一矢報いる
レオン王が殺られた。
空から現れた忌まわしき侵入者によって。
バルバロス王が叫び、レオン王の騎士達が一斉に少年騎士に襲いかかる。
しかしその光景を溜息と共に見ていた少年騎士は素早く剣を横に回転して斬り飛ばした。
「先走るなクリス!」
クリスと呼ばれた少年騎士に遅れながら更に空から無数の騎士が落ちてくる。
その中にはジェイドの姿もあり先に行ってしまったクリスを怒りながら落ちてきた。
ジェイドは着地と同時にナオヤを見つけると剣を抜く。
予想外の状況に呆気に取られていたナオヤだったがジェイドの殺気で我に返る。
すかさず自身も刀を抜く。
「ヤオ、大将は任せろ!お前はみんなに指示を出せ!」
「わかった!」
それだけ言うとナオヤは地面を蹴ってジェイドに突撃する。
既にこの場は混戦状態である。
いや、纏まった部隊があちら側に一つ有るだけではあるが間違いなく敵の有利だろう。
包囲陣をしていたら陣の中に敵が現れたのだから。
剣と刀が火花を散らしてぶつかりあう。
その様子を見てナオヤは明らかにジェイドが以前よりもありえないぐらいに強くなっていることがわかった。
「今すぐに死んでこの世界から消えろ侵略者ァ!」
「お前らの力は一体何なんだ!?」
二人の言葉が重なって互いにかき消される。
それでなくても混戦状態で会話など聞き取れなかった。
※※※※※※※※※※
バルバロスはレオンを助けようと剣をクリスに振りかざす。
しかしクリスはそれを軽くあしらってバルバロスを地面に転がす。
バルバロスは直ぐに立ち上がり再び立ち上がる。
「うざ」
そんなバルバロスを見てクリスが暑苦しそうにそう言った。
そして眼下に横たわるレオンを見るとニヤリと笑った。
そしてあろう事かクリスはその首を跳ね飛ばしたのだ。
「あーあ、これでもう生死の安否は必要ないね」
その光景を見せられてバルバロスの目が血走る。
先程よりも早い疾走を見せる。
「お前はここで死ぬべきだ!」
残虐非道な行いをするクリスにバルバロスが唸り声を上げた。
しかし、やはりというべきかクリスはそれを見て眉間に皺を寄せる。
「だーかーらー、そう言うのがうざいんだって、力も無いのに良く吠えるね。あっ、そっか弱い犬ほどよく吠えるってのは君のことか…ってこれは猫か!」
笑うクリスを隙と捉えてバルバロスは勢い良く剣を振りかざした。
クリスは再びそれを軽くあしらうかのようにバルバロスの手を蹴り剣を自身の後方に弾き飛ばす。
「まさか一国の王がただの脳筋?それにしてもこの力は良いな!」
猪突猛進なバルバロスにそう告げると今度は自分の番と言わんばかりにクリスが剣を両手で構えて上から斬りつける。
バルバロスは両腕の篭手でガードをしようとクロスさせる。
クリスの一撃がバルバロスに受け止められたのを見て不服そうな顔を見せる。
しかし直ぐにクリスの顔は驚きで目が見開かれる。
「ふんっ!!」
「なっ!?」
鼻息を鳴らしながらバルバロスはクロスした両腕を剣を挟んだまま引き戻す。
それだけではない、更にその篭手にからは三枚のバルバロスの腕ほども長さがある刃が出現したのだ。
バルバロスは右拳に力を入れて得物の失ったクリスに振りかざした。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「マジックアイテムか!」
隙を突かれたクリスだったが瞬時に地面を蹴って後方へ下がる。
刃はクリスの目の前で下に通り過ぎる。
ハラリと自身の髪の毛が数本落ちてくのが見えた。
「今のはちょっと驚いたよ、けどそれだけだ!」
クリスは懐から刃の無い剣の柄を取り出すとそれを持って構えた。
「笑止!」
バルバロスは両腕を構えて突撃する。
無論油断をしているわけではない。
相手が相手である故にむしろ神経を研ぎ澄ましていた。
世界には数多のマジックアイテムがある。
その中には見えない刃を持つ剣や使用時に周囲の空気を取り込んで風の刃を生成する物もある。
今しがたクリスが取り出したマジックアイテムは後者だとバルバロスは推測する。
理由は前者のマジックアイテムは見えないだけであり刃自体はあるからだ。
しかしクリスはそれを懐から取り出したのだ、つまりそれは刃を使用時に生成する後者である。
クリスも剣を上段に構える。
丁度柄の真ん中がバルバロスの方を向く構えだ。
その構えを見て咄嗟にバルバロスは左に避けた。
理由はクリスが刃を飛ばしてくると思ったからだ。
ああいう武器は飛び道具としても使うことができると聞いたことがあるからだ。
「うーん、残念!」
刹那、バルバロスの左足と左腕が宙を舞った。
その状態ではまともな着地など出来ず、転がる。
「ぐおぉぉ…」
傷口を抑えて唸る。
バルバロスはクリスの手にある剣を見る。
そこには風の刃でも不可視の刃も無かった。
「とんだ見当違いだったか」
そこにあったのは光り輝く刃を出した剣だった。
クリスはそれを見せつけるかのごとく一振りする。
「全てを両断する光剣だよ。使用者の魔力でその刃の長さを変えることが出来る優れ物さ、しかも軽い!」
「通りで避けても当たるわけだ」
クリスの顔は既に勝者といった感じで笑みを浮かべていた。
相手の手足を奪ったのだ、それも当然だろう。
バルバロスは力を抜いた。
それを見たからだろうかクリスは止めを刺そうと近づいた。
それに気づいたバルバロスの騎士の何人かが敵に背を向けて走る。
先程と同じくクリスが剣を構える。
そして、振りかざす―――はずだった。
「え?」
そこに崩れ落ちたのはバルバロスでは無くクリスだった。
バルバロスは笑いながら地面に転がったクリスの両足を右篭手の鉤爪に突き刺す。
「殺気を消したからって殺意が無いわけじゃないぜ?」
「クソが!」
クリスは地べたを這いながら剣をバルバロスの胸にに突き刺した。
バルバロスは体をだらりと崩れ落ちさせると動かなくなった。
しかし変わらず顔は笑っていた。
それが苛立たしくクリスは剣を顔に突き刺そうとする。
しかし、突然の静寂に動きが止まった。
辺りを見渡すとそこに動く人間は一人も居なく―――!?
一人、確実にこちらに近づいてくる人物がいた。
「お、お前は!?」
クリスは信じられないと言わんばかりの表情をするしかなかった。




