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世界で2番目の強者  作者: 麗奈@Word
商業の国=フォード=
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第二十八話


陽が傾き掛けた頃、ロドリーは慌てた様子で紫翠の部屋の戸を叩く。

何の要件か予想できていた紫翠はロドリーを部屋に招き入れた。


「ウィルが部屋に戻ってない…今、どこにいる?」


口早に紫翠に伝えると、

紫翠は窓の傍に寄りある方角を指差した。


「あの付近に居る。

少しずつだが、こちらに移動してきているからじきに戻るだろう。」


その言葉を聞いてひとまず胸をなで下ろす。

だが、その安心を覆すかのように海砡が小鳥の姿で窓枠に立って口を開いた。


「黒騎様、魔力の流れが感じられますわ。」


紫翠の眉がピクッと動く。

ロドリーも窓に近寄り外の様子を見る。

だが、人間であるロドリーでは何の様子も探る事が出来ない。

紫翠もまた龍人ではあるが、魔力の流れまでは感知出来ないようだ。


どんなに眼を凝らしても、眼に映るのは何の異変も無いフォードの街並み。

陽が傾き、夜が迫っているせいか人が足早に家路に着く姿。

店を畳んで鍵を閉める姿。


「戦っているのか…?」


「魔力の使用は感知出来ますが…

そこで戦闘が行われているかどうかまでは、わたくしでも分かりませんわ。」


ロドリーの質問に淡々と答える海砡。

だが、その回答にもどかしさを感じたロドリーは部屋を出て行こうとする。


「冷静になって。もう陽が落ちる。

君がそこら辺の人より強いのは知っているが、

何も感知出来ない者が行って夜までに見つける事が出来ると?」


すかさず肩を掴んで引き止めてきた紫翠に、

言い返そうにも正論を言われて何も言えないロドリー。

すると一匹の犬が前に出て、ウィルが置いて行ったティーセット用の袋を銜えた。


「人の姿で夜に外を出歩いては怪しまれるだろう。

これからウィルの匂いが微かにする。

匂いを辿ればウィルの場所は分かるし、

この姿であれば万が一人に見られても野良であると思われる。」


床に置いた袋を念入りに嗅ぎ、

開けられた窓の前に立つ炎砡。

その様子を見ていた紫翠は炎砡の頭をひと撫でして頷いた。


「任せる。」


その言葉を聞いて、炎砡は窓から飛び出していった。

そして紫翠は一度静かに眼を閉じ、ゆっくりと眼を再び開く。

開かれた眼は瞳孔が細く縦長に伸び、まるで獣のような眼へと変化していた。


「その眼は…?」


「龍の眼ですわ。」


ロドリーの疑問に海砡が即座に答えた。


「もう陽が大分落ちてきているのでクァバリが出現する時間帯。

炎砡は黒騎様と思念伝達が可能ですので、

黒騎様が感知した情報を得てクァバリを回避・撃退をしつつウィル様の元へ迎えますわ。

ですが、黒騎様は感知能力がそこまで高くありません。

なので眼だけでも龍化させる事で能力をわずかですが上昇させているのですわ。」


海砡の説明で大方納得出来たロドリーは近くの椅子に腰かける。

自身に出来る事が無い劣等感を感じながら、ウィルの無事を願う。


「紫翠、感知は窓やカーテンを閉めていても出来るか?」


「窓は良いけど…外が見えないのは感知に多少影響が出る。」


「ココは2階だし建物内は基本的に安全だが一応窓は閉めて灯りを消そう。

紫翠ならクァバリが来ても問題は無いだろうが、宿に迷惑がかかるからな。」


そう言ってロドリーは窓を閉め、部屋の灯りを消した。

陽が完全に落ち、部屋は暗く、月明かりだけが頼りとなった。



****************************



暗い建物の中、布のこすれる音が響いき、

身じろぐかのような声がした。


「起きた?」


うっすらと入る月明かりを頼りに寝かせていた子供の方角に眼を凝らす。

まるで怯える犬猫のようにこちらを警戒しているのがなんとなく分かった。


「…さっきの男の人ならいないよ。

でも今は夜だから、大人しくしててね。

お腹空いてる?干し肉食べる?…あ、怖いならここに置いておくからね。」


そう言って子供の手の届く所に干し肉を置いてやる。

子供は困惑しているようでウィルと干し肉を交互に見ている。


「あ…う…。」


「あ、もしかして殴られてる時に口の中切れちゃってたりする?

そしたら干し肉は噛み切るの辛いかな?なにか食べやすい物…。

あ!それよりも怪我の治療が先かな?」


「ウィル様、しーっです。」


小さな白い手がウィルの口を無理矢理閉じる。

どうやら段々と声が大きくなっていたようだ。

幸いにも近くにはクァバリが居ないようで物音は何もしない。


「…だれ?」


静かな空間に小さく、幼い声が聞こえた。

保護した子供の声だと分かるとウィルは、

なるべく優しく、声は小さく…と意識しながら自己紹介した。


「僕はウィル。この子はシルフィー。

仲間は他にもいるけど、旅をしている途中だよ。」


「殴られていた所をウィル様が助け出しました。

怪我をしてますでしょう?簡単な手当しか出来ませんが、近寄らせて頂けますか?」


子供は恐る恐るだが首を縦に振った。

人が近寄るのは怖いだろうと思い、

ウィルは手当をシルフィーに任せて鞄の中を漁る。


柔らかくて、食べやすくて…魚の缶詰なんてどうだろうか?

あ、今は食器がないから手がべちゃべちゃになっちゃうか。

買い物だけのつもりだったから、

荷物はほとんど置いてきちゃったしなぁ…。


「あの…ありがとうございます。」


子供がおずおずとウィルに向かって感謝の言葉を述べた。

ウィルは一瞬きょとんとした顔をしてから笑顔を向けた。


「気にしないで。

僕は僕の手の届く範囲にいる人を助けようとしただけだから。」


そう言ってウィルは名案が思い付いた様子で干し肉を一つ持つ。

自身の指先に起こす風を、薄く、鋭く、切り裂くイメージで干し肉に触れる。

干し肉は鋭利なナイフで切られたかのように二つに分かれる。

それを何度か繰り返して干し肉を細切れにして買い物の際に貰った紙袋の中に入れる。


「この方が食べやすいと思って細かくしてみたけど、どうかな?

水も一緒に置いておくね。」


子供はゆっくりとした動きで紙袋を取り、口に含んだ。

細切れにしたおかげであまり負担は無いようだ。

子供は一つ一つ丁寧に、噛みしめるように食べている。


「ごめんね、皆と合流出来たらもう少しちゃんとした物を食べさせて上げれるんだけど…。」


「いえ、食事が出来るだけで私は満足です。

本当に、ありがと、う…ございます。」


ポタポタと子供の頬に涙が伝って床に落ちる。

泣きながらも子供は干し肉を食べ続ける。

シルフィーが子供の頬を軽く拭うと、

子供は小さな声で「ありがとうございます」とまた感謝を述べた。


「お辛くなかったら聞かせてください。

貴方は何故あの男に?」


「…奴隷制度を知りませんか?

どこからか攫って来て売買するんです。

この国ではそれを黙認されています。」


それを聞いたウィルは驚愕した。

プラルではまず奴隷という者は居ない。

王族の家畜にされてはいたが、

少なくとも人以下の扱いを受ける奴隷は民の間では無かった。


「キング…王族は何も言わないの?

国民だって、奴隷制度を撤廃して欲しいとか思わない?」


「王族はもちろん、国民も奴隷制度に賛成してます。」


「どうして!?」


ウィルの疑問の声が建物内に響いた時、

外へと通じる扉から大きな物音がした。


ガンッ__ガンッ___


何かを扉に叩きつけているかのような物音に、

ウィル達は声を潜めた。


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