第二十三話
1人を除いた全員が驚愕の表情でウィルを見つめる。
「僕は、一応これでも龍族の血を受け継いで覚醒してる。まだ龍化は出来ないけど…、
お姉ちゃんについて行って、龍として沢山の事を教えてほしい。」
「ダメだ!」
大きな声を上げたのはランスだった。
眉を吊り上げ、ウィルの肩を掴む。
「お前、今の話聞いてたのか!?
命にかかわるかもしれないんだぞ!そんな旅に、まだ12歳の子供を行かせられるわけないだろ!?
龍の事が知りたいならリアン様から学べば良いだろう!わざわざ紫翠に学ぶ必要はない!」
「わがままかもしれない。でも僕が教わりたいと思ったのはお姉ちゃんだ。
危険でも良い。連れていって欲しい。」
彼の瞳には迷いも、恐れも感じられない。
紫翠はウィルの眼をじっと見つめ、そしてフッと笑う。
「ランス、君は弟が弱い…危険な目に遭わせたくない。そう思って反対しているのだな?
ならそれはウィルの事を甘く見過ぎている。彼は今、ここにいる者たちの中でナイトであるロドリーとほぼ同等位の強さであると思っていい。」
その言葉に賛同するように、聖獣である二体が頷いてみせた。
ウィルはそっと眼を閉じて力を込める。
力の流れを感じたシルフィーはウィルの肩に乗り頬を寄せる。
そして、ウィルの身体はベットから浮き上がり、掛けていた布がパサッと落ちる。
「僕自身も少し驚いてるんだ。
操られてた時まで分からなかった。
でも今ははっきりとわかる…僕の魔力量は普通じゃない。
他の国ではどうか分からないけど、少なくともプラルの中じゃ一番上だ。」
ゆっくりと眼を開け、拳を眼の高さに上げて指を開く。
手の平に小さな竜巻を起こしてみせた。
龍の儀を受けた事による力の解放。
それは彼にとって魔力量の上限を大幅に突破させ、
魔術師としての才能を開花させたようだった。
「だから、大丈夫だよ。お兄ちゃん。」
ニッコリと笑ったウィルに、
ランスはずっと一緒にいた弟と離れ離れになる事が少し寂しい気持ちになった。
そんな中、1人だけ焦りを見せているロドリー。
(二人旅じゃ無くなっちまう!!)
だが、否定しようにも
*危険→俺とほぼ同じ強さなら問題なし
*ご両親の許可→親無し&兄許可出そう
(その他に否定する部分あるのか!?)
焦ったロドリーは唯一応援してくれているディアスに眼を向ける。
ディアスはそんな意を汲んでくれたのか、力強く頷いてみんなの前に出る。
(おぉぉぉおおおお!!さすがディアス!何か策が…)
「ランスよ、心配しておる暇はないぞ?
お前はこの俺が、直々に鍛え上げて次期ナイトになってもらわないといかんからなぁ。」
(そっちじゃなぁぁい!!!)
頭を抱えて1人悶えるロドリーに、
冷たい視線を送り続ける海砡がコホンッと咳払いしてディアスの隣まで飛んでいく。
「無能の貴方と違って、ウィル様はとても優秀ですから師は最上級でなくてはありませんわ。
リアン様は確かに龍の血を受け継ぎ、龍化が可能ですが…失礼ながら、所詮は陀龍。
この国での価値は高いと思いますが、わたくし達の祖国では下級龍。
ウィル様はその才を見る限り上級龍は確実。黒騎様が指南するべきですわ。」
その言葉を聞いた紫翠が頷くと、ウィルは喜びの表情を見せ、
ロドリーは落胆の表情を見せた。
海砡はロドリーの意を察していたのは確実なようで、完璧な邪魔をしてみせた。
頼りにしていたディアスはランスの肩を抱いてゲラゲラ笑っているし、
炎砡は我関せずを貫いている。
ロドリーは頭の中でこの場の勢力図を組み立てる。
ウィル同伴賛成派
紫翠・海砡
ウィル同伴否定派
俺・ランス(賛成派に篭絡済み)
ウィル同伴中立派
炎砡・リアン・ディアス
ここは中立派をいかに否定派にするかが勝利の分け目だ…。
拳を握るロドリーが眼を付けたのは、
「炎砡、お前もウィル坊の事が心配じゃないか?」
「?」
可愛らしい柴犬フェイスをこちらに向けてキョトンとした顔をしている炎砡。
こいつは俺の事を嫌っては居ないはず。
いける!!
「ほら、龍の力を得たとしてもウィル坊はまだ子供だし、
龍相手だと俺や紫翠、炎砡だって守り切れるか分からないだろ?」
その言葉を聞いた途端、炎砡は眼を光らせ、柴犬が炎に包まれたと思うと大きな狼の姿となり、
牙を剥き出し、毛を逆立てて唸り声を上げる。
「貴様…この炎砡にウィルを守る程の力が無いと言いたいのか?
砡の名を得た者が…そんじょそこらの龍に劣ると思うなよ人間。」
選択肢をミスったようです。
宥めるかのように紫翠が炎砡を撫でる。
顎の下や頬を撫でられ唸り声は収まったものの、眼は鋭くロドリーを睨みつけている。
「仕方ないよ炎砡。
彼は砡を目にするのは初めてだからどれほどの実力か分かっていないんだ。
砡は貴重な存在でそうそう目にする事がない…許しておあげ。」
不服そうに紫翠を見上げる炎砡。
一応は許してもらえたようで一安心したが、賛成派に1人追加してしまったようだ。
落胆しているロドリーにディアスが近づいて耳打ちする。
「あんまり騒ぐなよ?せっかく得たチャンスを棒に振っちまうからな。」
同行出来なければ、俺の恋はここで終了。
それだけは避けねばならない。
ロドリーはウィル同伴を受け入れ、大人しく黙る事にし、
リアン、ディアスと共に旅の最中に必要な物、
ナイトであったロドリーが部下に引き継ぐ事柄をリスト化し準備をするべく退出していった。
「皆さまは、良ければお食事を済ませて早めにお休みになりませんか?
今日は色んな事があったと聞いておりますので…。」
先ほどまで黙り通していたルージュが紫翠達に提案をする。
そう言えば、会場でお弁当を食べた以降は何も口にしていない。
程なくして、ルージュがメイドに頼んで用意してもらった食事をとり、
湯浴みを済ませて早々に用意してもらった部屋に移動する。
与えられた部屋は兄弟とは別室で、1人部屋らしいが…とても広い造りだった。
厚みのあるベットに倒れるようにして転がると、隣に寄り添うようにして炎砡がベットに乗ってきた。
狼の姿のままだった炎砡の身体は、長くて豊かな毛に覆われている為触り心地が良い。
「黒騎様も疲れましたでしょう?お顔に出さなくても、わたくし達にはお見通しですわ。」
ベットヘッドに止まった海砡が苦笑するかのように声を掛けてくる。
「君たちには隠し事出来ないな。」
「当然だ。」
紫翠に寄り添う炎砡が頭を自身の前足に乗せて寝る体制を取る。
柔らかな尾は紫翠の脚に軽く乗せられている。
お前も寝ろという事なのだろう。
疲労を感じる身体は眼を閉じただけで意識を手放す。
主の様子をしばらく見ていた聖獣達も、
少し溜まった疲れを癒すべく浅い眠りについた。