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世界で2番目の強者  作者: 麗奈@Word
始まりの島国=プラル=
3/48

第三話


しん…と静まり帰った森の中。

黒騎は泉の端に足が浸かった状態で目が覚めた。


「申し訳ありませんわ、黒騎様。水辺であれば黒騎様がお眠りの状態でも多少はお守り出来ると思い、

近くに泉が見えたのでお運びしました。」


小さな青い金魚の姿で泉から顔を出したのは海砡(かいぎょく)だった。

戦いの最中は剣となり力を貸してくれていた。


「かまわないよ海砡。ありがとう。大変だったろ?」


手を差し伸べると海砡は泉からぴょんと跳ね上がり、青い小鳥の姿で手に乗った。

海砡を肩に乗せ泉から足を出して立ち上がる。

すると今度は足の砡から赤茶の犬が飛び出し、

ぶるぶるぶるぶるぶるっと体から水気を飛ばすように体を振った。


「あぁー…濡れるのは嫌だってのに…」


「おだまり炎砡(えんぎょく)。黒騎様がお眠りの時、お前は火が無ければ役立たずであろう。」


「けっ…」


喧嘩する二人を無視して回りを見渡す。

先ほどまで居た森とは違うようだ。何より血の臭いがしない。


「ここはどこだろうか…」


「先ほど泉にいた妖精に聞いてみたのですが…どうやらプラルという島国らしいですわ。」


「聞いた事もねぇな…そんな国。」


「ここより西に進めば居住区があるそうですが、、、今は夜なので朝を待った方が賢明ですわ。」


そんな話をしていると炎砡がせっせと枝を集めて火を起こしてくれた。

どうやら湿った自分の体と、自分がいつも砡として憑いている黒騎の靴を早く乾かしたかったらしい。


地面に座り込み、脚を乾かしながら考える。

姉である聖王が何故私をこの地に飛ばしたのか、聖王の身に何かあったのか、

そして敵対していた人間達の事…人でもなく、龍人でもなく、単なる醜い怪物になってまで何をしようとしていたのか、何も分からない。


(ひとまず、この地に飛ばした理由を突き止めよう)


黒騎が考えていると、火にあたってうとうとしていた炎砡が何かを察知したように頭を上げた。

海砡も何かに気付いたようでそちらを見ている。


「黒騎、何かいる。」


「あ、お待ちなさい炎砡!」


静止の声を上げる海砡など気にも留めずに炎砡は走って行ってしまった。

急いで後を追うと、金髪の少年がうつろな顔で立っていた。

足元から見上げる炎砡には気にも留めていない。


「海砡、こいつ…」


「えぇ。何かに操られてここに立っているようですわ。本人は眠っているだけのようですので、

起こしてしまえば術は解けるはずですわ。」


「…………わん!」


炎砡が大きめに吠えると、少年がはっとした表情で膝から崩れて地に尻餅をついた。


「大丈夫か少年。ココがどこかわかるか?」


黒騎は少年の目線に合わせるように片膝をついた。

きょとんとした少年は辺りを見渡し、空を見上げると、その表情がこわばってしまった。


「お、お姉さん、今…夜だよね!?早く建物の中に!あぁでもここは森だから…」


小声で狼狽える少年に黒騎は頭をかしげたが、すぐに何のことか理解した。

息をひそめているが、少しずつ、私たちを取り囲むように、何かが集まってきてる。

転送前に戦っていた者たちと似ているような違う感覚。


「炎砡」


黒騎が声を出すと同時にそれは背後から襲い掛かってきた。



___燃やせ___



黒騎の声と共に炎砡は目を光らせ、振り返らずにそれを燃やした。

そして黒騎を通して感じ取った敵と思われるもの全て、同じように燃やした。

少年は襲い掛かって来ていた者が瞬時に燃え、そして森に響いた断末魔のような声に驚いていた。

炎砡はそんな少年の脚に自身の前足を乗せ、


「安心しろ少年。恐れる者は、全てこの炎砡が燃した。」


「えん…ぎょく?」

「それは俺の名だ。さぁ…こちらに来て火に当たると良い。」


炎砡は先ほどまで居た焚き木の所へ戻っていく。

だが少年は腰が抜けてしまっているようでうまく立てないでいる。

黒騎が手を差し伸べるとおずおずと捕まって立ち上がった。



****************************



ぱちぱちと木が燃える音を聞きながら炎砡は少年のそばに寄り添って目を閉じている。

少年はきょろきょろと辺りを見渡している。


「周りには何もいませんわよ。」


海砡が青い小鳥の姿のまま少年の手にとまる。


「わたくしは海砡。いつまでも少年と呼ぶのもどうかと思いますので、お名前を教えて欲しいですわ。」


「あ…、僕はウィル・ホーク。ウィルって呼んで下さい。」


頭を下げる彼に海砡は質問を続ける。


「何故あそこにいたのか心当たりはありますの?」


「いえ…気付いたらあそこに…」


「ご家族は?」


「兄が1人…両親はいません…」


「海砡。休ませてやれ。」


質問を続ける海砡に炎砡が静止の声を上げる。


「では最後に一つだけ。襲ってきた者は何者ですの?」


「…クァバリの事?お姉さんたちクァバリを知らないの?」


「ウィル。俺たちはこの地に来たばかりで何も知らん。どこから来たと聞かれてもうまく答えてやる事もできん。だが一つ言えるのは、お前は操られていたのだ…自身が把握しているより身体は疲弊している。目を閉じて深呼吸をしてみろ。何かあっても守ってやるから安心して眠れ。」


そう言って一度立ち上がった炎砡は、炎に包まれ、犬の姿から大きな狼の姿へと変身した。

子供のウィルより二回りほど大きな狼の姿をした炎砡は地面に横たわってウィルの首元のシャツを引っ張り自分の体に寄りかからせた。

ふかふかとした体毛と炎砡の高い体温の心地よさにウィルはすぐに眠りについてしまった。

ウィルが眠るのを待っていたかのように、彼の周りにホタルのような小さな光がふわふわと現れ、集まってきた。


「海砡…私は妖精がこのように集まってくるのを見たのは初めてなのだが…これは一体?」


「ウィル様は妖精に愛される貴重な存在ですわ。わたくしも初めて見ました…まだ未熟ではありますが、いずれは聖獣を従える素晴らしい魔術師になられるでしょう。」



_魔術を使うには石が必要。

魔術は魔石を介して妖精の力を借りる。

だが、妖精に愛されるという事は石を介する必要が無い事を意味する_



「何故彼がここにいたのだろう…炎砡が気付いていなければ彼はクァバリとやらに殺されていた。」


「何者かに操られておりましたのでウィル様が居ては困るという事でしょう…才ある者を疎み、殺そうと考えるとは…」


海砡の声には怒気が籠められていた。


「朝、彼が起きたら家まで送ろう。…プラルと言ったかな?この国が聖羅から見てどの位置なのかも知りたい。」


黒騎は立ち上がって炎砡とウィルに近づく。


「炎砡、お前は私に仕えてくれている聖獣だよな?」


「?…俺の主は黒騎だけだが?」


それを聞いた黒騎は炎砡をはさんでウィルとは逆側に座り、豊かな体毛に背を預けた。


「重いか?」


「いや…」


炎砡は愛しそうに黒騎に目を向ける。

黒騎はそうか…と言って目を閉じ、海砡は小鳥の姿のまま黒騎の肩にとまり頬に身を寄せた。




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