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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

サイボーグ転校生

作者: 浅葱零

※終盤にお下品なネタがあります。特に、お食事中の方は心してお読みくださいませ。




 今夜の刺客は三流だった。


 手頃な高架下に気絶して伸びた男たちを運び下ろすと、風祭瞬介(かざまつりしゅんすけ)は溜息をつく。

 まだ時刻は日付を跨ぐ前だ。


(これではトレーニングにもなりはしない……)


 三名の敵を倒すのに要した時間は二分程度か。

 後片付けに連中を背負って輸送するほうが手間が掛かったくらいだ。


 由緒正しく格式高い御屋敷の近くに、倒れた汚ならしい雑魚どもを転がしておくわけにもいかない。瞬介の雇い主は血が流れることを嫌うから、こうして翌朝にでも発見されるよう適当なところに転がしておくことになる。


(アングロサクソン系にアフリカ系……こっちはスラブ系か?)


 瞬介は手際よく人種も多用な男たちから身につけていた得物を回収する。

 持たせておいても瞬介自身にリスクはないが余計な面倒事は避けるべきだ。


(雇われの暗殺者か)


 統一性のない武装からそう判断した。

 所持品から雇用主を探り当てるのは無理だろう。瞬介は刃物と銃を荷物にまとめると、持ち場に帰還することにした。


 ビルの谷間を縫うように跳躍し最短ルートで御屋敷に戻る。

 音もなく風よりも早い影が都会の闇に紛れて移動するのに目を停めるものはなく、何事もなく警護の任務につく同僚の前に降りる。


「戻りました」


 日本庭園の砂利の地面に『ジャ』と軽い足音を立てて飛来した瞬介。

 全身の()()が一拍をおいてからタプンと揺れる。


「さすがは忍、仕事が早いな」

「異常なしか……囮ですらなかったようですね」

「平和なもんさ」


 瞬介の同僚は煙草に火を点ける。

 その男はただのくたびれた中年に見えた。

 だがそれは見かけだけのこと。彼はかつて某国の油田を占拠したテロリスト集団を単独で潰滅させ、人質になっていた邦人を含む十数名をひとりの犠牲もなく救出した腕利きなのを瞬介は知っている。


 何よりも一瞬たりとも隙を見せない現在の佇まいが実力のほどを如実に物語っていた。


「警護の任に戻ります」

「おう」


 見かけが真の実力を表にせずに隠しているのは瞬介も同じではある。


 彼は体重百キログラムの肥満体だ。

 他者がその姿を目に映すとき、太った気難しそうな少年がそこにいると認識するだろう。


 だが風祭瞬介は現代に生きる忍者の末裔にして、忍の業界では百年に一人と賞賛される才能の持ち主でもある。

 太った肉体をものともせず、走り、飛び、隠れ、戦うのが彼なのだ。


 そして瞬介は太ってしまっているわけではない。

 自ら選んで太っている状態を維持しているのである。

 百キロフラット。この数年間、グラム単位でその数値を維持していた。絶え間なくカロリーの消費と摂取を調節することは並大抵にできることではない。


 しかし現代の忍はこれを自身のために課していた。

 より優れた忍になるために。

 全身の脂肪は天然の枷だ。まんべんなく四肢に負荷を掛け、その皮下に隠された筋肉を鍛え上げる。

 やがてこの枷を削ぎ落としたとき、風祭瞬介は完全体と進化し人の限界を越えた身体能力を発揮するはずである。


 彼はそのために太っているのだ。ストイックなデブ。それが風祭瞬介であった。


「周辺を警戒してきます」

「まあ、のんびりいこうや」


 同僚の中年男は、生真面目に働こうとする瞬介を止める。

 瞬介は黙って従う。

 同僚だが先輩であり指揮系統は上に当たる相手だ。命令は順守するのが良い忍のありかただ。


 男は肺から煙を吐き出しながら、肩を竦める。


「お前さんは、明日も学校だろう」



 ▽



 松平葵依(まつだいらあおい)は普通の女子高生だ。


 少なくとも本人はそのつもりで日々を過ごしている。

 今朝も普通に起床し、普通に朝御飯を摂り、それなりに時間をかけて身支度を整えてから登校する。


「いってらっしゃいませ」


 玄関を出るときに使用人が頭を下げてくる。


「ええ、いってきます」


 葵依は微笑み返して挨拶を交わす。

 大丈夫。ちょっと我が家が大きくて裕福なだけで、私は至って普通の女の子だものと彼女は自分に言い聞かせる。


 可愛いキャラクタのラバストがついた鞄は自分で持つし、自分の足で歩いて十五分かけて学校まで通う。

 ほら、普通じゃない。と葵依は思った。


「姫」


 太った同級生が膝をついて道中に現れたことで、葵依の気分は少し萎える。


「風祭君、姫はやめてって言ったわよね」

「すみません」

「膝をつくのもやめて」

「わかりました……本日も何かございましたらお呼びください。すぐに駆けつけますので」


 そう告げると風祭瞬介は消えた。


「はあ……」


 普通の女子高生なら同級生の男子が目前から消失したら驚くところだが、残念ながら葵依は瞬介の忍術に慣れてしまっていた。

 どんな仕組みであの巨体が無色透明に成りうるのかにも興味はない。


 彼は葵依が学校生活を安全に送るためにつけられている身辺警護の忍だ。

 消えたように見えてもどこかで見張っていることだろう。


 大丈夫。大丈夫。ストーカーの一匹や二匹くらい、普通の可愛い女子高生ならついてて当たり前だよね。

 葵依はそう考えて自分を納得させる。それは絶対に普通ではないよと教えてくれる者はそこにはいなかった。



 ▽



「今日、放課後は?」

「ダメー、部活なんだ」


 瞬介は休み時間、ノートを取る生徒の姿を擬装しつつも葵依が友人と交わす会話に聞き耳を立てる。


 会話の相手、友野律香(ともののりか)伊藤真美李(いとうまみり)は調査の結果、特別なバックのついていない一般生徒だとは調べがついているが何時なんどきどこかの組織から買収されているとも知れない。

 警戒しておくに越したことはなかった。


「部活、ダンジョンの日だから」

「そっかーじゃあ休めないね」


 瞬介たちが通う高校の地下にはダンジョンがある。

 そのことが幾分かこの学園を他とは違う特殊な環境にしていた。


 竜脈の集まる地層に人智を越えた自然現象で発生した地下迷宮。

 探索すれば必ずといっていい頻度でオーパーツが見つかるこのダンジョンは地上に私立校を建設した学校法人の管理下にある。


 学校は課外活動の一環としてダンジョンに潜ることを認め、回収されたオーパーツを私物化することを許可していた。


 故に、この学校には地元の子供以外にも、日本はおろか世界各地から入学転校してくる者があとをたたない。

 多くは各国のエージェントであったり、大企業に雇われた者であったりする。表向きにはただの高校生を装っているが。


 ダンジョンに潜るには、グラウンドや体育館を使用するのと同じように申請をする必要がある。


 申請できる単位は個人ではなく部活単位だ。

 だからダンジョンに潜りたい生徒は必ず何かのクラブ活動か同好会に入っている。


 葵依の友人、伊藤の所属しているクラブは弓道部だったか。

 弓道部は米国の諜報機関が送ったエージェントがメインで固められているはずだ。

 瞬介にとっては敵対的な組織ではない。


 もうひとりの友人、友野は茶道部だ。

 こちらは英国に本社を置く国際企業のまわした傭兵や研究員が多い。営利目的なので他クラブとは基本的に中立の立場をとっている。


 瞬介の守るべき姫、松平葵依が所属しているのは文芸部だ。

 当然、瞬介も文芸部に席を置いている。

 ダンジョン攻略が認められた日には葵依も武具を手にして地下に潜る。

 この学校では、それが普通のことなのだから。



 ▽



「転校生?」


 葵依は登校中に瞬介からその報告を聞いた。


「井伊研究所に収容されていた少年の話は覚えておいでですか、姫」

「ああ。あの勘違いで重症を負っちゃったって子……」


 数ヵ月前のことだ。


 どこかの組織がオーパーツ目当てに転校生を送ってくるのはよくある話だ。

 だいたい週一ペースで新しい生徒が入ってくる。

 逆に出ていく者も、もろもろの理由で多いのだが。


 その日の転校生は特別だった。


 わずか十二歳当時に、アジアのとある軍事政権をほぼひとりで転覆させた()()()()と呼ばれる工作員がくるというのだ。


 学校に関わる各組織が、これは校内の勢力バランスを崩しかねないと懸念した。

 そして幾つもの特殊部隊が、恐怖の子の転校を防ぐために投入された。


 結果としてそれは偽情報だった。

 だが不幸なことに市街地において、敵対関係にある部隊間での戦闘が発生。

 まーったく関係無い普通の転校生が人違いで大怪我をする事態になってしまったのだった。


「リハビリも順調で、本日から登校するとのこと……文芸部に入る予定です」

「ふうん。でも、その子は一般人なんでしょ……ダンジョンで役に立つかしら。一から育てるの?」

「いえ。前回の探索で負傷した、榊原先輩の代わりの補充員ということですから即戦力の見込みです」

「そうなの?」


 聞いた話では少年は市街戦のさなか逃げ惑うだけだったはずだ。

 それが何故、戦力になるのか理解できない葵依に瞬介が一言でその理由を説明した。


「サイボーグだそうです」



 ▽



 瞬介は不満だった。


 物理的な戦闘力に関しては自分が居ればなんとかなる。

 だが最近では文芸部に敵対する敵や、ダンジョンで遭遇するモンスターが瞬介の苦手とする妖術、魔術を使ってくる場面が増えている。


 だからサイボーグとかいう如何にも物理っぽい味方は嬉しくなかったのだ。


 どうせなら陰陽師とかを派遣してもらいたかった。


 しかし、雇われの身である瞬介に選択の権利はない。

 受け入れて役立ってもらうだけのことである。まさか足手まといにだけはなるまい。そう信じたいところだが。


 朝礼の教室に、担任が転校生を連れて現れた。

 ここではよくある風景である。


「ども──藤堂鉄矢(とうどうてつや)です」


 特に際立った特徴のない地味な少年だった。



 ▽



「ほんとにサイボーグなんだー!」


 文芸部の部室で葵依に請われて、鉄矢はサイボーグっぽいところを見せるはめになっていた。

 部員は味方で鉄矢の素性や事情は心得ているとのことなので秘密にする必要はなかった。


 とりあえず左腕を外してみた。


「すごいー」

「えへへ」


 腕を取り外したあとも無線で繋がっているので指は動く。


「気持ち悪いー」

「てへへ」

「貴様、姫に対して馴れ馴れしいぞ!」


 瞬介が怒る。

 文芸部のバックにあるのは松平グループという企業組織だ。

 葵依はその御令嬢、姫なのだ。ただのサイボーグ転校生ごときが同等に接していい相手ではないというのが瞬介の見解である。


「まあまあ。時間が惜しいわね。藤堂君の実力も知りたいところだし早くダンジョンに向かいましょう」


 現在、唯一の三年生である酒井沙耶香(さかいさやか)が言った。

 彼女は井伊研究所に所属する研究員だ。ダンジョンでは主に弓矢を持って戦う。


 榊原が不在の今、酒井に瞬介と葵依、そして鉄矢を加えた四人が文芸部の戦力となる。


「そうだね。行きましょう!」


 ロッカーから葵依が日本刀を二振り取り出した。

 彼女は二刀流で戦う。姫はごりごりの前衛職なのである。


 瞬介も忍者刀を手に取った。


「藤堂君は何で戦うの?」

「俺は全身が武器だから」


 装備を揃えた文芸部は廊下を進む。

 武装した生徒が普通に歩いているのはこの学校では日常だ。


 ダンジョンの入り口まで降りるエレベータの前に一行は立つ。


「よし、みんな油断しないでね!」


 エレベータで降りた先はもうダンジョンだ。

 四人の顔は引き締まり緊張している。

 意を決して、酒井、鉄矢、葵依、瞬介の順でエレベータに乗り込んだ。


 だがブザーが鳴る。


「重量オーバーだと?」


 一斉に瞬介をみんなで見る。

 絵的には百キロ体重の彼のせいにしか見えない。


「いや、絶対にこいつのせいだし!」


 サイボーグはとても重いのだった。



 ▽



 鉄矢のおかげでダンジョン攻略はとてもはかどった。


 実は瞬介が欲しがっていた霊能力による戦闘も鉄矢は得意としたりしていた。

 全身を機械に取っ替えるほどの怪我をしたとき、鉄矢はあの世をちょっと見てきたりしたのだ。霊的になんか目覚めちゃったわけだ。

 そのせいで科学では説明のつかない不思議パワーでのバトルもできてしまうのである。


 ワイヤーで繋がった左腕をロケット噴射で飛ばして殴るだけではなかったのだった。



 ▽



 それからというもの文芸部は数回のダンジョン攻略でかつてないレベルでのオーパーツ回収を成し遂げた。


 その辺の国家のひとつやふたつ、買い取ったり滅ぼしたりできるくらいの成果だ。


 もちろんこれは良いことばかりではない。

 文芸部に妨害をする他クラブが後を絶たなくなったからだ。



 ▽



「また貴様らか……」


 瞬介はうんざりとした口調でそう言った。


 松平グループのライバル企業、豊臣カンパニーのまわし者に呼び出されたからだ。

 この学校、何をふざけているのか事前に生徒会に申請しておけば生徒間での決闘を許可している。


 校舎の屋上で鉄矢、葵依、瞬介の前に対峙する敵対生徒たち。


 石田、加藤、福島の三人だ。


「このあいだ返り討ちにしたばかりだろうに!」

「待って、様子がおかしいわ」


 不審に思った葵依に、鉄矢が同意する。


「たしかに……何か禍々しい気配がする」


 鉄矢はサイボーグだが霊感が鋭い。


「ふっ──気づいたか君たち! ならば出し惜しみ無しでやらせてもらう!」


 石田たちがおもむろに内ポケットから取り出したのはダンジョンから発見したオーパーツだった。

 針の様なものが突きだしたそれを躊躇いもなく三人は自分の肉体に突き刺す。


 途端に彼らの身体は二倍近くに膨れ上がる。

 もったいないことに制服は膨張した筋肉によってビリビリに破かれた。先に脱いでおいたほうが経済的だったというのに。ただ、腰まわりだけは上手いこと破れずに残っている。


「今日が文芸部にとって最期の日だ!」


 石田が宣言する。何故か悪そうな感じで声にエコーまで掛かりながら。

 ちなみに彼らは卓球部だ。


「姫、お気をつけを!」

「私は大丈夫よ!」

「来るぞ!」


 葵依は福島と、瞬介は加藤と、鉄矢は石田と戦う。


 オーパーツでドーピングした敵は強かった。

 通常の三倍くらいは強かった。


「女だからって容赦しないぜ!」


 二刀流で戦う葵依も圧された。

 巨大化した福島の連撃に防戦するしかなかった。


 だが葵依のブラウスがちょっとだけ斬れて下の下着がチラ見したとき、敵の目付きに卑猥な欲望が宿るのを確認したときそれは起きた。

 葵依の防衛本能が眠っていた姫巫女の能力を覚醒させたのだ。


「このどスケベっ!」


 その力で葵依は福島を退けた。



 ▽



「くっ! 戦いかたを変えるしかないか!」


 加藤の強さを実感したとき、瞬介はそれまで守ってきた自分ルールを捨てることにした。

 縛りプレイをやめたのだ。


 瞬介はこれまで、重心を後ろに残したまま戦ってきた。

 体重を攻撃に乗せることをしなかったのである。

 なぜなら瞬介にとって体重はいずれ捨てるものだからだ。


 これを戦いに利用していては将来の自分のためにならない。


 だがときに使えるものはすべて使い戦わなければならない。そういう戦場はやってくるものだ。


「何っ? 突然、攻撃の威力が増した!」

「畳み掛ける!」


 攻撃に体重を乗せるということは、当然ながら空振ったときに大きな隙を作るリスクは伴う。

 だがそんなミスをする瞬介ではなかった。


 怒濤のラッシュ攻撃で瞬介は加藤を弾き飛ばした。



 ▽



 鉄矢はもっと簡単だった。


 三倍くらいに強くなった石田でも、サイボーグ転校生の敵ではなかったのだ。


「くっ……こうなれば……これを使う他あるまい……使いたくはなかった……使いたくはなかったが……仕方ない……やはり使いたくは──」

「使うのか! 使わないのか!」

「うるさいな! もう退学と引き換えでも、サイボーグだけは倒す!」


 ぶちギレた石田は、見るからに邪悪な感じのオーパーツを掲げ上げる。


「魔獣召喚ッ!」


 これでもかというくらい晴天だった空がいきなり曇る。

 雷まで落ちてきた。

 サイボーグは雷とかものすごい標的になりそうだがラッキーなことに鉄矢には当たらなかった。


 その代わりに目の前に落雷したかと思うと、見たこともない大きさの生き物がその場に降り立った。


 もうこれラスボスじゃん?って感じの怪物が出てきたのだ。


「ふっはっはっ! これで文芸部も終わりだ。下手すりゃ、学校も、世界も終わりだ!」

「こ……こいつは!」

「いかん! 藤堂! いくら貴様でもこれは無理だ……逃げろ!」


 瞬介が叫ぶ。

 だがサイボーグ転校生は怯まない。狼狽えない。挫けない。


「どうやら、俺の──聖剣クサナギを見せるときが来たようだな」


 冷静に対応する手段を見定めていた。


「聖剣だと……どこにそんなものがある?」

「フッ!」


 聖剣クサナギは松平グループが手に入れたオーパーツでも最強クラスの武器だ。


 通常はサイボーグ転校生、藤堂鉄矢の右太腿の内側にある格納スペースに納められている。

 収納時の大きさは短刀程度で鞘に入っていた。


 これは鉄矢の強い意思に応じて、股関前方に向けて射出される。


「出ろ! クサナギ!」

「おおっ!」

「きゃっ?」


 太腿から出てきたクサナギにより、鉄矢のズボンが異様に膨れ上がる。

 このときに破れないよう配慮して鉄矢の制服ズボンは特注で伸縮するようにできていた。


「貴様! なんて大きさ──じゃなくて、こんなときに何をしている!」

「風祭、まあ見ておけよ……俺の聖剣をな!」


 鉄矢はズボンに手を差し込むと、聖剣クサナギを取り出した。

 見事な装飾に彩られた短刀が姿を見せる。


「ちょっ──貴様ぁ──姫がいるところでなんたる破廉恥な──あっ……そゆこと?」

「さあ、聖剣よ!」


 鉄矢が抜刀すると同時にクサナギは彼の身長よりも長い日本刀へと姿を変える。

 その刀身は霊力に満ちた青白い光に包まれていた。


「いくぞ!」


 鉄矢は左腕を撃ち込むように怪物に発射する。

 角を掴んだ左手。そして、伸びたワイヤーを勢いよく引き寄せることで自ら怪物に飛び掛かる。


 一太刀だった。


 一閃されたクサナギより、巨大な怪物は見た感じのヤバさほどの被害も出す前にサイボーグ転校生によって倒されたのだ。


 ピンチに陥る暇もないままに。


 最強じゃね?と、その場にいた者はみな思ったという。


「よいしょっ……と」


 ただ、ごそごそとズボンの中に聖剣を片付ける姿は、あまり格好良くはなかったが。



 ▽



 不幸な争いに巻き込まれる前は普通だった少年、藤堂鉄矢は今や最強のサイボーグ転校生である。


 だがその身体は歩く企業秘密。

 持ち歩く聖剣は世界遺産級のお宝だ。


 これからも彼を狙う敵は後を断たないだろう。


 だがサイボーグ転校生は怯まない。狼狽えない。挫けない。



 戦え、鉄矢! サイボーグ転校生!






 -完-

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