ご免なさい、僕は普通の人間なんです。1-1は、わけあり空室
段取り良く次の日、修理の内装業者が来た。
階下の山崎が仕事で出掛けたのを確認し、作業に入ってもらった。
業者は、気の毒そうに僕に話し始めた、
「一階の人まだいるの」
なんでも業者の話では前に1-1と1-2の壁の補強防音工事をしたとの事で、その理由を訊いて背筋がゾッとして、寒気が全身を覆った。
1-1の住人は新興宗教に帰依していて毎晩大声で読経し太鼓をたたき、鐘を鳴らす、当然山崎は例のごとく包丁を持って
「うるさい」
と、ねじ込むが、宗教のため埒があかない、いがみ合いが続いたある日、
頭にきた男は自分の勤める建設会社から、地ならしの建設機械を自分の部屋に持ち込み、
ガタガタと大騒音を立てて、山崎を挑発したそうだ。
体力に、まさる男は徹底的に山崎を痛めつけた。
しかしここで大変な事が起きた。
山崎は自室に閉じこもり、静かになったと思った瞬間
「うおーー」
と言う大悲鳴が聞こえた。
山崎の部屋のドア下から真っ赤な血が流れ出して来たそうだ。
山崎は騒音に耐え切れず、自分の両耳を切り落としたのだ。
ここで勝負は決した。
救急車が呼ばれ、山崎は入院。新聞沙汰となり
「馬道町のゴッホ、耳を切る」
の見出しで新聞の三面を飾る事となった。
世間をを敵に回した男は精神的にすっかり参ってしまい数日後1-1で首を吊り自殺した。
退院した山崎のたっての希望で、防音工事が行われこの工事を担当したのがこの業者だった。
天井の修理は一時間も掛からず終わった。
作業より、業者の話に僕は震えあがり、半べそをかいていて落ち込んでしまった。
その様子を見て気分を変えようとしたのか、笑いながらこんな話をした、
退院した山崎は本当にゴッホの自画像のように包帯をしていたそうだ、
そして、笑いを堪えてこう言った、
医者が左右の耳を反対に上下反対に縫合してしまい、バランスの悪い顔になってしまったと言うのである。嘘のような本当の話だと笑った。
僕は笑えない、そう言えば山崎の顔の不気味さは変なバランスの耳から来ていたのか、そう言えば、耳たぶが上にあった。変に合点がいつた。
ところで工事の立ち合いに、立花しおりは来なかった。
忙しいかもしれないが、顔位い見せてもいいだろう常識が無い等と考えているうちに、この事は警察に報告しておいた方がいいだろうと思った。
何か繋がりがあるかもしれない何しろ隣は過激派なのだ。
警察に僕は報告に行った。
三階の以前取り調べを受けたカウンターに行き呼び鈴を鳴らすと、婦警の姿になった立花しおりと上司の刑事が現れた。
そう言う事か、刑事の説明を受ける前に合点がいった。立花しおりは潜入捜査をしていたのだ。