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INVADER  作者: 青髭
異世界漂流編
80/90

幼き日の思い出

「地震か?」


ナオヤは大地が揺れたのを感じてそう呟いた。

現在はマレンテン等が住まうボロ屋に来ていた。

時刻的には昼過ぎだろうか。


「ちょいちょーい、無視は酷くないか!?」


「そうじゃそうじゃ、この老体にムチを打ってやったというのにあんまりじゃ」


じゃあやるなよ。と言いたかったが言ったら言ったでまた絡まれるに違いない。

…と、何やら体中をちびっ子にまさぐられている。

少しくすぐったい。


「…何か?」


「いや、大大魔王軍と名乗った以上なにかそれらしいことをしないといけないとこの前マレンテンに言われてて…」


思いっきりマレンテンを睨む。

子供に何させてんだこいつは。

無論ナオヤに取られるようなものはないし取られるようなヘマもしないのだが。


「この人なんにも持ってないよ?」


いつの間にか離れたノシディオが結果を報告していた。

それを聞くや否やハンカチ片手に涙を拭くふりをしながら同情する。


「ノシディオや、そんなことを言うものではありません。彼だって一生懸命生きているのです。例え何もなくとも、例え素寒貧でも健気に生きているのです!」


こいつムカつくな。

正直殴りたいのを我慢している。

これ以上セルピエンテやシェイファードに迷惑をかけられない。


「お前後で覚えとけよ」


だから一応言っておいた。


「それにしてもお前ら、この子に物騒な名前付けるなよ」


「???」


三者三様に首を傾げる光景はまるで本当の家族のようでもあった。

しかし騙されない。

この赤毛の幼女の名前にどうも聞いたことがあるような引っ掛かりを覚えていた。


そしてつい今しがたそれが判明した。

魔王と言う単語で思い出したのだ。

ノシディオとはこの国ができるきっかけとなった魔王の名前であると。


「ノシディオって名前だよ」


「あ、結構いい名前でしょ?お気に入りなんだ」


「それ、大昔にこの国の王様に倒された魔王の名前だぞ?」


「…うぇぇぇぇぇぇえ!?」


奇声を発して驚くノシディオ。

気に入ってたって所も驚きだが何も知らなかったのか。

再びマレンテンを睨む。

顔を逸らして全然吹けていない口笛を吹くマレンテン。

どうしてくれようかこいつ。


「待ち給え、ナオヤ!」


睨むナオヤを手で制してマレンテンはノシディオに顔を近づけてヒソヒソと耳打ちする。


「いいかいノシディオ。我々は実は魔王軍の生き残りなのだよ。故に我々が大大魔王軍を名乗るのは間違っていないのだ。それに今は肝心の魔王は不在、ならばそれに乗じて名乗っておくのが吉だ、後々…えーと、そういつか我々がこの世界を乗っ取った暁にはノシディオ、お前が王様にされるんだぞ?」


「まぢか」


話が終わったのか二人揃って振り向く。

何故かノシディオは腰に手を当てて胸を張っている。


「いいかナオヤ、こちらにおわす方をどなたと心得る!恐れ多くもさきの大魔王、ノシディオ様であらせられるぞ!頭が高ぁぁい!」


無言でパンチ。

頬にだ。


「ぐぼへぇっ!!」


「マ、マレンテーン!!」


壁にめり込むマレンテンに駆け寄るノシディオ。

どうにか引っ張ろうと懸命マレンテンを揺さぶる。

ナオヤはため息を一つつくとペランサに向き直る。


「なあ、あんたら本当に何なんだ?」


「そうじゃのう、今は廃れた一族の生き残りかのう…」


そう言いながら骸骨の仮面を髭を撫でるように撫でるペランサ。

この動物の頭蓋骨を模した仮面がその一族の象徴なのだろうか。

もしくは…。


「それじゃあそろそろお(いとま)するよ。長く居て悪かったな。その肉、大事に食えよ」


ナオヤはドアノブに手をかける。

そこでやっとのことで壁から抜け出したマレンテンが声をかける。


「なんだもう行くのか?もう少し居ても良いのだぞ?」


「連れがいるんで」


「そうか、では最後に一つ助言だ、この国は―――」


場所は変わり、王城の待合室。

ヤオ、フォルーダ、デクスはこの国の王にして最強の戦士とも称されるガルデバラド・ネセス・ベルゴール・エスクードとの謁見を待っていた。


俗にガルド王と呼ばれる彼に会うのはヤオ自身も数回ほどしかないかったが、その風貌や雰囲気は忘れることは無かった。

歳は現在五十半ばで顔も既に老いが見られるという。

老いはあるが引き締まった肉体は若者でも歯が立たないとか。


黒髪を短く切り揃え、口髭を整えるのが趣味と聞く。

そこを褒めると喜ぶとか。


そして歴代の王の中では五番目に強いと言われている。

だがあれで五番目なのかと息を飲んだのをヤオは幼い記憶で覚えていた。

あれはいつだったか、まだヤオが幼き日のことだ、近隣諸国を招いたパーティーが開かれたので父と母と一緒に参加した時だ。


そこでガルド王は得意とする片手剣を持って剣舞と剣技を披露したのだ。

当時はガルド王もまだ若く勇ましかった。


最初に披露した剣舞は精錬されており見惚れたものだ。

剣がまるで生きているかのように動かす様は見ていて凄く心をくすぐられたものだ。

剣技は更に凄かった。

一瞬にして剣が別の生物になったかのような感覚だ。

子猫と思ったら獅子だった驚きがあった。

空間すら引き裂いたあの切り込みに多くの王子や貴族の子息が心を奪われたことだろう。

その場で弟子入りを志願した子もいたはずだ。

親が青ざめた顔で慌てて謝罪したのを覚えている。


今思えば自分が騎士を目指したのはガルド王の影響が強かったかもしれない。

それほどまでに彼の王は強かったのだ。


ヤオが思い出に浸っていると待合室の扉がノックされる。

扉を開けて入ってきたのは一人の兵士だった。


「セルピエンテ王国第一王子、ヤオウーシェン・ザラガッグ・セフィロドラゴン様。以下お付の騎士二名、王がお待ちです。こちらに」


どうやらこの兵士が案内してくれるようで三人はあとを付いて行く。

白い壁に赤い絨毯が長く続き、大きなガラス窓からは太陽が入ってくる。

とても美しい城だ。


そして幾度か階段を上がり、一際大きな門の前にたどり着く。

その左右には騎士の格好をした男が二人真っ直ぐ前を向いて立っていた。

格好からしてパルディオ聖騎士団だろう。


「ヤオウーシェン・ザラガッグ・セフィロドラゴン様、御入場!」


右側の騎士が高らかに言うと重々しい音と共に門が開く。

ヤオ達は高鳴る心臓を抑えて足を一歩動かした。

ここからは自分の一言一句が国政に直結することを自覚しながら。

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