護衛任務します
ボロボロになった円卓からメイドが黙々と食器を片付け始める。
シェイファードは紅茶のおかわりを頼む。
直ぐに別のメイドが運んできてコップに注ぐ。
シェイファードはそれを一口飲み、喉を潤すと話し始める。
「ムシナが予言したのは確かにナオヤ様のことです。しかしそれと同時にあるものが見えたというのです」
「あるもの?」
「ムシナ、頼めるか?」
シェイファードがムシナに続きを話すように促す。
無論ムシナに断る理由などなく、一度頭を下げてから話し始める。
「はい、私が見たあるものとは…ナオヤ様の…死でございます」
「…死?」
それを聞いて円卓の面々が顔を曇らせ鬱ぐ。
しかし当の本人には実感がない。
それもそうだろう、突然お前死ぬよと言われても信じられるやつのほうが少数だ。
「そして…」
ムシナが言葉を続けようとしてナオヤはまだ何かあるのかと思う。
まあ今のだけで魔獣が神?には直結しないだろうからな。
ナオヤは話の続きを聞くために自分の死のことは置いておく。
「それに釣られるかのように次々と今まで葬られてきた魔…神々の最期が映像として頭に入ってきたのです。それは時に鮮明で時に朧でした。その方々が神々だとわかったのも最期の声や会話が聞こえたからなのです。そして、その神々を両断してきた者達の誰もが全て、大王国エスクドの騎士紋章を付けておりました」
「その紋章とはこれのことですナオヤ様」
ガーソローが一枚の羊皮紙を取り出すと解く。
そこには盾の中に十字の剣が型どられた紋章が記されていた。
これがその騎士団の紋章なのだろう。
「大王国エスクド直属の聖騎士団パルディオです。奴らは勇者エスクード・パルディオの後継となるべく育て上げられたこの大陸、いや、世界最強の騎士団でしょう。エスクドの周辺にあった国々は悉く滅ぼされましたからな。伊達に勇者の後継とは名乗ってないってことです」
「勇者ね…」
今までの話からするとどうやらその大王国エスクドってのが何の目的かは知らないが自分のような存在を狩ってるってことだ。
ナオヤは考える。
彼らの話は信じていいものなのか。
記憶のない自分にあれこれ適当を吹き込んでいるだけではないのか、しかし仮にも国政で忙しいであろう一国の王がわざわざ自分を騙すメリットがない。
クソッ、結局判断を決めかねてるのは自分の記憶喪失が原因ではないか、苛立たしいと共に申し訳なく思ってしまう。
「分かった。あっいや、まだわかってはいないんだけど、とりあえずシェイファード達を信じるよ。今の僕に何が出来るのかはさっぱりだけどね」
「いえ、信じて下さるだけでもとても喜ばしいことです。我らが祖よ。建国の神ツツリ様の加護と共に…」
シェイファード達が深くナオヤに向かってお辞儀をする。
それは壁際で待機していた従者達も同じだ。
いや、そこじゃない、今自分はとんでもない単語を聞いたのだ。
「ツツリ?」
「ご存知なのですか?」
「いや、わからない。ただ引っかかるんだ」
「ツツリ様とはこの大陸で信仰されている建国や文化といったものを司る古の神の一柱です。文献によりますと緑の髪に金の眼を持ち、金色の翼と蛇の尻尾を生やした女性の神だと。故に母神として信仰している所もあるとか…」
「ツツリ…」
説明を受けて何故だか胸が温かい気持ちになる。
きっと僕は彼女を知っている。
そうだ、ここまで何かを感じるんだ、記憶はなくても自分がなんなのかいい加減自覚が持ててきた。
ツギハギだらけだけど今はそれで良しとしよう。
「シェイファード、とりあえずどうするんだい?」
「どうと言いますと?」
「これからの僕の方針さ」
「助けてくださるのですか!?」
シェイファードは喜びの余り立ち上がる。
その衝撃で円卓の一部がとうとう崩れてしまった。
「とりあえず記憶が戻るまではそうするよ。記憶が戻ればまた違った考えに行き着くと思うし…あっ、安心して欲しい、その時は一度顔を出すから」
「いえ、それだけでも我々には嬉しい限りなのです!」
シェイファードは鼻息を荒くして両手を掲げている。
それだけでも彼が本当に嬉しいということが目に見えてわかった。
「わかったから、で、僕は何をすればいいんだい?」
「はい、一先ずエスクドを見てきて貰いたいと。しかし敵情視察などと名目ではさすがに入れません。近々大国へ輸出する商業組合の馬車があるので」
「その商人に紛れるんだな?」
ナオヤはわかったとばかりに口を挟むがシェイファードが首を横に振ることで違うと判明する。
「違いますナオヤ様、ナオヤ様はお気づきでないかもしれませんがナオヤ様のその鱗は目立ちすぎるのです。普通、今の世界では緑が基本色となり、我々のような王族かそれに連なる貴族でないと他色にはならないのです。無論ナオヤ様は神であるため緑ではないのですが…」
普通の商人のような格好では目立ちすぎるということだ。
確かにそれは多いにある。
検問で引っかかるだろう。自分なら間違いなく職質する。
「目立って敵情視察できないのはわかった。じゃあどうするんだ?」
「商業組合には必ず護衛の騎士を付けます。聖龍騎士団から二人、飛竜騎士団から十名程つけております。ナオヤ様にはその一人として紛れてもらいたいのです」
そう言ったのは太ったリザードマンのククロッチだ。
彼の鱗は黄緑だ。
ククロッチはこの国の商業のトップらしくこの中で一番他国に詳しい人物だ。
それは勿論貿易をしているエスクドも例外ではない。
「それにナオヤ様が護衛として付き添ってくれるのならもう道中は安全を約束されたも同然、今回は普段の倍の馬車で行きましょう。人数も多ければカモフラージュにはなるでしょう陛下?」
「相変わらず抜け目の無い男だ、良かろう」
こうしてナオヤのエスクド大王国への見学会が決定した。
「ククロッチ、それで日程は?」
「そうですね、今一度積荷のチェックなどをするのでうーん…二日、いや三日ほど猶予を頂きたく」
「わかった」
ナオヤは頷くとシェイファードに向き直る。
「それじゃあ僕はこれで」
「ナオヤ様どちらへ!?」
そう言って席を外れると慌てた様子でシェイファードが止める。
いや、普通に帰ろうかと…あ、そうか家がない。
うっかりまたシェオン達の家に厄介になるところだった。
さすがにもう迷惑も甚だしいだろう。
ならばとナオヤはシェイファードに一言。
「部屋の用意を至急!」
「はっ!ヤオ、案内しなさい!」
壁際に立っていたヤオがこちらに近づいてくる。
二人は一度モノリスから転移する。
次に現れたのはどこまでも続く長廊下だ。
豪華絢爛な装飾に赤絨毯と素晴らしいものばかりだ。
ナオヤはヤオに連れられて一番奥の部屋へと案内される。
「ここを使うといい」
「ありがとう。それにしても詳しいんだな」
立ち去ろとしたヤオにお礼と当たり障りのない言葉をかけると再び向き直る。
「ああ、そうだったな。まだ名前しか名乗っていなかったな失礼、私は聖龍騎士団副団長、ヤオウーシェン・ザラガッグ・セフィロドラゴンだ」
王族かよぉぉぉ!
そう言えば鱗も紅色でしたね。
念の為に訂正箇所をいいます。
飛龍騎士団は聖龍騎士団へ。
紋章も尾を噛む龍に剣となります。




