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世界で2番目の強者  作者: 麗奈@Word
商業の国=フォード=
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第二十七話


少しだけしっとりとした空気が流れ、

端をネズミが走り抜けていくその道は、ウィルの心を不安にさせる。


なるべく早く、でも走らないように。

大丈夫、今の僕は少し前の僕と違う。


そう自分に言い聞かせて薄暗い道を突き進む。

頼りは紫翠の気配のみ。

別の方角にも気配はあるが、紫翠の気配とは見分けがつく。


『ウィル様、お気をつけ下さい。

前方から何か嫌な風が吹いております。』


石の姿のままのシルフィーの声に反応し、

ウィルは立ち止まって乱雑に置かれている木箱の影に隠れる。


少しの間を置いて、奥の方からぞりぞりと何かを引きずる音が聞こえ始める。

薄暗い道、陽も傾き掛けている為、その音の正体はかなり近くなってから明らかになった。


『子供を引きずってる?』


木箱の隙間から見えた光景に眼を疑う。

ガタイが良い薄汚れた男が子供の足を片方だけ持ち、引きずって歩いているのだ。

男はそのままウィルの居る方角とは別の道に曲がって行った。

少しの間、男が引き返して来ないか様子を見ていた時、ごにょごにょと人の声が聞こえた。

聞き取ろうと耳をすましたウィルの耳には途切れ途切れに単語がかすかに耳に入る。


「使…ない……売れる所が…………中身……高く………。」


単語だけでは内容が上手く掴めない。

少しだけモヤッとした気持ちを感じながら、ウィルは男が遠ざかる機会を伺う。

その時、静かな空間を裂くかのような声が辺りに広がった。


「ああああああああああぁぁぁあああぁぁぁあああぁあ!!」


突如上がった叫び声に肩が跳ねる。

声の方角と質から、引きずられていた子供の声だろう。

叫び声が止まったと同時に人を殴るかのような音と、男の怒鳴り声が聞こえる。


黙れ、煩い、穀潰し、

怒声が上がるたびに殴打する音も上がる。

耳を塞ぎたくなるような音に、ウィルは首から下げている革袋に力を込めた。


軽率だと思う。

でも、身体の中に流れる血がもの凄い勢いで巡っているかのように身体が熱い。

その感覚を、僕は我慢できない。


男がもう一度殴ろうと振り上げた腕に、

突如、鋭い痛みが走る。

驚いて自身の腕を見ようとした時、身体が何かに吹き飛ばされた。


「ねぇ、おじさん。何してるの?」


男の視線の先には、宙に浮いた少年の姿。

地に足の着いていない人を見たら誰もが驚くだろう。

男は一瞬たじろぐが、相手が子供とわかると顔に怒りを浮かべて立ち上がる。


ウィルは人差し指をクイッと上に軽く振る。


その瞬間、男の右足に鋭い痛みが走った。

見えない刃に切り付けられたかのような感覚。

血が滴る足では力を込められず、男は地に膝をつく。


「悪いけど、まだ手加減があんまり出来ないんだ。

大人しく僕の質問に答えてよ。」


下から見上げたウィルの眼は、人の眼ではない。

まるで怒りに満ちた猛獣かのように鋭い眼だった。

その眼に怯えた男は口を開く。


「売り物にしていたガキが使えなくなって、

仕方ないから中身を売って終わりにしようとしたんだ!

俺は金の稼げないこいつを飼う余裕なんてねぇし、

これ以上飼ってても意味が無い!」


そこまで聞いて、ウィルは小さな風起こして男を壁にたたきつけた。

男が気絶したのを確認して、ウィルは子供の傍に寄る。

肩を揺すっても、子供も気絶してしまっているようで反応が無い。


『このままにして置けない。

でも、この子を連れた状態では宿までの移動に時間が…。』


せめて、建物の中に入ってしまえばクァバリとの衝突は避けられる。

見渡して眼に入る建物の扉に聞き耳を立てる。

音は聞こえない。

見上げれば、2階であろう高さにある小さめの窓が少し空いているのが見える。


「シルフィー、中の様子を少し見てきてくれない?」


「わかりました。」


白い鼬の姿でふわりと飛び、その小さな身体で窓から建物内に入る。

しばらくして、扉の鍵を内側から開けたシルフィーが顔を出す。


「人の気配は有りませんでした。

少し埃が積もっておりますので、最近は使用されていない建物のようです。」


それを聞いて安心したウィルは、風の力を借りて子供の身体を持ち上げる。

そして建物の中に入って扉の鍵を内側から閉めた。

その間にシルフィーは積もっていた埃を巻き上がらせないように、

風を上手く操って窓から外に出していた。


建物の中はボロボロになった家具がいくつか残っており、

皮が破れたソファーにそっと子供を降ろした。

ウィルはここに来る前まで買いこんでいた食料を1つ鞄から出す。


「シルフィー、おいで。一緒に食べよう。」


小さく千切った干し肉を膝の上に座ったシルフィーに渡す。

シルフィーが傍に居てくれるおかげで不安が薄れ、冷静でいられる。

干し肉を齧りながら子供の様子を見る。


『切り傷、すり傷、打撲…かなり痩せているから栄養も足りてないかも。

服も申し訳程度しか無いから寒そう。』


着ていた上着を脱いで子供に掛ける。


『火の魔石持って来れば良かったな。

炎砡さんが居るから必要無いと思ってた…。』


これから夜になる。

しばらく使われていないこの建物には電気は通っていないだろう。

蝋燭も、無ければ火の元になる物もない。

光となるのは窓から差す月や星だけ。

それもクァバリが通る可能性があるから窓は開けられない。


『お姉ちゃんやロドリー様、心配してるかな…?』


連絡する手段も無い。

頼れるのは紫翠とウィルがお互いの気配が探れる事のみ。

今、自分が出来るのはココで朝まで動かないという事。


ウィルは宿に居る二人に申し訳ない気持ちになりながら、

鞄を枕にして身体を休めた。



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