髑髏面の三バカ
ナオヤは先日の戦闘地に訪れた。
建物のいくつかは崩れてはいるものの兵士や大工と思われる人達が復興作業をしていた。
一通りは極端に減ってはいるもののお店などは開いているようで都市運営は回っているようだった。
そんな中、一際目を引く人物が居た。
間違いない、ジェイドだ。
ジェイドは騎士を二人連れて何やら調査をしていた。
流石に見つかっても問題は無いだろうがここは身を隠しておくべきだろう。
ナオヤはそう考えると路地裏へと身を隠す。
ジェイドはふと視界に見えた男を捉える。
「どうかしましたか団長?」
「いや、何でもない」
ジェイドは路地裏へ消えた男から目を離すと再び先日の戦闘で破壊されたもう癒える事のない傷跡を見る。
ナオヤと呼ばれた龍人の男が放った一撃で抉られた都市の大地を。
「凄いですね…これを個人で…」
「関心している暇など無い、降りるぞ」
「ハッ!」
ジェイドと騎士達はその抉られた大地に飛び降りた。
「おうおう兄ちゃん結構な大金持ってんじゃねぇかあぁん?」
ナオヤが路地裏に入ると、そこにはガラの悪い子供達に四方を塞がれ金をたかれれている何とも珍妙な男が居た。
何故珍妙と表現したかというとその男はボロボロの貴族風衣装を身に纏い、龍の髑髏を模したお面を頭にかぶせていたのだ。
肩まである長い金髪がやけにサラサラとなびいているのが少しうざい。
おまけにちらりと見える顔が少し美形なのがうざい。
「ま、待ち給え君たち!こ、これは私が肉体労働の末に会得したお金なのだ!」
「知るかよ!」
「やっちまおうぜ!」
悪ガキのリーダー各が男にジリジリと詰め寄って行く。
手には木の棍棒があり今にも殴りかかろうとしていた。
「ま!待て待て!話せば分かる!そ、そうだ半分、半分やろう!」
男は金が入った袋に無造作に手を突っ込んで差し出す。
悪ガキのリーダーが手下に指示を出してそれを受け取る。
引きつった笑顔を見せる男。
満面の笑みを浮かべる悪ガキ達。
「やっちまえぇぇぇぇ!」
「ぎゃーおたすけー!」
まるで嵐だった。
四方八方から迫る拳や棍棒が男を襲う。
まさに嵐と言う他ないだろう。
悪ガキ達が立ち去り路地裏の奥へと消えていく。
その場に残ったのはボロボロからズタボロへ変わり果てた男だけだった。
ピクピクと手足を動かし、まるで死にかけの虫を思わせる。
ナオヤは哀れに思い近づいてみる。
男は顔を地面に埋めていた。
不思議なことにあれほどの暴力を受けているのに龍の髑髏面は外れることなく頭に被さっていた。
ナオヤはしゃがんで話しかけてみる。
「大丈夫か?」
「何故助けない!」
顔を上げた男はプンスカと怒る。
素早く立ち上がり両足両手を大開にする。
そしてナオヤに指差す。
「ちーみには良心は無いのかね良心は!」
なんかとんでもなくめんどくさいやつに話しかけてしまったなと思ったナオヤだった。
「え、いや、なんかごめん…」
とりあえず謝っとく。
「分かればよろしい」
男は衣服に付いた土を払う。
着崩れを正し、仮面を顔の位置に戻す。
そしてナオヤに向かって手を差し出す。
「?」
突然出された手に困惑するナオヤ。
手相か?
確かにナオヤは簡単な手相ぐらいなら分かる。
しかしそうではないだろうと差し出された手の上にそっと自分の手を乗せてみる。
「違わい!」
ペシっと叩かれる。
男はもう一度手を差し出して言う。
「お金だよお金!持ってるんだろ?いくらだ?ギル金貨?エル銀貨?ウル銅貨か?とりあえず有り金全部置いてけー!」
叫びながら急に飛びかかってきた。
無論ナオヤも抵抗する。
「いきなり何をするんだ!」
「見殺しにしたお前から金を恵んで貰うんだよー!」
もみくちゃになるナオヤと男。
この男、タコのように体をくねらせて絡み付いてくる。
有り金渡すまで離さない気だ。
「意味がわからん!」
「ぐへ!」
やっとの思い出引き剥がして壁に叩きつける。
男はそれでノックアウトしたのかガクンと崩れてしまった。
やりすぎただろうか。
ナオヤは人差し指で仮面を突っついてみる。
「おい、生きてるか?」
どうやら本当に気を失ってしまったようだ。
ここに放置しても問題はないのだがそれでは後味が悪い。
この国のしてきた事は気に食わないがこの見るからにみすぼらしい男には何の関係もない。
ナオヤは一度溜息をつくと男を背中におぶさった。
「何してるんだろうな自分は…」
とりあえず路地裏を進んで行くことにした。
路地裏を進んでいてわかった。
この国は確かに最強の国力を持っているだろう。
しかしここには孤児が少なからず居たのだ。
戦争か先日の一件か。
こうして親のいない子供が暗がりで暮らしていた。
「力があるんだから少しは助けてやればいいのに…」
暴れた自分が言うのもどうかと思うがそれはそれだ。
現に放置しているのは国であり民衆だ。
どうせだったら根ごと抜いてやろうかとも思う。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
と、暗い考えに浸っていると少女の大声に足を止める。
「うるさ!?」
丁度ナオヤ達が最初に通った街道に出た時だった。
街道の反対側の方に、紅髪ショートに山羊の髑髏面を被ったどう考えてもこの男の仲間と思われる少女がそこには居た。
少女が飛び出そうとすると馬車が通り過ぎるので足を引っ込める。
「待ってろ、今そっちに行くから!」
少女は「わかった!」と頷く。
ナオヤは馬車の合間を見計らって走る。
そのまま紅髪の少女に近づく。
「ついてきて!」
どうやら家まで運ばされるようだ、まあこの小さな少女にこの男を運ぶ力はないだろうから仕方ないだろう。
少女に連れられて再び路地裏へ入っていく。
どうやらここより先はいわゆる貧民街と呼ばれる場所のようだ。
チラホラと座り込む人を目にする。
「どこまで行くんだ?」
「あそこだ!」
少女が指を指して教える。
その先には廃材でできた小屋があった。
大きさは六か七畳ほどだろうか。
あそこに二人で住んでいるのだろうか。
そもそもこの男が父親なのだろうか。
母親はいるのだろうかと考えていると家にたどり着いた。
「ただいま!」
「お邪魔します…」
中に入ると内装も外見に劣らずボロかった。
それでも雨風は凌げている様で、中と外では気温差が感じられた。
「お帰りノシディオ。あのバカは見つかったか…おや?」
中には母親…ではなく髑髏面を被ったヨボヨボの白髪のおじいちゃんが座っていた。
「珍しい、お客さんか」
老人はノシディオと呼ばれた少女と同じくボロ布を着ていた。
ここでナオヤは一つの結論に至った。
この二人がただの布を衣服としてるのに対し背中の男はボロボロではあるがきちんとした衣服を着ている。
つまりこの男がこの家族の収入源だったのだ。
そう思うと多少はお金を渡しても良いのかと思い始める。
「ペランサ、このお兄ちゃんがマレンテンを運んでくれた!」
「やや、本当じゃ、どれ…」
ペランサと呼ばれた老人が少し曲がった腰を叩きながら立ち上がり近づいてくる。
そして。
「キェェェェェェェイ!」
一発、マレンテンと呼ばれた男の首筋にチョップを食らわせる。
「グエェェ…!」
目を覚ましたマレンテンが首を掴みながらのたうち回る。
「ぐ、ぐるぢぃ…はっ、ここは!?」
「気がついたかマレンテン」
「ややペランサ、久方ぶりだな!不肖マレンテン、出稼ぎから戻ってきたぞッ!」
意識を取り戻したマレンテンは立ち上がるとキメ顔でペランサにそう言った。
「それで、その金は?」
「ぐぬぬ…面目ない、帰る途中で悪ガキーズに…」
「またか…」
落胆するペランサ。
てかまたって言ったかまたって。
こいつ弱すぎるだろ。
「ししししし、しっかーし今回は手ぶらではないぞ!」
そう言いながらこちらを指差してくるマレンテン。
「ん?」
「御恵みを!」
素早くこちらに来て見事な土下座を披露した。
ダメだこいつ。
ナオヤはため息をつく。
金は持っているは持っているがこの世界で使えるかは不明なので渡せない。
先程ギルなどエルなどウルなど聞こえたが確かめていないのでダメだ。
「わかったよ、金は渡せないけどこれなら…」
ナオヤは脳内でメニューを開き素材アイテムを表示する。
金属のインゴットやモンスターの素材など様々である。
その中からモンスターの素材で食材としても使えるものを取り出した。
「ほう、珍しい、マジックボックスを使えるのか…」
ペランサが空間からものを取り出したナオヤを見て感心する。
因みに取り出したのは神牛というモンスターの肉だ。
味は絶品と非常に人気のある食材だ。
それを一塊。
「おおおおおおおお!」
三人の声が重なる。
「み、見ろマレンテン、ペランサ、肉だ!」
「ああ、見えるともノシディオ、肉だ!」
「もう、満足じゃ…」
真っ白になるペランサ。
「バカ野郎!死ぬなら食ってからにしろ!」
そういう問題かよと思ったが存外こいつらは仲がいいようだ。
「いい家族だな」
「だろぉう?まあ血は繋がっていないがなガハハ!」
「そうなのか?」
少し驚いたナオヤにノシディオが補足を入れる。
「実は私はこの二人に拾われたのだ!」
「拾われた?」
誘拐じゃないだろうなとマレンテンを睨む。
それに気づいてか慌ててフォローを入れる。
「ち、違わい!倒れているところを助けただけでわい!…それにこの子は記憶が無いのだ」
「記憶が?」
ナオヤがノシディオを見る。
「そうだ、気がついたら二人が目の前にいたのだ!そんなことより飯だ!肉だ!!」
「お、おうそうだったな」
ナオヤは牛肉をノシディオに渡す。
ノシディオは満面の笑顔で家の後ろにある台所に向かった。
「そう言えばちみ名前は?」
「今更だな…えっと名前は…」
ここで本名を名乗っても良いものかと思考が過る。
それは戦闘時に居たあの男が自分を知っていたことだ。
間違いなく指名手配されてもおかしくはない。
だがしかし、ナオヤはここに来るまでにそのような張り紙も噂も無かったことを思い出した。
「名前はナオヤだ、ただのナオヤだ」
「ナオヤか、では今度は我々の番だな!」
マレンテンが大袈裟に飛んで空中で一回転、それに合わしてペランサとノシディオが飛ぶ。
勿論一回転付きだ。
真ん中にノシディオ、右にマレンテン、左にペランサがスタっと着地する。
左右の二人が膝をついて決めポーズをする。
二人は左右対称に顔に右手を当てて左手を後ろに回す。
ノシディオは両手万歳のポーズだ。
そして。
「われこそはマレンテン!国家転覆を目論む配下の一人!」
「われこそはペランサ!この世を地獄に変える配下の一人!」
「われこそはノシディオ!この世界を支配するものだー!」
「われらこそは、大大魔王軍!」
見事なまでの棒読みにどう反応していいやら困り、固まってしまうナオヤ。
大大魔王軍ってなんだよ大が一個多いだろ。
「見ろペランサ、ノシディオ!あまりの恐ろしさにナオヤはビビって動けないでいるぞ!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐトリオ。
これはあれだ。
めんどくさい奴らに関わってしまった。
そう思うナオヤだった。




