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INVADER  作者: 青髭
異世界漂流編
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王子の特権

ナオヤ達は日が昇る少し前に起きると準備を始めた。

暗がりをランプで照らしながら携帯用の朝食を済ませる。

ブロック状で固められたそれは口に含むと一気に水分を奪っていくので皆水を一気に飲む。

直ぐにテントを片付けて馬車にしまう。

そうこうしているうちに日が昇り始める。


「では行くぞ」


ヤオが馬に乗って先導する。

馬車が一台一台動き始めたのを見てナオヤとデクスも走り始める。

最初はゆっくりだった足も次第に加速して風を切り始める。


道中ではあちら側から来る馬車と何度かすれ違う。

また、右側に分かれ道があることも発見した。

あちら側はまた違う国へつながっているらしい。


あれから数時間走っていると壁が見えてきた。

どうやらあれがエスクドの首都シュナイデンの入口らしい。

近づくにつれてその高さも大きくなる。

しばらくして門が見えてきた。


少しづつ速度を下げて門の前で止まる。

一番前の馬車を引いていたリザードマンの男が下りてヒューマンの門番の所へと通行書を持って行く。

定期的に来ていることもあり手馴れていた。

門番が荷物のチェックを軽く済ませると門が開かれる。


再び馬車が動き出してナオヤ達もそれに付いて行く。

街の中は石造りの建物が並びセルピエンテとは似ているようで何処か違っていた。

遠くに見えるお城は白く美しいが大きさはセルピエンテがダントツである。

街並みを眺めているとヤオが近づいてきた。


「ナオヤ、一度我々騎士は馬車から離れるぞ」


「護衛はもういいのか?」


「エスクド内でバカをする奴はこの大陸ではいない、いたとしてもエスクドの騎士が黙っていないだろう」


「治安良し、国力良しとは凄い国だな」


「まあ、その調査もあるがな。裏が取れれば近隣諸国と同盟を組んでエスクドを打倒する気だろうな父は」


ヤオが小声で話す。

流石に今の内容を堂々と話すのは躊躇われた様だ。

仮にもここは敵国だからだ。


「とりあえずは騎士用に宿を借りる。デクスもついてこい」


「はっ!」


そう言うとナオヤとデクスは指示に従ってヤオ達に付いて行く。

今いる道は馬車二台同時に並走できるほどの幅だったが進んでいくと一際大きな通りに出た。

なるほど、こっちが大通りということらしい。

その証拠にヒューマンやほかの種族の亜人が行き交い賑わっていた。


「このまま向こうに見える門を通って貴族が住む区域に入る」


「良いのか?」


「一応王族だからな」


「そう言えばそうだった」


馬を走らせて行く、大通りにはセルピエンテでも見かけた様々な露天が出ていた。

露天だけでなくお店も所狭しとある。

中には奴隷商館などもあった。

奴隷は誰でも買えるが値段が高く一般庶民には手の出せない代物のようだ。

現に今まさに買われたであろう筋骨隆々なヒューマンの男と銀髪と白い角の生えた鬼人種の女が身なりの良い金髪の中年男性に引かれて馬車へ入れられていった。


「なあデクス、セルピエンテでも奴隷はいるのか?」


「いるにはいますがお店は無いですね。なんでもククロッチ様が奴隷を嫌っているとかいないとか…」


へぇーと興味なさげに返事をするナオヤ。

別に買いたいとか欲しいとか思ったわけではなく単純な好奇心からだ。


と、門まで付いたようだ。

ヤオが聖龍騎士団の徽章と王族であることを示す徽章を提示する。

直ぐにそこの門の責任者が現れると軽い挨拶と署名を済ませる。

何か責任者と話しているがここからでは聞き取れなかった。

しばらく待っているとヤオが手招きする。


「許可が降りた。行くぞ」


門を抜けると先ほどとはまた違った街並みが現れた。

石造りというのは変わらないが建物自体は変わった。

屋敷屋敷屋敷、所狭しではなく広々とした庭や池などがある屋敷が広々と建っていた。


「は、初めて来ました」


「だ、だな…」


デクスとフォルーダがその景観に圧倒されている。

ナオヤも初めてといえば初めてだが別段驚くことはしなかった。

驚いていないわけではないがここに来て何か胸騒ぎを覚え始めたのだ。

この場所、というわけではなく何か、近づいて来るというかなんというか。

その心と頭に掛かる靄が気になってナオヤは驚けないでいたのだ。


しかしそれも晴れないまま目的地に着く。

大通りを途中左に曲がり突き当たりまでいった所にそれはあった。

それは豪邸と呼ばれるものだ。


「ここに泊まる」


「え?」


三人の声が重なる。

ここはどう見ても一軒家の豪邸だ。

間違っても宿ではない。


「本当は大通りの向こうにある宿に泊まるつもりだったが外交時に宿泊する屋敷の改装が丁度先月終わったようなので快適さを確認するがてら泊まることになった」


さっきやたら話していたのはそのためかとナオヤは思った。

いや、こんな豪邸に泊まれるなら文句は無いので大いに結構である。

無論、ナオヤだけでなくデクスとフォルーダもだ。


四人は早速門を開けて屋敷の敷地へと足を運んだ。

前方に広がる庭は何か競技でもできるほどで隅に池がある。

しかしとりあえずは屋敷の中へ入ることにした。


屋敷の中も凄かった。

流石にセルピエンテの城には劣るが十分以上である。

エントランスを真っ直ぐ進み扉を開けると長いテーブルに白いテーブルクロスが敷かれ、奥には暖炉もある。

そう、リビングだ。

エントランスに戻り二階に通じる階段を上がると寝室の並ぶ廊下が左右に五部屋づつと計十の部屋がある。

こちらは王様や王女や外交官などの付き人が泊まる部屋のようで二段ベッドが二つずつ置いてあった。


ヤオが言うにはナオヤ達が泊まるのは更に奥の豪邸に相応しい豪華絢爛な部屋だった。

しかも一人一部屋。

ヤオはともかくナオヤとデクスとフォルーダも一部屋当てられた。


中は金色で眩しかった。

置かれている家具、机や椅子を始め絨毯、燭台、花瓶、クローゼットにタンス、ベッドや暖炉に至るまでに金銀といった装飾が施されていた。


しかもただの装飾ではないようだ。

ナオヤはそのどれもに魔力を感じたからだ。

他の面々は気づいていなかったがその装飾が一種の結界の様な働きをしてるようだった。


「すごいな」


「ああ、確かに凄い、これなら父も満足するだろう。そうだ、使用人は夜には手配してくれるそうだ」


「何から何まで…騎士になってよかった!」


「ああ、こんなこと庶民のままじゃ絶対に味わえない!」


デクスとフォルーダが舞い上がっていると外から鐘の音が響いてきた。

別に今はそんな知らせるような時間ではない。

昼を過ぎてから三時間ほどしか経っていないのだから。

しかしこの時間に鐘で知らせるのがこの国の常識かも知れない。

ナオヤはヤオに聞いてみる。


「何の鐘だ?」


「さあな、俺も何度かシュナイデンには来ているがこんな鐘は初めてだ」


と、確認しているとデクスがあっ!と大きな声を出した。


「どうしたデクス、腹でも壊したか?」


「違いますよナオヤさん、思い出したんです!」


「何を?」


「魔獣ですよ。魔獣、確かエスクドでは魔獣をエスクド、シュナイデンに運ぶ時、鐘を鳴らしてそれを知らせるようです」


「ああ、そう言えば聞いた気がするなそんな話し、確かその日から三日間はお祭りが開かれることになるんだったな」


ヤオが付け足してくる。


「自分も聞いたことあります。魔獣の肉を使った多彩な料理を市民や訪れた人に振舞うんですよね!こうしちゃいられません行きましょう皆さん!」


デクスとフォルーダは舞い上がりながらエントランスへ向かう。

部屋には残されたヤオとナオヤ。

二人とも決して舞い上がってなどいなかった。


「実はさ、この国に来てしばらくしてから妙な胸騒ぎがするんだよね…」


「ナオヤ、俺は行くも行かないも止めはしないぞ、魔獣がお前と同じ同胞(プレイヤー)だったとしても、本当にただの魔獣だったとしても、決めるのはお前だ」


「いや、行くよ。それが国王からの頼みでもあるしね」


「そうか」


そう言葉を交わすと二人は先にエントランスへ向かったデクスとフォルーダを追いかける。

エントランスでは今か今かと待っていた二人が急かしてくる。


「聞く所によると魔獣の肉は栄養も普通の食べ物の数百倍多く、食べるだけで強くなれるらしいです!現に大国の騎士達は他の国の騎士よりもはるか高みにいます!」


「あやかりましょう!あやかりましょう!」


急げという二人を先頭にナオヤとヤオは馬に乗って大通りに向かうのだった。

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