鬼人の門番
意気揚々と街の出入口である大門へと向かう。
場所を説明すると、神殿を出て真っ直ぐ行けば着く。
商業エリアに居たので左回りに移動中だ。
門付近に入ると何やら騒がしい。
ざわざわと騒がしい中から情報をかき集める。
「聞いたか、フィールドがヤバイらしい」
「ああ、油断してると酷い目にあうらしいな、どうする?」
どういうことだろうか?
酷い目?そんなに強いモンスターでもいたのだろうか?
そうは言うがサービス初日である。
運営の粋なジョークだろう。
と、そこへ大門から3人程のプレイヤーが走って来た。
「ふざけんなこのゲーム!」
「二度とやるか!」
「ブツブツブツブツ……」
よほどのことがあったのだろう。
罵詈雑言が飛び交っていた。
一人にしては明らかに変であった。
大門の周りに居るプレイヤーも門の外を疑心暗鬼に見ている。
しかしいたって普通の草原フィールドが見えるだけだ。
紫鬼が話しかけてくる。
「どうします?」
「どうもこうもフィールド出なきゃ遊べないわけだし…」
「…ですよねー」
2人は意を決してフィールドへ出る。
特に変わった様子は無い。
青々と茂る草原のフィールド。
遠くには徘徊する虎型モンスター、目の前には突然現れた明らかにヤバ目なアンデッドモンスター。
骸骨の体に漆黒のローブ、頭には金色に輝く王冠、赤く光る双眸は恐怖を感じさせる。
右手には杖、左手には本とおおよそのモンスター名は判断できる。
普通のゲームならそれでもおかしくはない。
リッチだ。しかしただのリッチではない。
体長3メートルは超えているのだ、これがただのリッチなら、僕も早々に引退を考える。
2人はモンスターの名前を確認する。
『オーガロード・リッチ』Lv.50と表記された。
オーガか、通りでデカい訳で…。
よく見れば角がある。
飾りだと思ってた。
「ハハッ…」
隣から引きつった笑いが聞こえた。
あまりの事にモンスターのレベルが50ということに意識が行かない。
オーガロード・リッチが杖を掲げたのが見えた。
杖の先端が妖しく光る。
逃げようとして焦る。おかしい、動けない!
金縛りか何か、スタン系の技をかけられたみたいだ!
横目に紫鬼も見るが同じようになっている。
再び杖が光り魔法が発動する。
終わったな。
そう思った瞬間右の方から声が声が飛んで来た。
「馬鹿か貴様ら!」
姿は見えないが声で男だと判断できる。
「マジックショット!」
紫の弾がオーガロード・リッチの即頭部に炸裂する。
ヒットポイント-1。
強すぎる。あれだけしか効かないなら自然治癒で直ぐに完治するだろう。
しかしそのおかげでオーガロード・リッチのターゲットが先ほどの男に移動したようだ。
スタンが解除されるまであと少しなのでそれまで我慢する。
「こっちだ木偶の坊!」
男がオーガロード・リッチを引き連れて走っていくのがわかった。
スタンが切れた瞬間に二人して腰を着く。
「なんだったんだアレ!?オーガロード・リッチ!?バランスブレイカーにも程があるでしょ!?」
紫鬼が文句と戸惑いを吐く。
「さっきの奴らが言ってたことがわかったな…」
アレと出くわして仲間がやられたか、囮にしたか、なにわともあれ襲われたのは間違いないはずだ。
それにしてもさっきの男はどうなったのだろうか?
助けてくれた恩もあるので一言お礼を言いたい。
「紫鬼、とりあえずここから離れよう。もしアレが門から出てくるプレイヤーを狙うのだとしたらここにいたら危ない」
「そ、そうだな。あ、あそこに小さな林があるみたいだ!そこに避難しよう!」
紫鬼が指を差し教える。
左側の少し離れたところに確かに小さな林があった。
ひとまずはそこへ逃げることにした。