第六話
鎧姿のままでは目立つそうなので鎧装備だけを外し、市場に出かける事にしたが、
改めて街並みを見ていると一つ気付いた事がある。
「この国の女性は…みな体格が立派だな…。」
「そぉ?僕は逆にお姉ちゃんが小さいなって思ったけど…。」
男性は一般的な普通体型から大柄小柄…沢山いるのに対し、
何故…歴戦の勇者のような筋肉質な女性ばかり…自身と同じ体型は全く見当たらない。
そこらへんにいるポーン兵なんかより店番してる女性の方が屈強な戦士のように見える。
『おいあの女。あんな脂肪たっぷりな胸筋…だらしないなぁ。どこから来たんだ?』
『色気ってのが分かってないな。あんなんじゃ貰い手が見つからないだろうに。』
この国では私は相当だらしない体型という扱いらしい。
海砡に偵察を頼んでおいて良かった。
いたら怒り狂って手が付けられなくなりそうだ。
「いらっしゃいウィル!…ずいぶんとひょろひょろな女の子を連れてるね。」
「こんにちわ、リリムさん。ちょっとお願い事があってね。」
色とりどりの布、装飾品に目をやりつつ周辺を警戒してみる。
市場には数名のポーン兵が見えるが、白ポーンは普通に警備しているようにうかがえる。
だが黒ポーンはこちらをチラチラと注視しているように見える。
(一体なんぶっ……)
「あんた顔は一級品だね。貧相な身体で勿体ないったらありゃしない。」
リリムといった戦士のような体格の女性に布を頭からかけられた。
どうやら私の服を誂えてくれるらしい。
「瞳は濃い紫…髪は黒…おや珍しい、光の当たり方で髪に紫が少し入るのかい。」
「あの、私はお金が…」
「なんだい。あんた無一文か?でも、ウィルからの頼みなら断れないさ。金は要らないよ。
あの兄弟の父親には世話になったからね。今じゃあたしが親代わりさ。
……ウィル!ちょっと店番頼んだよ!超特急で縫ってくるからね!」
黒や紫の布をもったリリムは紫翠の手を引いて店の奥に連れて行く。
とりあえずここは厚意に甘えておこう。
「はーい。あ、リリムさんちょっと紐もらうね!」
ひらひらと了承の意味を込めて手を振ったリリムはそのまま紫翠と一緒に店の奥に消えていった。
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「さて、どうしたものかしら。」
小さな小鳥姿の海砡は高い建物の屋根にとまり街並みを観察している。
視線の先には黒ポーン兵が王宮に入っていく姿が見える。
着いて行きたい気持ちはあるが、流石に見つかるリスクが大きい。
姿を変える事は出来ても消すことは出来ない。
「あら…あれは…?」
王宮の隣に何名かの白ポーンと兵に所属していないような一般の男の群れ。
剣を扱って何かをしているように見えるが、ここからでは声もよく聞こえない。
遠すぎず、近すぎずの木の枝まで移動してみると、先ほどまで一緒にいたランス・ホークの姿が見えた。
(稽古のようですわね…やや大振りではありますが、周りの雑魚よりは大分マシというものですわ。
さすがは脳筋というところでしょうか…)
「ランス。大分良くなったんじゃないか?」
「はい!ありがとうございます!」
腰に細い武器を2本装備した黒髪の男が現れた。
風格…というのだろうか、周りのポーンとは明らかに実力が違うのが読み取れる。
そして、腰の武器…
(あの形状の武器は聖羅国にもありましたわ。なぜこの世界にもあるのかしら…?
あの男…何者なのかしら?)
「そうだランス…。今朝方聞いたんだが、明日催しをするってよ。
剣術、魔術関係なし。真の強者を発掘し、軍に勧誘しようって考えらしいが…お前入隊したがっていただろう?入隊試験はまだ先だが、ここで入賞でもしたら即入隊出来るかもしれないぜ。」
それを聞いたランスはみるみる喜びの表情に変わっていく。
まわりにいた男たちも腕試しに出てみようかと参加するつもりのようだ。
「それにしても随分急な話ですね。自分としては嬉しいですが…。」
「まー…しょせんは思い付きだろう。我らがキング様かクイーン様…はたまたその息子達かしらんけどな。」
男は鞘から武器を取り出しランスに向けた。
すらりと細長い刀身はどこか美しさも感じられる。
(隙が…見当たりませんわ。相当の手練れですわね…)
「ランス、お前には期待しているんだ。俺が直々に鍛えてやる。」
男はニコニコと笑顔を向けているが
隙の無い姿に男の実力が相当の物であると気付かされる。
「ロドリー様に直々に指南していただけるのは光栄ですが…二刀流でしたっけ?
…なんだかずるいです!」
「二刀流は男のロマン!初めは一刀流しか選べなくても、レベ上げで二刀流スキルを手に入れるのは俺のお決まりルートだ!うらやましかったらお前も腕を上げれば良い!」
(お…おしゃべりすると残念な方ですわ…。)
笑いながらランスの攻撃を受け流す黒髪の男にいささか残念さを感じた海砡は、
この場所に居てもこれ以上は無駄な時間を過ごすだけと判断し、その場を飛び去った。