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世界で2番目の強者  作者: 麗奈@Word
霊山の国=ファランディオ=
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第四十三話


予想すらしていなかった。

私が、何故こんな話をされなければならんのだ。


「未来視はね、視ようとして視るものではないの。

勝手に視えてしまう不規則なものなのよ。だから私はとても不思議なの。」


母の「貴女とお話が出来るのを楽しみにしていたの。」という言葉に、

私は単に話相手をすれば良いとだけ思っていた。

だが、その予想を上回った内容が先ほどから話題に上がり続ける。


_私の父親が誰か_


「白龍の子が必ずしも白龍とは限らない。

下位の龍同士の間から最上位種が産まれることだってあるんですもの。

でも貴女は私の子。それは視えたから分かるの。

でもお相手は誰なのかしら?聞いてしまえば早いのだけれど、

あんまり現在を弄ると未来が変わってしまうかもしれないから聞けないし。」


可愛らしい振る舞いや言葉に、

あぁ、私の姉上はこの母とそっくりだと感じる。


「皆のお顔が見れたら、誰に似ているか分かるのに…。」


少しだけ寂しそうに呟く母に、

私は得意分野では無い話を振ってみる。


「聖王様は気になるお方はいらっしゃるのですか?」


その問いにほんのり赤味が差した頬に、

私は更に問いかける。


「いらっしゃるようですね?」


まだ当時の母は若い。

姉上や私とあまり変わらないだろう。

この若さで聖王として即位し、きっと周りにはこんな話など出来ないだろう。


「安心して下さい。

その人が父であろうとなかろうと、私の口からは言いません。」


「うぅ…居るわ。居るけれど、彼はどう思っているかも分からないの。」


赤い顔で俯く彼女に私は口が緩むのを我慢しながらさらに話題を広げる。

ぽつりぽつりと話す彼女の姿は

先ほどまで見ていた賢王としての姿ではなく、まだまだ可愛らしい子供のようである。


「彼とは幼い頃からずっと一緒にいるの。

昔から居るから気心知れている仲ではあるけれど、

即位してからは私を聖王として扱ってくれているわ。

でもそれで少し彼との間に壁が出来た気がして…。

私は聖王だから、彼にあんまり気安く声をかけれない。

彼も聖王に対して気安く話しかけれない。

下手すれば不敬だと言われてしまうから歯痒いの。」


ふぅと小さくため息を吐く聖王に私は少し頭の中で思案する。

話を聞くに、きっと相手は城内関係者の一人であろう。

私は少し口元をきゅっと絞った。


私が物心ついた頃、父はすでに亡くなっていた。

死因は知らされていない。

母も私たちが産まれてから衰弱が始まり、

私たち姉妹が儀を迎える前に父の後追った。


「貴女…すこし悲しい事を考えているでしょう?」


繋がれていた手に僅かに力が込められる。


「ふふっ…眼が見えないのは不便だけれど、

その代わりに得たのは相手の気持ちを感じ取る能力かしら。

でも、きっと貴女の考えてる事が私の予想通りなら、

それは悲しむ物ではないわ。」


だってね、

言葉を続けようとした聖王の口が止まる。

それと同時にゾワリとした悪寒が背中を走る。


「あら、帰ってきたわ。」


突如大きく開け放たれた窓の外に一人の男が飛び上がって入ってきた。

その男から突きつけられる殺気と感じる悪寒。

自分の頭上に振り下ろされる剣を私はとっさに龍化した腕で防いだ。


「貴様、何者だ…?」


お互いの深紫の瞳から発する鋭い眼光がぶつかり合う。

男の背後に窓の柵に捕まるロドリーが見えた。


「おいダンディー!そいつは俺の仲間だ!

なんで攻撃する!?」


「仲間だと?この禍々しい気配のする龍人なんて会ったことが無い。

こんな奴が仲間だって言うなら、俺はお前もこの場で殺す!」


受け止めた剣の重みが紫翠の身体を押す。

体格差が紫翠を不利な状況へと追いやる。

なんとか跳ね返そうと力を込めるも、ビクともしない。


『紫翠が押し負けるなんて…』


せめて加勢をとロドリーが刀に手をつけた時、

大きなため息とともに蔦のようなものが男の身体を拘束した。


「黒騎、少しは落ち着いてくれないかしら?

貴方が感じているその禍々しいものは、彼女も貴方に対して感じているわ。」


「え…?」


聖王の言葉に一瞬で顔が元どおりのダンディー黒騎に戻る。


「当然です。黒龍は闇を司る神龍…気配が禍々しいのは貴方もです。

次代の神龍が産まれたら、現神龍は使命を終えて命を落とす。

会ったことが無いのは当然です。彼女も黒龍なのですから。」


彼女の言葉に驚いた顔をする黒騎。

そして聖王はそっと彼を拘束していた蔦を緩める。

黒騎はまじまじと紫翠の顔を見つめた。


紫翠は気まずそうに眼を逸らす。


「…?よく見ると俺に似ている?

黒龍だからか?」


「え?」


黒騎の言葉に僅かに動揺する聖王と紫翠。

きょとんとした様子の黒騎の後ろからロドリーが覗き込んで見比べる。


「あ、それ俺も思ったんだよなぁ。

髪色も眼の色も一緒だからさ、黒龍特有なのかと思ってたんだ。」


「どうなんだろうなぁ。

俺は先代の黒龍には当然会ったことないしなぁ。」


頼む黙ってくれ。

紫翠は顔色を変えずに心の中で強く願っていた。


「あ、ご挨拶が遅れて誠に申し訳ありません。

プラルという国のナイトをしております、ロドリー・フェリカスと申します。」


ロドリーは片膝をついて聖王に頭を下げた。

黒騎が暴走して突然連れてこられ挨拶もせずに部屋に入り込んでしまったのだ。

不敬極まりない。


「いえ、気にしないで?」


聖王の態度がしどろもどろである。

きっと意識してしまいそれどころでないのだろう。


そんな聖王の気持ちなど露知らず、

顔を上げたロドリーは聖王の顔を見て首をかしげる。


「聖王様?…ですよね?」


私は察した。

聖王の顔立ちは姉上そっくりである。

だがそれは同時に双子の妹である私とも似ているという事になる。


「なんだか…」


パァァァン!!


勢いよく右手をロドリーの口元に叩きつけた音が部屋に響いた。


「ロドリー、聖王様は神龍の一体である白龍だ。

本来人間である君が気安く会って話しかけて良い存在ではない。」


ロドリーの顔を覗き込んで冷めた眼差しを向ける。

だが彼は叩かれて赤くなった口元と同じように耳が赤くなる。


『顔が…近い…。』


プラルに来てから数年、女性と触れ合うことなど無かった彼には、

口元にあたった彼女の手が柔らかいだけで頬や耳が赤く染まる。


『あらあら、まぁまぁ…。』


それを敏感に感じとった聖王は、

口元を緩めた。


「聖王様、黒騎様、ご存知の通り私は黒龍。

二体の黒龍が同じ時間軸にいる事があっては保たれていた均衡が崩れましょう。

私達も仲間を残してこちらに飛ばされてきました故、早急に聖王様のお力添えをお願いしたく存じます。」


急に態度を余所余所しく変えた紫翠に、

聖王は小さく頷いて黒騎に指示を出した。


「えぇ。貴方がたの事情は少しだけ視えております。

ただ、いくつかお伝えしなくてはなりません。」


そういって聖王は『転送魔法』についての説明を始めた。

聖王が言うには、


呼ぶ事よりも送る方が難しい事。

つまり、元いた場所に送る事は可能だが、

元いた時間軸に戻すのが難しい。

そして、紫翠・ロドリーが存在する時間軸を避けねばならない為、

飛ばされた時間軸よりも後に送る必要がある。


「なるべく私も善処します。

ですが、どのくらいの誤差が発生するか予想が出来ません。

私の眼の力があるので誤差は最小限だと思いますが…。」


飛ばされた時間の数時間後や翌日ならば御の字。

下手すれば数日どころか数か月、数年後だってあり得てしまう。


ロドリーの身体に嫌な汗がつたう。

飛ばされる直前に見えた敵の数、一人二人ではなかった。


「あの子は強い。」


そう言った紫翠の目はなんの焦りも感じない。

ロドリーは静かに頷き、

転送魔法を行うために移動する一行について行った。



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