ご免なさい、僕は普通の人間なんです。 真実とは 2-3の助け人
感じ方は、人それぞれ。
僕は瞬間、山崎と名乗る真下の部屋に住む男と言うことは理解できた。が他の話はまるっきり理解不能だ。
山崎は包丁を突き出し、僕に襲いかかって来た。
咄嗟にかわした僕は腰を抜かし畳に倒れこんだ。
「鶏は何処だ、何羽いるんだ、眠れないんだ、殺してやる」
荒い息の僕は言葉もなく、近くにあった箒を持って身を守った。
「山崎さん、山崎さん、落ち着いて、落ち着いて、鶏は逃げましたよ、ほら居ないでしょ」
と長身の三十代ぐらいの男が現れ声を掛けてくれた。
男はニヤケタ顔で、僕に目配せをして、
「あんた、全部逃がしたんでしょと。どうなの、」と問いかけてきた。
「え」僕は訳が分からないまま立ち尽くすと
「どうなの」思わず「逃がしました」と答えてしまっていた。振り返ればこの時から全てが狂い始めた。
「あんた、鶏なんか持ち込むんじゃないよ、山崎さんに謝って」
「え、すみませんでした、ご迷惑をおかけしました。ごめんなさい」その僕の言葉に男がたたみかけた。
「山崎さん、今日の所は許してあげてください、この通り反省しているし」山崎の表情が少し緩んだように見えた。山崎は包丁を引っ込めて、ぶっぶっ言葉にならない音を吐き捨てて部屋を出ていった。
「ありがとうございました、おかげで助かりました」僕はまだ腰を抜かしながら、男に礼を言った。
男は隣に住む高山と言う男だった。まあ気をつけて、ここはいろんな人がいるから、隣同士よろしく、と言うようなことを言って、高山は隣の部屋に消えた。
その晩僕は息を殺して寝た。トイレの音もしないよう、溜めて朝になってから流した。
次の日僕は、朝一で不動産屋に駆け込んだ。昨夜の事件をこの地域の町内会長も務めるという不動産屋の社長に、捲し立てた、社長は今まで、何度か同様の事があったことを佐藤に伝え謝罪した上で、ついては、これから山崎の部屋にいつしょに、話に行こうということになった。
山崎の部屋は昼からにカーテンを引いて薄赤い裸電球のみの穴蔵を思わせる空間だった。
社長がこれで三回目だと、怒り佐藤さんに謝れと促すと、山崎は泣きなら話し出した。
「本当にうるさいんです、私も努力しているんです、見てください、こんなに買って、こうして、いつも過ごしているんです。」
山崎は耳に手を当てた。
よく見ると、床から、棚から、おびただしい数の耳栓が転がっていた。
僕はそれを見て、ぞっとした。
山崎には、確かに聞こえているのだ。
無い事も、ある事に思えているのだ。僕は山崎の事情を確信した。
山崎は、社長の手前か、ひたすら二度としませんと謝った。結局これ以上の進展はなく、社長と僕は部屋を後にした。
帰り道で僕は「解約します。」と社長に告げた。社長はなだめるように、家賃の値下げを話しだした、二万円を五千円でいいというのである。
まいった。