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22 提案と疑い

「超絶美少女と美少女のコンビで教室内を立ち回れば、幼馴染先輩の人気もアップ! ペアとしての注目が高まれば、相対的に転校生先輩の注目もダウン! バランスもとれて見事に『調整』解除! クラスのみんなもいいものが見れて幸せっす! そのクラスにいれる生徒が羨ましいっすよ!」


 仮にも『運営』の一員とであるからか、放課後の校舎裏にて急速にテンションをあげていた。勢いの上昇と口の回転は止まりそうになく、


「いつでもどこでも、女子同士で仲良くいちゃつくのは正義っすからね。そういったメタをきちんと抑えて取り入れるのは何よりも大事すよ。何なら先輩は全然いらないまであるっす。いくら教室での扱いが空気だといっても、先輩入れると空白感とか違和感が出ちゃうかもしれないっすから、接触禁止まであるかもですね」

「いやさすがにそれはひどくないか? 俺が少し話しかけるぐらいは……」

「その油断と慢心、お二方のお顔を眺めてもっかい言えるっすか?」


 耳元の囁きに促され、まっすぐ前をみる。

 顔がいい幼馴染と、めちゃくちゃ顔がいい転校生がいた。


「ここに混じって、二者の生み出す幸せ空間より尊いものを作れますか?」

「とう、とい……」

「邪魔にならずに、かけがえないものを生産できます?」


 ……無理じゃないか。この二人に混じった俺なんて、ハンバーグとエビフライの間にあるパセリみたいなものだ。つまり、比位陽名斗はいらないやつ。


「……元気にうんと頷けないみたいっすね」

「俺の惨状より、夏那と斗乃片をどうにかするほうが簡単で優先か」


 言葉にして深く飲み下すと、残念だが確かで微動だすらできない。

 ぴたりと静止した俺に対し、すかさず後輩はうざったい感じで畳みかけてくる。


「わかったら、先輩が尊いコンビに入るのは諦めるのです。解決を待つまで、余っちゃったあたしとでも適当にだらっとお喋りでも――」

「私からすると、それはよくな――」

「よくないよ! わたしはヒナトも元に戻したいからダメだよ! クラスでもわたしたちと一緒にいること!」

「それじゃあヒナ先輩どころか、先輩方までちゃんと『調整』から逃れられるか微妙になっちゃうっすよ。男の子抜きの方が荒れないっす! 安全っす!」

「そーなのかな? なんか言葉が無理に強くて、逆にあやしー感じがする……。ね、あなたのことってほんと? ほんとにほんとう?」


 幼馴染はじりじりと下級生に迫り、柔らかい声でじっくりじんわり押しつぶそうとしていた。前者が一歩一歩近づくごとに、後者がその倍の距離を後退する様子は微笑ましくて仕方ない。


「ほんとっすよ! ぜ、ぜんぜんまったくあやしくないっすよ……。あのですね、先輩にとって、一番よくなるよう、誠実にお話してるのに、ワタシ……」


 なんて、思ったのは間違いだった。

 後輩の声は段々と小さくなり、相手と向かい合う瞳は潤んで震えていた。弱弱しさが前面に出ていて、申し訳ないが少しかわいい――じゃなくて。

 話しぶりと調子の良さから忘れてしまいがちだが、個々奈心は人見知りだ。


 昨日だって斗乃片が登場した瞬間に逃げ出していたし、さっきもさっさと逃走しようとしていた。残念ながら逃れられなかったためにしぶしぶ会話していたが、それも無理があったらしい。

 今のように少し圧力をかけられるだけで、崩壊してしまう程度の擬態だ。

 てっきり、一度話し始めてしまえば大丈夫なものとばかり。今の縮こまった姿を見る限り、考えを改めなきゃいけない。


「疑いの目、向けないでくださいっす……あたしの言ってることはまじっすよ。そりゃほんとになるかは分かんないっすけど、ほんきすよ。信じて、ください……」


 圧のある態度に負けて、見慣れた小さな姿がますます縮んでいく。

 夏那はそれでも警戒心を解かず、言葉を聞くたびに首を捻り、


「なんか、引っかかるっていうか、なんなんだろ……本能が訴えてるって感じ」


 疑問を抱くが最終的にはブレていない。

 いつもは棘のある印象がないのに、今だけはハリネズミさながら。

 一転して、普段は棘で覆われた薔薇のような斗乃片が、


「七都名さん、ここまで怯えているのにじっくり詰めるのは可哀そうだわ。この様子だと嘘もついてなさそうだから、その辺りにしてあげましょう? あんまり厳しく問い詰めてしまうと、この子はなりふり構わず逃げてしまうし……」 


 恐ろしく柔らかな物腰に変じている。反応からするに、初接触で思い切り避けられたことが大きいらしい。

 意外に気にする方なんだな……とつい零しそうになって、勝手に動き出した舌を歯で抑え込んだ。


「斗乃片さんが、そういうんだ。意外、かな? もしかしてなんだけど、小動物とか赤ちゃん主体のファミリー動画を見ちゃう人?」

「何を言っているのかしら。それは、誰もが欠かさず見るものよ。水を飲むのと同じことでしょう?」

 「なるほど、わかった。わたしがちょっと誤解していたみたい。斗乃片さん、きっとこういうのにすっごく弱い人だ。『あざといのに弱い』っていう属性持ちだ。ずる……」


 すべてを悟ったと、全部まるごと理解したと、顔つきの些細な変化も合わせて幼馴染はしきりに語った。

 だが相手は、やられっぱなしでいられるような人間でない。



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