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第二話


剣と剣が弾き合う音、矢が風を切って飛ぶ音、

肉を裂く音、血交じりの土を踏む音、

骨の折れる音、腕が地面に落ちる音、

…言葉にもなってない断末魔。


沢山の音が耳に届く。


(まるで一方的な殺戮だな…)


人間の首から剣を抜きながら周辺を見渡す。

黒騎が戦っていたこの場の敵は殲滅し終わっていた。

炎に焼かれた人間の焦げる臭いに顔をしかめていると、いくつかの違和感を感じた。


「黒騎様…気付いておられますか?」


普段は表情をなかなか変えない虚空が、

額に汗をかき、信じられない物を見る目で私たちから離れた場所を見ている。

彼も相当の手練れのはずなのに、何を見たのだろうか。


「すまない。私はお前ほど感知力は高くないんだ。

違和感は感じるが…何かと言われても分からない程度だ。」


「人間の中に…数名、かなりの手練れがおります。おそらく…」


そこまで言って、彼は眉間にしわを寄せた。


「どうした…?」


「龍人族の血肉を口にした人間かと思われます」


その言葉を聞いた私は身体が熱くなっていくのを感じた。

私の身体から発せられた殺気に虚空は同様しなかったものの、近くにいた龍人族達は冷や汗をかいていた。

そんな事など目もくれず、私は背中に意識を向け黒く、硬い鱗に覆われた翼を出現させた。


「ここは頼む」


虚空が返事をする間も無く私は空高く飛び上がった。

違和感の感じる方へ全意識を集中させ、全力で飛んだ。


近づけば近づくほど、大きく、はっきりわかる違和感。

それはやがて吐き気を誘うかのような気持ち悪い感覚へと変わってきた。



(おぞましい)



これほどこの言葉が合う対象に出会った事は無いかもしれない。

その物体の近くに降り立ち、私は一瞬で切り伏せた。

それでも嫌悪感は消えない。


『あいつが…』


『あぁ。そうだ黒龍だ。』


『あいつさえ捕まえてしまえば…』


そんな言葉が聞こえてくる。

よく見れば全員、目が血走って肌の色も斑に赤黒く染まっていた。

そして、人間では到底出来ないであろう動きで私に剣を向けてきた。



___龍人族の肉は巨大な力を与える___



それは人間の間で良い話にすり替えられた話。

正確に言えば、



___龍人族の肉を食べたものは力を抑えきれず、理性を無くし、人を食らう___



それが真実だった。


「なんて…愚かで、おぞましい」


私は立ち向かってくる者たちを全て切り伏せた。




(さすがに多少は疲れるか…)



通常の人間よりも遥かに強い者を相手にして、怪我はしてないものの、

疲れが出ていた。


近くに仲間の気配はない。ここは戦場の端のほうに位置するようだ。

少し離れた所ではまだ戦いの音がする。

ならば一度、虚空の元に行こうと思った矢先、小さな声がした。


「助けてください…」


振り返れば森の中から青年が這い出てきた。

顔は蒼白で何度も嘔吐したかのような形跡もあった。

そして、目は充血していた。


「お前、人間だな?兵ではないようだが、なぜここにいる」


「他の国に行く途中で襲われ、、、血を、飲まされました。」


息もするのも辛そうな様子の彼に慎重に近寄る。

よく見れば首元のいたるところが小さく赤黒く変色していた。


「助けてくれたのに、僕は…何も出来なくて…」


ぼたぼたと零れる涙、悔しそうな顔をした青年はきっとまだ自身の変化を知らないのだろう。


「すまない、私にお前は救えない。」


「ならせめて、せめて彼らを…」


青年が張って出てきた元を注意深く神経を集中させてみれば、

先ほど自分が切り伏せた者たちと同じ気配がした。


「ここに隠れていろ、まだお前がどうなるか私には判断できぬ。」


そう言って森に足を踏み入れた。


進めば進むほど、血生臭い。

何か引きずったような跡は先ほどの者が這って逃げてきた跡だろう。

戦はまだ終わっていない。人間側の罠かもしれない。だが…放ってはおけない。

漂う臭いと嫌悪感に顔をしかめながら用心深く進む。


(ここか…?)


地面が血でぬかるんでいる。だがその中心と思われる場所には何もない。

だが、


(木々に隠れた者が数名いる…?)


腰の剣を抜き、切り裂こうと思った矢先、剣が何かに当たった。


「あぁ…結界を張れる者がいるのか。」


森の中から小さく何かをブツブツ呟く声が聞こえる。

詠唱を続け、結界を維持しようとしているのだろう。


「だが、私を足止めして何になる?この結界は破るのは簡単だが…」


私は、右手だけを龍の腕に変化させ、結界を割った。

森の中で詠唱をしていた者は苦しむような声を上げていた。

結界が割れた反動が辛いのだろう。


『『『ブツブツブツ…』』』


別の場所からまた詠唱が聞こえた。

どうやら今度は3人の同時詠唱らしい。

そして槍を持った男が1人出てきた。


『…貴女様を足止めするだけが目的では無いのですぅ』


ニタニタと口に笑みを浮かべている男は、

目に光など宿っていない。

白目のない、真っ黒な目。赤黒い肌。口には乾きかけの血。


『どうかぁ、血を頂けないでしょうかぁ?あと心臓も出来ればお願い致したくぅ…』


「それはおいそれとあげられるものではないんだが…食うのか?」


『そんな勿体ないぃ!貴女様の血と心臓は特別な物…有効利用しなくてはぁ!』


そう言って男は結界越しに槍を突き刺してきた。


「結界の中とはいえ、少し動けば防げるぞ?」


龍の手で結界をすり抜けてきた槍をへし折って見せた。

特殊な魔法加工をして結界を抜けるようにしているようだが結局は普通の槍だ。


「さて、有効利用とはどういった事なのか…聞かせてもらおうか!」


力任せに結界を殴ると、ガラスが割れるかのように結界は簡単に割れた。

詠唱していた3人は吐血してうずくまっている。

龍化していない左手で剣を握り、男の足を切り落とす。


『あぁぁぁああぁぁっ!!!』


「他に策は無いのか?結界だけか?…なんだまだ何人もいるじゃ…!?」


森の中の人間を殲滅せんとしていた所、私の足元に魔法陣が発生した。

人間の策略かと一瞬思ったが、足を切り落とされた男も他の人間も驚愕している。


「ちっ…」


複雑な魔法陣、きっとかなり高度な魔法なのだろう。直撃したら無事ではすまない。

そう思って、瞬時に飛び上がるが、魔法陣は私自身に発動しているようでずっとついてくる。

どうすれば防げるか…と思ったその時、

魔法陣から白い蔓のような物が出て体に巻き付いた。


(まさか転送魔法!?)


魔法陣の中に足から引きずり込まれていく。

だが転送魔法が使えるのはこの世にただ一人。


(何故、まだ私は戦っているのに。どうして……姉上!)


魔法陣に引き込まれると同時に私の意識はそこで途絶えた___。



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