第1話 開拓村での雨の日の過ごし方
あ、どうも。おはようございます。
外には出ないほうがいいですよ。けっこう雨が降ってますから。
あの空模様だと今日は一日降り続けそうですねぇ。
この地方はあんまり雨が降らないんですけどね。これほどまで強い雨は珍しいですよ。
自分ですか? 見ての通り、ここの警備ですよ。
雨に紛れて魔獣がやってこないとも限りませんから。
え。騎士なのに警備してるのかって?
ああ、いやいや。自分は騎士様じゃありません。
確かに開拓騎士団には所属してますけど、ただの一般兵です。
騎士団と言っても、所属する全員が騎士の身分を持ってるってわけじゃないんですよ。
この村にいる正騎士様は九人で、あとは普通の兵士ですね。
紛らわしいでしょ。
あなたは先日この村まで移動してきた開拓団の人ですね。
ちょっとお話したでしょ。覚えてますよ。
農作業?
今日は中止だそうです。さっき通達がありましてね。
ほら、外を見てください。土の道が雨でドロドロでしょ? 風もちょっと強いし、こんな天気で外に出たら危ないですって。
今、外に出てるのは巡回の兵士たちくらいじゃないですかね?
とくに作業を指示されていないのなら、割り当てられてる宿舎のお部屋で一日のんびり過ごすのがいいと思いますよ。
え? やることがない?
暇つぶしになるなにかがないか、ですか。
まあ、いきなり丸一日部屋の中にいろって言われても困りますかね。気持ちは分かります。
うーん、そうですねぇ……。
この村、娯楽がないんですよね。
村自体が最近できたばかりだから仕方ないんですけども。
必要な施設とかを作るの優先で、それもまだいろいろ足りてないんですよ。
ああ、クロスボウって撃ったことあります?
そうです。普通の弓じゃなくてクロスボウ。引き金を引くだけで撃てる、いわゆる仕掛け弓ですね。
もし興味があるなら、あっちの扉から出て廊下をまっすぐ進んでください。
奥に射撃訓練場があるんですが、そこにいる兵士に頼めば練習で撃たせてくれるでしょう。
撃ってみると、なかなかおもしろいですよ。矢が勢いよく飛んでいってズドンと的に当たるのって、意外と迫力ありますし。
なんでそんなことをやってるのかって?
この村では、前にあったトラブルのせいで兵士の多くがクロスボウを扱うようになりましてね。
いやー、あの時は大変でした。乗り切れてよかったですよ。
その時の影響で、この村ではクロスボウの習熟が奨励されてましてね。
兵士同士で射撃の腕前を競い合ったり、周辺で採取される素材を使ったクロスボウの試射をやらせてもらったりとか。
開拓民の人でも、やる気がある人には撃ち方を覚えさせる方針なんだそうです。
今度、村内でクロスボウの競技会をやるなんて話も出てましてね。
誰でも参加可能ですから、やる気があれば練習してみるってのもいいんじゃないかと。
あら、ダメですか? 怖い?
武器なんて触ったことないと。
まあ、それなら無理にとは言いませんよ。強制でやらせるものではありませんしね。
そういう物騒なほうじゃなくて、楽しそうなことをしてくれる人はいないか?
たとえば吟遊詩人に大道芸人、ですか。
さすがに今はいませんねぇ。
今回の開拓民に選ばれたのは大半が農民だったはずです。
そういう芸事に長けた人たちが来るとしたら、村の規模がもっと大きくなってからですね。
え? それっぽい人を見た?
ハープを持った金髪の女の子とか、動物っぽい格好した子供とか?
あーあー、あー。
それ、うちの騎士様です。
うーん。まあ、言いたいことはわかります。騎士らしくないですよね。外見とか言動とか。
でも、間違いなくここの騎士様です。正騎士様。
少なくとも、今この村には芸を売り物にしてる人はいません。
それっぽく見える騎士様がいるだけです。
なので、そういう人たちに芸を要求したりしないよう気をつけてくださいね。
気さくな人たちですし多少の間違いなら許してくださるかもしれないですが、だからといって無礼なことをしないように。近くの兵士たちにとがめられますよ。
あの人たちは、自分たちが大変な時でも私ら兵士を見捨てず一緒にこの村を作ってくれた、恩人なんですから。
ああ、いえいえ。怒ったわけではないんです。
理解してもらえたならいいんですよ。
だいぶ話がずれましたね。元に戻しましょうか。
暇つぶしになるものを探してるんでしたね。
部屋の中でできるゲーム類ってのも一応はあるんです。
ボードゲームやカードゲーム、ダイスなんかがね。
ちなみにそれらの遊び道具はここの開拓騎士団の共有物です。
あっちに食堂あるでしょ? あそこは食事時間以外でも解放されてて、そこに非番の兵士たちが集まってよく遊んでます。
でもねぇ。
ゲームに使う駒とか道具の数が少ないんですよね。
だから遊びたい人が多いと交代制になるんですよ。
今日は雨で暇してる人が多いだろうし、やろうとしたらだいぶ待たされるんじゃないですかねぇ……。
見てるだけで楽しめるのであれば、食堂に行ってみてもいいと思いますが。
ああ、遊び道具を自分の部屋に持っていくのはダメですよ。ただでさえ数が限られてますからね。
お店で扱ってないか?
と言われましてもねぇ。そもそもこの村にはまだお店がないんですよ。
今あるのって宿舎と兵舎に倉庫、あとは馬小屋に薬草加工小屋ぐらいですか。他はまだ建設中ですね。
畑の開墾からして、本格的にやるのはこれからですし。
開拓本部からの配給もあるでしょうけど、そっちは生活必需品が優先です。娯楽品が届くのは当分先でしょうねぇ。
ここは開拓予定地でも一番はじっこだから行商人も当分は来ないでしょうし、そっちはあまり期待しないほうがいいと思いますよ。
え。いっそ自分で作ってみる?
ボードゲームの駒とかを?
別に凝ったものを作る気はない、雑な作りでも駒と分かればそれでいいと。
それはそうかもしれませんが、自作しようとするとはなかなか気合い入ってますね。
まあでも気持ちは分かります。
ここって忙しいときはあちこち走り回らなきゃいけませんが、暇なときは本気で暇ですからね……。
それであれば、そっちの廊下の先の部屋に行ってみてください。
立ち番の兵士がいるところが臨時の木材加工場になっています。
そこなら木材の余りや切れ端を分けてくれると思いますし、工具も借りられるかもしれません。
材料代や工具代?
駒なんかを多めに作って、それを代金がわりに渡せばいいんじゃないですかね。
なんなら私も一緒に行って説明しましょうか。
そろそろ交代の時間ですしね。
なんでそこまでしてくれるのかと?
そうですねぇ。
あなたが遊び道具を多く作ってくれれば、それを使ってこの村のもっと多くの人が楽しめるから、ですかね。私も含めて。
この村は我々にとっての家みたいなものです。
家という場所で過ごす時間は、楽しめてこそですから。
楽しみを増やしてくれるというのなら、大歓迎ですよ。




