王の間
王城の門まで到着するとナオヤは改めて門の大きさに首を上げる。
手紙によると門の所に案内がいるとのことだが…。
とりあえず大きな門とは別に人サイズ、要は普通の扉の近くに立っている門番と思わしきリザードマンに話しかける。
「すいません、ここに来いと手紙で呼ばれたのですが…」
「その手紙はありますか?」
しまった、おいてきてしまった。
アレがないとまずいのだろうか、しかし既に出てきてしまった身だ正直に言って取り次いで貰えないか聞いてみよう。
「すいません、忘れてきてしまいました…えーと、何でもそちらで案内が待っているとのことで」
「失礼ですがお名前は?」
「えっと、ナオヤ…です」
名前を聞くと門番は中へ入っていく。
数分後、一人のリザードマンが現れた。
いや、彼はリザードマンではない、人型のドラゴン、ドラゴニュートだ。
そのドラゴニュートは騎士の格好をしており気品と力強さを持っていた。
それだけでなくその紅の鱗がなんとも凛々しい。
肩に付けられたマントの留め具には飛龍の紋章が入っていた。
以前見かけた騎士達とは違うものだ。
「待たせたな、では案内しよう」
ナオヤは中に通される。
扉の中は詰所なのか他の兵士たちが規律正しく整列していた。
しかし彼らとは対象に部屋の様子は結構物で溢れていた。
どうやら彼、ドラゴニュートの騎士がいた事で普段くつろげている空間でくつろげなくなったのが原因だろう。
二人は詰所を出ると広い長い石畳の通路を歩き始める。
中から見た様子はまた別物で高い城壁がずっとこの城を囲っていた。
まあ城自体がそもそも天を突くほど高いのであまり意味は成していないように見えるが。
というよりこれからこの城に入るのだろ?何処に向かうのだろうか。
大きさが大きさだけに疲れそうである。
「あのー、すいません。えーと」
「ヤオだ」
「あ、はい、ヤオさん。これからどこへ?」
黙って前を歩くヤオに聞いてみることにした。
ヤオはこちらに向き直ると腕を真っ直ぐに伸ばし、天高く指をさす。
「えっと…」
ナオヤは指のさし示す空を見上げる。
そこにあるのは青い空と雲だけだ。
「最上階にある王の間だ」
「…え!?」
少し遅れて驚きを示すナオヤ。
王の間?オウノマ?聞き間違いでなければ王様の居る場所である王の間と言ったのか?
驚くナオヤを他所に再び歩き出すヤオ、遅れて続くナオヤ。
ナオヤは城の最上階を見る。
城自体は山の中腹辺りまでしかない。
「あの、魔獣の情報収集の為に呼ばれたのでは?」
「手紙を読んだのであろう?ならば差出人の名ぐらい見たはずだが?」
「すいません、字が読めなくて代わりの人に読んで貰いました」
「なるほど、大体予想はついた。大方国王の名前を見て恐縮してしまったのだろう」
「えっ手紙の差出人って王様なんですか!?」
もう驚くことが多すぎて疲れてきた。
城の中へと入る門に到着する。
仰々しさが増した城門は重厚感があり開くのかと疑問に思う。
しかしヤオは門を開けようとせずに肩の紋章に一度触れる。
すると城門がみるみるうちに開いていく。
感心しているとヤオが歩き出すので続いて歩いていく。
中はもう豪華、ザ・城といった感じだ。
ただ違うのは中央に黒い石版、モノリスがあるというぐらいだろうか。
なるほど、これでいろいろな部屋を行き来するのか。
ん?何故自分はこれで行き来できると思ったのだろうか。
案の定それは本当に転送装置のようでヤオにこちらに入るように促された。
モノリスの周り、半径三メートルに切れ目が円状に掘ってあり、その中が転送の範囲ということだろう。
ナオヤがその中に入るとヤオがモノリスに触れる。
すると円の中が淡く光り始める。
転送開始と言わんばかりに光は強くなってナオヤとヤオを包み込んだ。
光りが晴れるとそこは先程までの玄関とは変わり、石畳の床に真っ直ぐに敷かれた赤い絨毯、その先にある小高い段差の上には玉座が二つ。
その玉座には王様と王女様と思われるドラゴニュートが座っていた。
他にも二人の周りに近衛兵と思われる騎士や執事やメイド、王様達を挟んで両サイドに一列に並ぶ貴族風のリザードマン、ハイリザードマン、ドラゴニュートが居た。
自分たちが現れたことにより王の間にどよめきが湧き上がる。
それを玉座に座る王様が手で制す。
王様は声が静まるのを確認するとこちらに向き直る。
「では私はこれで、どうぞ王の御前まで」
ヤオはそう言って壁際まで離れていく。
一人取り残されたナオヤは仕方なく王の近くまで歩く。
そして大体王様との距離が五、六メートルの辺りで立ち止まる。
ここからだとここにいる面々の顔がよくわかる。
と、王様が口を開いた。
「良くぞお越しなされた、我らが一族の祖よ」
その言葉を合図に王の間の全員が膝を付いてナオヤに頭を垂れた。
何言ってんだ?てか何やってんだ?
ナオヤは目の前に繰り広げられた光景について行けず唯々棒立ちで立っていた。




