手紙の差出人
公園ではかけっこや鬼ごっこなど、広さを生かした遊びで二人と遊んだ。
シェオンは遠くから見ているだけで入っては来なかった。
まあ、老齢だから体力がないのだろう。
それと二人からは自分の体力や力強さに驚かれた。
正直自分でも何故こんなに力が有り余っているのかわからなかった。
しかし二人が喜んでくれていたので良しとしよう。
結局、途中で他のリザードマンの子供も混ざって夕方まで遊んでしまった。
家に戻ると既にソリアが夕食の準備をしていた。
手伝ったほうが良いのか迷ったがカーリアとキーシャが離してくれなかったので子守だけでその日が終わってしまった。
次の日、包丁の音で目が覚める。
子供たちと同じ布団で川の字の真ん中に寝ていたので二人が寒そうに毛布を取り合う。
結果としてカーリアが勝ち取りキーシャも目が覚める。
「…さむい」
「おはようキーシャ」
寝ぼけ面でこちらを見るとコクリと下を向き挨拶を返すキーシャ。
そのまま動かずに寝てしまったようだ。
ナオヤはそっと布団から出ると階段を下りて一階に降りる。
一階では朝食を作るソリアとテーブルにつき何かの書類を読むケリオがいた。
まだ朝食は出来ていないがとりあえず席に着く。
匂いでシチューか何かだと気づく。
と、ケリオが書類を置いて話しかけてきた。
「ナオヤさん、これを」
ケリオが書類の中から一通の手紙を渡してきた。
封蝋に木に巻き付く龍の刻印がされた手紙を開封して中を取り出すと手紙が出てきた。
内容を読もうとしたが字がわからなかった。
「ケリオさん、すまないが代読みしてはもらえないだろうか?どうやら自分は字が読めないらしい」
手紙を差し出した辺りから妙に緊張をしたケリオが手紙を受け取る。
何をそんなに緊張することがあるのだろうかもしやケリオも字が読めない?
いや、さっき書類読んでたし大丈夫か。
不安を他所にケリオが手紙を読み始める。
「ナオヤ様、この度はこのような形で手紙を出すことをお許し下さい。本当なら直ぐにでも御迎えすべき所ですが何分こちらは忙しく手が空いておりません。ですのでこの手紙をお読みになられたら至急御足労お願いしたい。場所は城門まで来て頂ければ案内がおります」
手紙を読み終わるとケリオは手紙を畳んでそっとテーブルに置く。
「行けばいいのか?」
「え、ええ、そうです。えっと…近くの森で魔獣が発見されました。ですのでその情報を聞かれると思います…ナオヤさん」
神妙な面持ちで名前を呼ばれる。
「あなたは、一体…いえ、何でもありません」
ケリオは何かを恐れているのか、手を強く握る。
しかし直ぐに力を解いて息を吐く。
よほど大事な事なのだろう、魔獣がどのぐらい大事なのかわからなかったがケリオの挙動を見れば一目瞭然だ。
ナオヤは席を立つ。
釣られてケリオが顔を見上げる。
「もう行きます」
「朝食をとってからでも…」
「いえ、記憶が無い身でどの程度魔獣の情報が提供できるかわかりませんが皆さんが傷つくところは見たくありませんので」
そう言い残してナオヤは家を出ていった。
その場に残ったのは料理をするソリアと椅子に座るケリオだけだった。
ケリオはもう一度封蝋の刻印を見る。
先日、職場の上司から渡されたものだ。
渡す上司も渡されるこちらも手が震えていたのが記憶に新しい。
「ナオヤさん、あなたは一体何者なんだ…」
ケリオは封蝋に印璽された紋章を見る。
既に開封して砕けてしまっているがそれは騎士団が使う飛竜やその上に属する上級騎士達が使う飛龍でも無い。
見間違いでなければそれは、この国の王族だけが使うことを許されたものだった。
それが印璽された手紙など一端の事務員であるケリオは一生見ることがないであろうものだった。
更にケリオの心臓を圧迫したのは手紙の差出人の名前だった。
先程は口にできなかった。それを今一度確認する。
手紙の差出人それは…。
現国王であるシェイファード・ツツァーリ・セフィロドラゴン。
ナオヤは家を出るとシェオンを見つけた。
見つけたというか家の真ん前の壁際に立っていた。
「何してるんですかシェオンさん?」
寒そうにしているシェオンに呆れながら声をかける。
「ななな、に、見送りりりりじゃじゃ…」
「はぁ、それはどうも」
「とりあえずは元気でな、もう合わんかもしれんからそれだけはと思ってな」
「大袈裟ですよ。それじゃあ行ってきます」
それだけ言うとナオヤは大通りに出て王城に向かっていった。




