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世界で2番目の強者  作者: 麗奈@Word
商業の国=フォード=
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第二十五話


人が絶え間なく行きかう港。

フォードの港では船乗りや商売人の声が飛び交い、とても賑やかだった。


「プラルとは随分違うね…市場でもこんなにガヤガヤしてなかったよ。」


「フォードは漁業も盛んだから尚更な。」


先を歩くロドリーがはぐれないようにウィルの手を引いて歩く。

周りの人よりも小さい背丈のウィルは簡単に埋もれてしまうからだ。

紫翠はウィルの気配を探りつつ、はぐれずに人の間を縫ってついて行く。

人混みを抜けた先の広場で一息ついて、広場内に設置されている地図で今後の予定を再確認する。


「今いるのが、ココ…宿の案内所がコッチにあるから一度そこに行こう。

なるべく早くフォードは抜けたいから、ファランディオとの国境が近い所で探してもらおう。」


「ねぇ、一つ聞いても良い?」


ウィルが眉間に皺を寄せて二人に問う。

彼の口から出た言葉は二人の表情を少し曇らせた。


「この国の王族に会わないの?」


彼自身、今まで人として生きてきたが、

龍として覚醒した今、王族が民を騙している事に良い気がしない。

それに、ウィルの能力は今この瞬間も上がり続けている。

その能力故にこのフォード国内に何体の龍が存在しているのかが感覚で分かってしまうのだ。


「ウィル。確かに俺も王族の事は許しがたい。

でもな…プラル、フォード、ファランディオ、メルティア、ディラグノ。

全ての国がリアンのような考えの王族が居るとは思えない。

約300年、その間に積み上げた歴史を全部ぶち壊して、その国の王を殺さなきゃいけないかもしれない。

王族を殺した後、俺たちはその国に留まるわけじゃない。

王を失った国は誰が統治する?」


ロドリーの言葉に眉をしかめつつも俯くウィル。

その様子を見ていた紫翠がウィルの頭を撫でる。


「人としても、龍としても、誤りを正したい気持ちは分かる。

でも…まずはその誤りを正す為の真実を知らなくてはならない。」


だがらメルティアに行く。

頭では理解しているが、どうしても感情が表に出てしまう。

小さく頷いて二人の後を着いて行くウィルの眉間は皺が寄ったままだった。


目的の案内所に着くまでに何度か宿の勧誘があったが、

ロドリーは全て断っていた。

一度、「そんな貧相なのより良い女の子を紹介しますよ~」と声を掛けてきたときは、

一瞬だけ殺気が2ヶ所から感じた。

案内所に着いた後、やっとまともな宿を紹介してもらえると思ったがここでも一つ面倒な事になった。


「プラル国のナイトであるロドリー様が、こちらの案内所をご利用頂くのとはとても光栄なのですが、

ご公務の一環でしたら、案内所なんかではなく王宮をお尋ね頂いた方が良いのではないでしょうか?」


「いや、公務という程大層な旅ではない。

ただ…まともな宿を紹介して欲しいだけなんだ。」


そのロドリーの言葉を聞いた案内所の所長は彼の背後にチラリを視線をやる。

それは他の所員も同様で、ロドリーの後ろに立っている紫翠を見ていた。


『なんか、俺…怪しまれてる?』


ちょっと王族の歴史について真実を知りにメルティアまで行くんすよ~。

あ、俺の連れ?二人とも龍なんすよーまじパネェ。


なんて馬鹿正直には言えない。

背中に汗が伝う感覚を不快に感じながらも、必死になって何か良い言い訳を探している。

そんな様子を察したウィルが機転を利かせて前に出る。


「ロドリー様、お手間をおかけして申し訳ありません。

やはり僕たちだけで旅を続けます。」


「何を言ってるんだウィル坊!そういう訳には…」


「プラルのお医者様に見せても治らない姉の病を治す為の旅に、

ロドリー様をこれ以上巻き込むなんて申し訳ないです。」


ほんのり涙を浮かべたウィルの言葉に周囲がハッとして紫翠を見やる。

ウィルの言葉に察したロドリーは話を合わせ始めた。


「何を言う…俺はお前たち姉弟を見捨てない。

自国民を救えないどころか、恩ある方の子である二人に報いる事が出来ないのはナイトの名折れだ。」


ウィルの手を握って頭を撫でるロドリー。

ここまですれば、その姿を見ていた所長達は勝手に解釈してくれる。


「なんと、そんなご事情がありましたが…手厚く奉仕してくれる宿をご紹介いたしましょう。」


「いや、終わりの見えない旅だ…最低限の事が保証されてる、あまり高くない宿を紹介してくれ。」


かしこまりました。と返事をした所長は複数の宿が記載されている宿帳のページをペラペラめくる。

その間、紫翠の周りには勝手な解釈をして涙を浮かべた所員が集まり慰めの言葉を掛けていく。


「きっと良いお医者様が見つかるさ。」


「顔はとても綺麗なのだから、病が治れば良いご縁が見つかるさ。」


口元をほんのり緩ませて軽く会釈をする紫翠。

とても小さな声で『黒騎様は全て完璧な美しさですわ』と左耳から文句が聞こえたが、

他の者には聞こえていないだろう。


所長がいくつか提案した宿のうちの1つに決めたようで、

所長は予約の電話を入れていた。


「2部屋お取り致しました。

ロドリー様のお名前で予約しております。地図はこちらに…」


地図を受け取ったロドリーは礼を言うと、案内所をさっさと後にする。

後を着いて行く紫翠にウィルが傍によって小声で問いかける。


「海砡さん怒ってる?」


「いや、あの場を切り抜けたウィルの事を称賛しているよ。」


ホッとした様子のウィルに少しだけ笑みが零れる。


しばらく歩けば大通り沿いに目的の宿が見えた。

店主なのだろう、店先に立っていた男がロドリーの姿を見て小走りにやってきた。

手厚い出迎えの言葉を受けながら部屋の鍵を受け取る。

1つを紫翠に手渡し、部屋に行く。


「明日の予定を立てよう。こっちの部屋に来てくれるか?」


ロドリーからの提案に紫翠が頷き一緒に部屋に入る。

部屋に入るとウィルが背負っていた鞄を漁り、中から橙色の果実を取り出す。


「げっ、モルモル。」


「あれ、嫌いですか?…飲み物とおやつを用意しようと思ったんですけど…。」


明らかに嫌な反応をしたロドリーにウィルがビックリした様子で聞く。

モルモルはプラルの名産品の一つで好きな者も多く、他国でも無難な贈り物としても重宝されている。


「見た目が『みかん』なのに、味が『グレープフルーツ』ってのがどうも許容できなくてな…。」


二人で食べてくれ。というロドリーに頭を傾げる。

紫翠とウィルの知らない単語が出てきたのを考えると、彼の祖国の言葉なのだろう。

気にせず、ウィルはとりあえず飲み物を入れる為にお湯を貰いに部屋を出て行った。



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