたが、ちょっと急いでまして。あっちまで走らなきゃいけないんです。このまま失礼しますよ。


 あら、ついてきます? 質問がある?

 はいそうです。魔獣接近中ですね。警戒態勢ってやつです。

 自分は今さっき、そのことを兵舎まで伝えてきたところです。伝令が終わったので、これから村の外周の防壁まで戻るとこなんですよ。


 ああいや、襲撃でなく接近です。まだ避難まではしなくて大丈夫ですよ。

 襲撃だと見張り台の鐘がもっとガンガン鳴ります。そうなったら一般人は避難ですね。

 まあ現時点では接近段階とはいえ何があるかわからないし、防壁には近づいちゃダメですよ。


 え、見回り当番?

 あー。兵士でない開拓民の皆さんでも交代でやってもらってるやつですか。

 ええ、そうですね。聞いてます。見回り当番の人ってこういう時には状況確認しなきゃいけないんですよね。


 で、それが当番の人に持たされる証明用の木札と。

 はい。確認しました。


 そういう制度ができたって通達は受けてましたが、大変ですねぇ。

 ではこのまま自分についてきてください。ちょっと走るペース落としますんで。


 それでも速い?

 ははは。これでも鍛えてますからね。


 自分ら兵士は、訓練でたくさん走らされるんですよ。

 軽装で走って、武器を持って走って、鎧を着て走って、荷物を持って走って……。

 通常装備の兵士一人を背負って、この村の外壁から兵舎まで休まず運べるようになったら一人前ですかね。


 なんでそれで一人前か?

 兵士一人を運べるってことは、村の外壁防衛でケガして動けなくなった兵士を兵舎まで運ぶことができる、ということだからです。

 仲間を助けられてこそ一人前ってことですかねぇ。


 でも、この開拓村には自分よりもっと速い人がいますよ。

 ほらほら。今、自分たちを追い抜いて行った人。

 あれは外壁警備の正騎士様です。

 鎧を着ていないとはいえ、速いでしょ。全力疾走ってやつです。あの人にはさすがに追い付けません。


 後ろにリスとキツネの子が付いていってますね。

 あの騎士様は獣使いで、獣騎士と呼ばれています。

 あの動物の子らは騎士様の使い魔なんだそうです。


 見ての通り、騎士様本人も短距離なら小動物並みの速度で走れるんですよ。

 すごい身体能力ですよね。獣使いってあまり見ないですけど、みんな走るの速いんですかね。


 さあ、もうすぐ防壁です。苦しいでしょうがもう少しなのでがんばってください。

 獣騎士様はもう防壁の上にまで登ってますね。速い速い。

 ああ、無理はしないで。息が切れ切れじゃないですか。

 落ち着いて、ゆっくり登ってきてください。


 はい、お疲れ様でした。

 ここからなら接近してきた魔獣の様子が見えますよ。

 んー、どうやら発見時から大きな変化はないようですね。


 あっちの草むらにいる茶色いの、見えます? 十匹ぐらいの群れ。

 おそらく、ノコギリジカです。

 鹿の魔獣ですね。


 そうです。あのまっすぐ伸びた角、表面がギザギザしててノコギリっぽいからノコギリジカ。そのまんまでしょ。

 実際、抜け落ちたノコギリジカの角を使うと、ちょっとした木なんかはゴリゴリ切れるそうです。


 もし村の外でノコギリジカに出会ったら、すぐ離れてくださいね。間違っても近づかないように。

 あいつを怒らせたら頭を下げて突進してきます。そして頭突きされます。

 はい、あのノコギリのような角つきの頭突きです。

 普通に死ねます。


 もし追われたら逃げられるか?

 それは無理かと思いますよ。

 あっ、ちょうど一匹、走りはじめましたね。

 防壁に向かってきます。


 ほら見てください、速いでしょ。獣騎士様よりもっと速いです。

 あんな速さで突っ込んでこられたら逃げられませんて。

 さすがに魔獣の本気の走りには人間だと相手になりません。


 村に入ってこないか?

 まあここは防壁もあるし、手前の空堀は広く作られてます。あれを飛び越えられることはないと思いますが。


 あ、こけた。

 あーあー。頭から地面に突っ込んで転がって転がって。

 そのまま空堀に、落ちましたね。


 あのノコギリジカ、なんでこけたんでしょうね。

 あのへんには罠は張られてないはずですが。

 誰か弓で撃ったのかな?

 でも、矢は刺さってないっぽいですねぇ。


 ああ、なるほど。わかりました。

 そっちで獣騎士様が細い筒みたいなのを振って喜んでるでしょ。

 あれ、吹き矢の矢筒です。


 きっとあれでノコギリジカを撃ったんでしょう。

 獣騎士様ってああいう狩猟道具の使い方がうまいんですよ。

 あの距離で当てるのは獣騎士様以外だと無理なんじゃないですかねぇ。


 他のノコギリジカたちは逃げ始めたようです。

 これで警戒態勢は解除されますね。

 お疲れさまでした。


 え、もっと速く走れるようになりたい? ノコギリジカから逃げられるくらいに?

 ふむ。気持ちは分かります。

 この村の周りにはまだまだ魔獣が出ますし。


 目標を立てたい、この開拓村で誰の足が一番速いか?

 そうですねぇ……。

 魔獣は別として、でいいんですよね?


 まあ、基本的には獣騎士様が一番早いと思います。

 さっきも見たでしょ? あの人が走ってるの。

 あの速度に追いつける人はなかなかいませんよ。


 ただ、条件次第では同じくらいの速さで走る人はいますよ。

 たとえば、飛竜に乗ってる竜騎士様。


 あの人、竜のこととなると足がめっちゃ速くなります。竜が好きすぎるんですよ。

 あとこれは未確認情報ですが、ある騎士様は女がからむと誰よりも足が速くなるとか。

 こっちは女好きがすぎるんですね。


 そうそう、もう一人いました。

 ほら、あそこ。村の宿舎から突っ走ってくる女性がいるでしょ。

 それこそ獣騎士様くらいの速さで。


 あの人も正騎士です。剣の得意な、剣騎士と呼ばれている方ですよ。

 まあ今は剣じゃなくて包丁を握ってるみたいですが。

 そうです。あの人は料理が好きすぎるんです。

 たぶん、ノコギリジカが出たと聞いたんでしょうね。


 ああ失礼。今のは自分のお腹の音です。

 安心したら腹が減ってきたもので。

 今日の晩飯、鹿肉が出るのかなぁ。


 まあ誰を目標にするかはお任せしますが、走る動機に自分の好きなものをからめてもいいかもしれませんね。

 今言った騎士様たちの足が速い理由って、まさにそれです。

 好きこそものの上手なれ、なんて言葉もありますしね。


 あと、無理はしないよう気をつけてください。

 昨日まではなんともなかったのに、いきなり走れなくなるってこともあり得るのですから。

 いや、ほんとに。


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