懐かしの直也です
「そうか勇者だ」
ナオヤの言葉にその場にいた一同が疑問符を浮かべうる。
「勇者がどうかしたのですかナオヤ様?」
「そのエスクード・パルディオってやつは職業が勇者だったんじゃ無いのか?」
「ええ、そのように聞き及んでおりますが」
シェイファードの言葉にナオヤは確信を得られた。
以前の世界、アウター・オブ・エデンでの話しになる。
オンラインゲームであるので当然だがイベント事が定期的に行われていた。
その中に魔王討伐を目的としたイベントがあった。
これは長期ゲリラ型イベントで唐突に始まる。まず魔王となるプレイヤーをある程度力のあるプレイヤーからランダムに選出する。
そして新参かまだまだ弱いプレイヤーの中から勇者となるプレイヤーをランダムに選出。
選ばれた二人のプレイヤーの職業には『魔王』『勇者』が付与される。
二つの職業の最たる能力に全ステータスの倍化がある。
レベルを上げれば上げるほどにその倍数は変化する。
当然全く同じ能力ではない。
魔王の方が有利になるからだ。
勇者の方にはパーティーメンバーにも本人程ではないにしても倍化の恩恵が得られる。
つまり、ジェイドも同じ職業を持っている可能性が大いにあるのだ。
そう考えると大国エスクドが何故あそこまで他国を寄せ付けないほどの力を持っているのか頷ける。
しかしイベントでは勇者が魔王を倒しても、魔王が勇者を倒してもその時点でイベントは終わり両者のステータスから勇者と魔王は消えてしまうのだ。
エスクードが魔王を倒した時点で勇者の職は消えるはずなのだ。
しかしその強大な力は現代まで受け継がれている。
職業の変質かあるいはこの世界の独自的な効果なのか。
スキルもアビリティも機能するこの世界でそれは起こり得るのか。
第一、勇者の職がジェイドにあるとして魔王はどこで何をしているのか。
いや、そもそも魔王は倒されている。
ならば次代の魔王は何故表舞台に現れないのか。
考えれば考えるほどに仮説は増えていく。
かもしれない運転ではないが限が無くなっていく。
仕方ない、一度動いてみることにしよう。
「エスクドに戻る」
突然の言葉にヤオやシェイファード達が驚く。
「ナオヤ様、危険です」
「父上の言うとおりだ、お前は顔が割れているのだぞ?」
「何言ってるんだ?お前も行くんだぞ?」
「なに?」
「当たり前だ、俺は割れてるかもしれないがヤオ、デクス、フォルーダは割れてない。そもそもお前たちは今本当はエスクド領内にいるはずなんだ。ここにいるほうがおかしい」
ナオヤの言葉は正しかった。
確かにナオヤは聖龍騎士として来てはいるがあの時は聖竜騎士の鎧は着ていなかった。
正確には体の変化に伴って粉々になってしまっただけだが。
「偵察も兼ねてだ。心配はないさこのマジックアイテムを使う」
ナオヤは頭の中でメニューウィンドウを操作して空間から数あるアイテムの中からそれを取り出す。
それは丸い透明な手のひらサイズのカプセルで、中には靄のような雲のようなものが入っていた。
言っておくが投げても中からモンスターは出てこないぞ。
「それは?」
「トランスボール。これを使うと自分の姿を変えることが出来るんだよ」
そう言うとナオヤは目の前で使って見せる。
使用方法は簡単で自分の立っている足元に目掛けてこのトランスボールを投げる。
カプセルが割れて中に入っていた煙のようなものがナオヤを包んで隠す。
本来なら予め自分が設定した形状に変身でき、使った直後に選択画面が現れるが今回は出なかった。
ならばとナオヤは以前の自分を想像してみる。
次第に煙が薄れて中から一人のヒューマンが現れる。
「なんと、これは…ナオヤ様なのですか?」
皆が一様に驚きの顔を見せる。
転移者冥利に尽きるというものだ。
それにどうやら成功したようだ。
右手と左手を開閉、次に顔を触ってみる。
まあ触っただけでは分からないが。
「鏡か何か、姿を写せるものは無いか?」
「直ちに」
シェイファードが近くにいた兵士に指示を出す。
兵士は直ぐに凝った装飾の姿見を持ってきた。
そこには生前というのも可笑しな話だが、以前の自分、人間の直也が立っていた。
黒髪黒目、黄色の肌とザ・日本人。
後は装備を変えれば何処からどう見てもヒューマンの一般市民だ。
「これなら問題はないよな?」
「確かに」
「大丈夫、偵察するだけだから。怒り任せに暴れたりはしないよ」
もしジャーフルが完全に死んでいたら話は変わっていただろうが。
今はナオヤも落ち着いていた。
「とりあえずは三人をつれてエスクドに戻る。その後自分は街を偵察、軍や聖騎士団が動いているのか見たら直ぐに戻ってくる」
こうしてナオヤ達はエスクドに戻るのだった。




