表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界で2番目の強者  作者: 麗奈@Word
始まりの島国=プラル=
8/48

第八話


「おはよう、諸君。ぐっすり眠れたか?」


昨日とは打って変わって、綺麗に身支度を終えたランスが紫翠たちに朝の挨拶をした。

食事まで用意されている事にウィルまでが驚いている。


「今日は大会なんだ、昂りすぎていつもより早く起きてしまった!」


さぁさぁ、冷めないうちに…と席に座ることを進めるランス。

紫翠、ウィルもとりあえず席について食事を口に運ぶ。


程よく焼かれたパンに溶けかけのバター

綺麗な緑のレタスと真っ赤なトマト

冷たいミルク、そしてモルモル。


「あ、紫翠お姉ちゃんはモルモルには砂糖をかけた方が好きって言ってたよね?はい、お砂糖。」


「すっぱいのが苦手か?」


「いや、苦手ではない…甘いのが好きなんだ」


普通に食事を囲んでいるのが少し不思議に感じる。

聖羅国でもこんな風に家族団らんで食事を囲むことはなかった。


「そういえば、大会はどこでやるの?」


「王宮の横に俺たちがいつも訓練させてもらってる場所があるだろう?そこでやるってさ。

なんでもキングとその息子たちも観戦するらしい。そんなでかい大会を突然するってとんでもない思い付きだよな。俺としては願ってもないチャンスだけど…」


王宮、この国を知るにはぜひとも入りたいが…

大会に乗じて侵入する事ができるだろうか?


「僕、応援しに行くね。お弁当いるかな…?」


「肉多めで頼む。…なぁ、紫翠。お前も大会出たらどうだ?ウィルを助けてくれたんだから多少腕には自信あるんだろ?ずっと無一文ってのも不便だろうし、入賞すれば賞金も出るらしいから願ったり叶ったりじゃね?」


それは一理ある。


「でもそしたらお姉ちゃん入隊する事になっちゃうかもよ?」


そう、それが面倒である。

だが入隊してしまえば王宮には堂々と入れるだろう。


「……私はこの国を知らない。つまりは知る必要がある。

国軍に入隊する事で知れる事が増えるだろう。参加する価値はある。だが…」


紫翠は口元に笑みを含めながら言葉を続ける。


「私が出てしまうと、ランス…君は優勝出来ないが構わないかな?」


賑やかだった食卓は一瞬にして凍り付いた。



**********************



王宮前、沢山の参加者、観戦者でごったがえしになる中、紫翠は不機嫌な海砡を静止するのに必死だった。

雫型の耳飾りの形状で海砡と炎砡は紫翠の左右それぞれの耳に待機しているが、海砡の怒りに影響して砡が熱を持ち出している。

左手でそっと触れて落ち着くように伝えてはいるが、


(いずれ蒸発してしまうのではないだろうか…)


海砡の怒りの原因はとても分かりやすい。

先ほどからゲラゲラと下品な笑い声を上げている、参加者受付の中年男のせいである。


「ひょろひょろで筋肉のきの字も無いような奴が、参加するって?冗談もほどほどにしとけよー。

まだ色気のある身体なら観客も沸くだろうが…そんな脂肪まみれの大胸筋と大腿筋じゃそんな気すらおきないぜ?」


周りからも小さく笑う声が聞こえる。


『黒騎様!何故御止めになるなるのです!わたくしに掛かればこんな雑魚共一瞬で!』


『落ち着いて。私は大丈夫だから…』


心の中で海砡に伝えるも、砡は熱いままである。

我慢をさせて申し訳ない気持ちになりながらも、口元に笑みを浮かべて中年男に視線を向ける。


「この国の方々は随分、民度が低いのですね…」


ぽつりと呟いた言葉に辺りがしんと静まり返る。

だってそうでしょう?と笑顔で言葉を繋げる。


「他人を蔑む言葉ばかり…あぁ、もしかして私に負けてしまうのが怖いので?」


言い返そうと前に出た出場者らしき人物が口を開くが彼は一言も話せなかった。

紫翠が眼前に微笑み、自身の頬を両手で包んでいるのだ。

深紫の瞳には光が無く、冷たい微笑みで覗き込んでくる。

ヒタリ…と冷たく頬に触れる青の鉤爪は先ほどまで身に付けていなかったはず。

それに、先ほどまで居た場所から自分のいる場所までどうやって一瞬で来れたのか…


「痛っ…」


小さな穴から少しずつ血が出て玉になり、頬を伝う。

そして彼の心にも紫翠は恐怖という傷をつけた。

紫翠の手が離れると彼はその場に崩れ落ち、紫翠から目が離せずにいる。


「…お前は魔術師なのか?」


受付の中年男が平静を装うように問いかけてきたが、

額に浮かぶ汗が、わずかに震えた手が、彼が何かに怯えている事を証明してしまっている。


「正確には違いますが、似たようなものです。…受付番号、頂いて良いでしょうか?」


鉤爪のまま、受付の机をコンと突くと中年男は番号の書かれたバッチをスッと前に差し出した。


「これがあんたの番号だ。会場は分かるか?」


「えぇ、大丈夫。ありがとう。」


会場の方へ歩いて行った紫翠の手にはもう青の鉤爪は無く、白く長細い指しか見えなかった。

中年男は近くにいた黒のポーン兵を見やると彼らは急いで王宮内に入って行くのが見えた。

きっとあの女の事を上に報告するのだろう。

あれが本当に魔術師なのならば、ビショップが放っておくとは思えない。

すぐに自身の部下へと採りいれるだろう。


これ以上、黒の兵が勢いづくのは嫌なんだがな…


受付席から立ちあがり、先ほど腰を抜かしてしまった出場者の所まで移動する。

どうやら彼はもう今回は戦えそうにない。


眼が、完全に怯えている。


彼の番号を確認して、リストから削除する。

今回の出場者は24名…突然の催し物としては多くの人数が集まった。

もうそろそろ受付終了の時刻。リストを渡して、自分はさっさと観覧席に移動しよう。




「海砡…」


雫型の耳飾りに戻った海砡に話かける紫翠。

もちろん、周りには聞こえない程度の小声で…


「頬を傷つけたのはやり過ぎだ。」


『申し訳ありませんわ。つい…』


周りに強さを少しだけ分からせれば良い。

紫翠は傷つけるつもりは無かったが、海砡はどうしても怒りが表に出てしまい、

鉤爪を少し動かして頬を傷つけたのだ。


「良いよ。君の怒りは私を主人として大切にしてくれての事だろうから。

命を奪ってはいないんだ。問題は無い。」


会場に着いた紫翠は辺りを見渡す。

素振りをするランスを見つける…集中しているので声はかけないでおこう。

何人かは紫翠が来た事に疑問を抱いているようだが、気にしない。



時間になるまで、木にもたれて目を閉じていよう__。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ