晴天に嗤う
進軍を開始して一日は経っただろうか、空には雲一つない空が続いている。
ナオヤはアビリティを使い兵全体の速度を極限まで上げていたので疲労を危惧していた。
しかし兵たちは皆足並み揃え疲れを感じさせない程に整っていた。
無論休憩を一時間前ほどにとっていたので当然といえば当然だがそれでもナオヤは感心するものがあった。
三同盟からなるこの軍隊はただの戦争をするのではない。
革命の戦いを行うのだ。
負ければ三国は地図上から消え、後世の歴史家にテロリストの烙印を押されるかもしれない。
何しろ我々が行う戦争に善悪を決めるとしたら間違いなくエスクドが善で三同盟が悪だからだ。
理由は簡単だ、エスクドはこの世界に現状平和をもたらしている。
きっと今後もそうなるだろう。
そして我々はその平和を脅かす。
火を見るより明らかな善悪だ。
しかし、だからと言ってナオヤは足を止めることはしない。
頼まれたからじゃない、自分の意志でそう決めたのだ。
復讐かと言われれば否定はしないが肯定もしない。
身内である仲間は助けた。
もしかしたら自分が来る前に既に身内が何人も殺されてるかもしれない。
だから否定も肯定もしないのだ。
かと言って今後ナオヤの次に現れる身内がエスクドに殺されないとも限らない。
エスクドはその時になれば殺すのだろう。助けを、会話を求める我らの言葉に耳を塞いで。
それだけはダメだ。ここでこの身が滅びようとそれだけは阻止するのだ。
大国エスクドを滅ぼす。
兵士を殺し、騎士を殺し、王を殺す。
この三つを消せばエスクドは瓦解するはずだ。
民や貴族連中は一応残しておこうと思う、歯向かわなければの話だが。
しかし勘の良い連中は既にエスクドから消えてるかもしれないが。
「ナオヤ様!」
突然一人のリザードマンの兵士が走ってこちらに向かってきた。
そのリザードマンは酷く慌てた様子でいたので何事かと思った。
「どうしたんだ?」
「私は偵察に出ていた斥候部隊のものです!実は前方に既に敵の軍隊が!」
「なんだって、早すぎやしないか!?」
驚くナオヤを他所にバルバロスが剣を引き抜く。
およそ自身の身の丈程もある大剣だ。
それを背中に下げていた鞘から取り出すと悠々と肩に乗せる。
「驚いてる暇は無いぞ、来たってんだから来たんだ。予定ってのは結局どこまで行っても予定だ。臨機応変に行動しないと生きては帰れぇぞ。さあ大将、気張れや」
そう言ってバルバロスはナオヤの肩を叩いた。
そうだ、何を緊張しているんだ自分は、こんな戦前の世界じゃちょくちょくやってたじゃないか。
なに、残機が一回限りだけって違いだけだ。
力はある。能力もある。あとは度胸だけだ。
ナオヤは一度拳と拳を叩くと息を吸う。
伝令が来てからおよそ一分、前線の衝突まであと数秒だ。
こっちの斥候が気づいたんだ、相手の斥候だってとっくに気がついてて当然。
ナオヤは腰の鞘から愛刀の八咫烏を引き抜く。
気づけばレオンもその手に杖を持っていた。
彼はどうやら魔術師らしい。
余裕があればおてなみ拝見といきたいものである。
と、前方から敵軍が見えてきた。
「…あれだけなのか?」
ナオヤはその予想以上の少なさに足を止めた。
「馬鹿な!」
ヤオが驚きの声を吐き捨てた。
驚くのも無理はない、ヤオは敵の王から兵士や騎士を進軍させたと聞いているのだ。
それがこれっぽっちなわけがない。
「総勢…百とちょっと…だと?」
流石のバルバロスも視認した数に戸惑い足を止める。
「変ねぇ、あれ、騎士じゃなくて一般の兵士だけよ?」
レオンが敵軍を観察して情報を伝える。
その間にも前方の兵士達は現れた敵に迫ろうと剣を抜いて走っている。
「止めさせるべきでは?」
ヤオの言い分も分かる。
これは明らかに罠だ。
「いいえ、少し様子を見てみましょう」
レオンがそう提案してきた。
「最初に伝えたとおりバルバロス王の兵士は敵を囲うように動いてるわ。まずは戦況を―――」
そう言いかけてレオンの言葉は空からの侵入者によって途切れてしまう。
その場にいたナオヤや他の騎士たちも言葉を飲んだ。
「レオン王!」
バルバロスの言葉にレオンの返答は無く、代わりに空から現れた侵入者がレオンの背中から剣を引き抜いた。
そいつに見覚えが有る。
あの時、あの場所でジェイドと話をしていた少年騎士だ。
名前は覚えていないが確かにあそこにいた。
「君たちあまあまだよ」
少年騎士はニヤリとそう言うと右手を口にくわえて口笛を鳴らした。
それを合図に無数の敵が三同盟軍の頭上に降り注ぐのだった。




