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世界で2番目の強者  作者: 麗奈@Word
商業の国=フォード=
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第三十四話


海砡に地図を暗記させた。

だから1枚しかない地図は炎砡に渡して二人に着いて行ってもらった。

それに炎砡ならば私と遠距離の思念伝達が可能だから、

万が一何か合っても問題は無い。


紫翠は地下水路入口へと滑り込むように入る。

素早い身のこなし故に、人の眼には映らなかっただろう。

じっとりとした地下水路の空気に若干眉をしかめつつ、

耳飾りとなった海砡の指示に従って歩く。


足元を這う鼠、壁の隅に巣を張っている蜘蛛、

あまり居心地の良い場所ではない。

早く抜け出したい気持ちもするが、

あえてゆっくりと歩く。


『もし、彼らの感知の質が悪ければ、

私が殿(しんがり)を務める事が出来るかもしれない。』


自分なら負ける事は無い。

紫翠には絶対の自信がある。


『私を上回る者は、聖王である姉上ただ一人。』


白龍である聖王は、最強の龍。

そして、白龍・黒龍の強さと他龍種の強さには雲泥の差がある。

黒龍を殺すには、全龍人族が束になってやっと殺せるかもしれないと言われる。

ただでさえ混血からくる弱体化をしている龍人に、

紫翠が負ける筈がない。


「そこの者、止まれ!」


声と共に響く無数の足音。

振り返れば無数のポーン兵。

差し向けたのはクイーンか、はたまたルークか。


「たしか三人組だったはず、

他二人はどうした!」


「それを言って何になるのでしょう?」


ヒタリと冷たい感覚が首筋に当たる。

先ほどまで正面に居たはずの女は、いつの間にか自身の背後に移動し、

冷たく、細長く、青く美しい剣を構えていた。


突然現れた紫翠の姿に、

取り乱した周りのポーン兵が切りかかる。

制止の声を上げた者の声が空しく反響する。


「あぁ…ぁ…。」


壁に飛び散る血、汚泥にほんの少しだけ赤が加わる。

崩れ落ちた同僚達の身体は首を切り裂かれ、

声を上げる事無く絶命している。


一瞬で後ろに回られた時、

敵にしてはいけない相手だと瞬間的に感じた。

現に、襲い掛かろうとした自分以外の同僚達が無残な姿となっている。


「貴方は…。」


全身から熱が奪われたかのように冷たく感じ、

熱くも無いのに汗が噴き出る。

そんな自分の背後から聞こえた声は、

ほんの少しだけ、温かみを感じられる声だった。


「貴方は、本能的に危険を察知し、

他の者を制止する声を上げた。」


ひやりと冷たい感覚が、

首元から離れる。

剣が離れると共に、

全身の身体が抜けて尻餅をつくように座り込んでしまった。


「少ししてから地上に戻りなさい。

それと、貴方の声が監視されているのならば、

一つお願いがあるんです。」


片膝をつくようにしてポーン兵の顔を覗き込み、

血の気が引いた青白い頬を、白く滑らかな指が滑った。



****************************



固く眼を閉じて豪華な椅子に深く座り込む女。

女は頭に響き、渦巻く情報を淡々と整理する。

目的は一つ。

相手が何者なのかを知る事。


先日、フォード内に侵入した2つの気配。

報告によれば王族でもなんでもない単なる一般人だという。


「お前は、それが真実だと?」


王族以外の者が、

王族と同じ力を持ち、

呑気に旅をしている。


「いいえ、何かあるとは思いますが、

皆目見当がつきません。」


女の前に片膝をつき、首を垂れるルークが言葉を開く。

ルークの回答に苛立ちを表情に浮かべた。

赤紫色の艶美な紅を塗られた唇が歪み、

太く、筋肉質な首を飾る金色の首飾りを引きちぎり、ルークに投げつける。


「使えないわね!

殺して欲しくなければ、さっさと逃げ出した奴らを連れてきなさい!」


「は…逃げ出した!?」


ルークの感知範囲は狭い。

隣の建物に感じる気配の動きに気付いていなかった。

その様子にクイーンは更に苛立ち、早く捜索に向かうよう指示して部屋から追い出した。


苛立たしい。

王族以外に1人だけ儀を行い、龍の力を与えた。

それはこの国をより操作しやすくする為に行った事。

だが、人選を誤ったようだ。


人としての武力は申し分ない。

ルークの位を与える事に違和感を感じない程。

王族への忠誠心もあり扱いやすい。


だが、龍としては最低だった。

ただ身体が頑丈なだけの龍の価値は低い。


産まれてからずっと才女と呼ばれ、

龍として高い能力を持っているクイーンにとっては、

何故こんな簡単な事も分からないのかともどかしさを感じる。


苛立たしさをぶつけるように、

呼び出しベルを乱暴に叩く。

急ぎ足で扉を開けて入ってきた数人のポーン兵と侍女。

彼らが首を垂れた姿を確認するとクイーンは立ち上がって指示を出す。


「貴方はビショップの持ち場に向かい、彼女に至急私の所に来るように伝えなさい。

他の者は私が言葉にする情報を書き出し、ルークに逐一伝達する事。

一つでも聞き漏らしてごらん、その耳引きちぎってあげるわ。」


指示された通りに室内を駆け回る者達。

沢山の紙とペンを用意し、クイーンの言葉全てを書き出す用意をする。


クイーンは再び椅子に座り眼を閉じた。

頭の中に呼び起こすのはフォード国の地図、

細い道まで、意識を深く集中させて地図を描く。


描いた地図の上にフォード国軍の兵を配置していく。

頭に流れる彼らの声、全てが私の頭に流れる。

そして感覚的にわかる3人の居場所。

一番近場に居る1人はルーク、離れていく残り2人はバラバラに移動する。

向かうその先に配置されているポーン兵達の声に注目する。

一瞬の聞き逃しも無いように…。

だが、1人の気配が配置している兵をするりと通りぬけた。

頭を駆け巡る声に遭遇した声を上げる者は居ない。


『なんの目撃情報も無く、あんな簡単にすり抜ける?』


空か地中を通らなくては、そんな事が出来る筈がない。

姿さえ見えれば、何かしらの目撃情報があってもおかしくない。


『もっと、もっと意識を集中させて位置をより正確に感知しなくては…。』


ピキピキと、音が鳴りそうなほどに額に血管が浮き出る。

その姿に、クイーンの言葉を聞き漏らさないように待機している者達は背筋が凍る感覚に身を震わせた。


空…?違う。

そしたらきっともう少し気配の上下がはっきりする。


「誰か、地下水路の地図を。」


「こちらです!」


差し出された地図を頭の中のフォード国内の地上地図と重ね合わせる。

先ほど感知した周辺、兵とすれ違った道。


見つけた…。

口元が嬉しそうに歪んだ。


頭の中にある地上地図を消し去り、

地下水路の地図を描く。


「21、42番水路出入口付近に居る兵を地下水路に、

相手は二手に分かれて移動している。

1人でも良い。

捕縛したらここに連れてきなさい。」



地下に降りるのは良い考えだけれど、

デメリットもあるのよ、ネズミ共…。



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