アンノウンな王
ナオヤが瞼を開けると眼前にはセルピエンテのものとは趣向の違った装飾の施された門があった。
それは何というかテーマパーク寄りな感じである。
左右に立っていた門番が突然現れた三人に驚きながらも近づいてくる。
「何者だキサマら!」
門番の一人が手に持っていた槍をこちらに突きつけた。
このままでは王の間に入る前に牢屋に入れられてしまう。
それでは間に合わない。
「待て、怪しいものではない、私はセルピエンテの王シェイファー…」
「怪しい奴め、人型の魔物か!?」
もう一人の門番が名乗るシェイファードを遮って槍を突きつける。
「いや、だから話しを…」
「言葉を操るとはますます怪しい魔物だな!」
あれ、これまずいんじゃね?
門番二人は今にも飛びかかってきそうな勢いである。
最悪の場合ノックアウトにでもするかと考えたが後々になって後腐れが残っても困る。
もしもの時は飛ぼうかな。
てか今からでも飛んじゃえばいいじゃないか。
ナオヤは両手をポンと叩くと二人の腰に手を回して飛んだ時に落とさないようにする。
「お前達、御止しなさい。そこの御三方は私のお客人よ」
突如門の上から声が発せられる。
金髪ロングをカールさせ、ワンピースの様な服を着た人物。
「そ、その声は!」
「レオン王!」
え、こいつが?
ナオヤは平伏する門番が崇めるレオン王を見る。
聞いていた話とは大体該当するのでそうなのだろう。
しかし一つだけ違うところがあった。
「これはこれはレオン王、久しいな。して、そのお面は?」
そう、聞いていた話と違うところというのは彼は顔にお面をつけているのだ。
目元のみ切り抜かれたその白いお面には他に特徴は無い。
「今日はメイクのノリが良くないから顔を見せたくないのよ…それにしてもあなた、男もいける口なのん?」
甘ったるい口調で気色悪いことを突然言うレオン。
「自分はいたってノーマルです」
「あらそうなの?そんなに二人をガッチリと、ムッチリと鷲掴んでいるものだからてっきり」
ナオヤは自分がもしもの時のために空を飛ぼうとしようと思って二人を掴んでいたことを思い出す。
慌ててナオヤは二人を離した。
掴まれていた二人はというと何やら意味ありげな視線を、具体的に言うなら近寄らないで的な視線をこちらに送ってくる。
「違うからな!違うからな!!」
「それでレオン王はどうしてそのようなところに?」
シェイファードはナオヤには目も呉れずにレオンと会話する。
「無視…だと…」
シェイファードの驚愕の行動に固まる。
今まであんなに恭しかったのが嘘のようだ。
「私?そりゃ勿論あなた達をお出迎えするために決まっているじゃない」
「何故ご存知だったのですか?我々がここへ来ることを知っているのは数名程で、しかも出立したのは追先ほどです。それでわかっていたなど信じられる訳が――!?」
「ダメじゃない坊や、レディの秘密は神秘なの。気安く触れちゃいけないよの?まあ強いて言うのならアレね、私は大抵のことはなんでもお見通しなのよ」
レオンはいつの間にかヤオの隣に立ち彼の唇に人差し指を添えて言う。
その光景に戦慄した。
ナオヤ自身もその動きを捉えられなかった。
その時にとある噂を思い出した。
それはレオンが最上位種と言うものだ。
いや、しかし、それだけでは説明のしようがないことが起きたのだ。
ナオヤはレオンの種位を見ることにした。
結果だけ言うと視れなかった。
もしかするとあのお面がジャミング機能を働かせているのかもしれない。
それに驚いているとレオンが向き直る。
「だからダメよレディの秘密を覗いちゃ、そんなんじゃモテないわよ」
自分たちは本当にこいつを信じていいのだろうか。
会ってみて一層不信感が湧いていきた。
「あらやだ私ったら、うっかりしてたは、軍よね軍、実はもう揃ってるの。案内するわ」
突然思い出したかのように手を叩く。
レオンが門番に門を開けるよに指示する。
門番は直ぐ様門を開き始めた。
その中には綺麗に整えられたバラの庭園と噴水があり、その奥にはまるでおとぎ話に出てくるようなお城が建っていた。
「この城の奥に我が軍の演習場があるの。行きましょう。あっ、一度城を通るから」
そう言いながらスタスタと庭園を歩いていくレオン。
城の階段を上がって扉を開けて中に入る。
中も外観に負けず劣らずといった感じである。
左右に螺旋階段があったりするがレオンは真っ直ぐに進みまた扉を開けて入る。
ナオヤ達も中に入るとそこは長い廊下となっていた。
どうやらこの先をずっと行くと演習場のようだ。
城を出て演習場を出るとそこには地獄のような光景が広がっていた。
それは想像していたホモホモしいものでは無く。
文字通りの地獄だった。
屈強な筋肉を持つ男たちというのは概ね予想通りだったが彼らは現在進行形で仲間内で殺し合っているのだ。
「うおおおおおおお!!」
「ああああああああああああああ!!」
演習場の土は真っ赤に染まり、何かの肉片が所々に落ちていた。
「ごめんなさいねぇ、うちの子たちやんちゃなものだから…」
照れたおばちゃんのような仕草をするレオン。
「これが…やんちゃ?」
ほれ、見たことか、ヤオが戸惑っている。
すると歴戦の猛者の様な風貌の兵士たちがレオンの存在に気がついた。
「おお、レオン王だ!」
「王が来たぞ、整列!」
「急げ!片付けろ!」
あっという間に地獄の光景はその風景を少し残して消えていく。
流石に染み込んだ血は落とせないということだろう。
しかし、あれほどまでに乱闘をしていた彼らは一切の疲労感を見せなかった。
むしろやる気に満ちた笑顔を見せている。
「じゃあ行きましょ」
「行くって、どうやって行くかももうわかってるのか?」
「徒歩かしら?それとも戦車?」
流石にナオヤ本人が運ぶとはわからなかったようだ。
ナオヤは姿をバルバートで見せたものに帰ると皆を乗せてセルピエンテへ飛んでいった。




