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INVADER  作者: 青髭
異世界漂流編
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光の中へ

時間は一週間ほど過ぎて現在。

ナオヤ達十六人とその配下数万のギルドメンバー達は広大な草原のフィールドに規律正しく整列していた。

これだけでも他のギルドを圧倒している数と言えるだろう。

各々ギルド規定の鎧やローブといった紋章入りの装備に身を包んでいる。


陣形はギルド毎の特色を活かして前衛にライジオ、ナオヤ、紫鬼、キルルカと攻撃に特化したギルド。

中衛は後衛を守るため楼牙、そして経験を積ませるという意味合いでツツリとガボックのギルド、保険としてファルラのギルドを配置した。

後衛はハイレーンのギルドによる魔法攻撃だ。左にエル、右にアスハのギルドを配置して防御に徹してもらう。

更にその陣形の左右を挟む形でドルギメス達巨人種を配置する。

プリステラ、オルガン、カドモスは物資や武器防具等の支援と回復を担当してもらう。

トリッピーのギルドは別働隊で敵を翻弄してもらう。

更には他の小中のギルドもズラリを並んでの大隊組織となっている。


と、なぜ合同で陣形を組んでいるのかと疑問視していると思う。

お答えしよう、それは今回のギルド戦争イベントがロイド対他ギルドとなっているからだ。

あの場にいた全員が馬鹿にしているのかという怒りを通り越して呆れていた。

楼牙も中二病が吹き飛び素が出ていた。


そしてその元凶たるロイドはというと我々のギルド大隊の前方数百メートル先に自身のギルドを展開していた。

確かにロイドのギルドは質も量もこちらの上を行っているのは事実だ。

しかしそれも個々で比べた場合の話に限る。

決して新世界対他ギルド全てではない。

これではロイドは自分たち以外の全てを相手しなくてはならないからだ。

流石に無理がある…と言いたい。


しかし遠目に見るロイドは顔に笑顔を貼り付けており、挙句他のメンバーと談笑している。

不安など微塵も感じさせていなかった。


「…よっぽど自慢したいのかあいつは?」


「ナオヤさん、心配しすぎっすよ」


簡素な木製の背もたれのない椅子に腰掛けていたナオヤが頬杖をつきながらそう言うと後ろに控えていたジャーフルが声をかけてくる。

現在ジャーフルも神位種(アルマディオス)となっており、昔に比べてかなり強くなっていた。

こいつも二種類の神位種(アルマディオス)を有した種族で()つその種族の上位版として進化を果たしたのでもしかしたら自分より強くなったのでは?と悩める日もあった程だ。

因みに種族は『不滅の炎金龍ファヴニクス・グランド・ドラゴン』だ。

黄金の体に自由自在に炎を纏い操り背中から鳥人種の様なを炎の羽を生やす種族だ。

だからという訳では無いが遠くにいても直ぐに見つかる。


「許してやるネナオヤ」


「ツツリさん」


後方からアステカの民族風衣装を着たツツリが現れる。

彼女も同じ龍種で交流があった。

ツツリは腕を組むと目を瞑り何かをわかったように頷く。


「あれは子供ネ、新しいおもちゃを手に入れて舞い上がった子供ネ、自慢したくて仕方ないのネ!」


「そう言えば楼牙もそんなこと言ってたな」


「あれも子供ネ」


因みにだが彼女はれっきとした日本人だ。

この喋り方はキャラ作りだと前に聞いた。


「けどツツリさんってみんなに子供ネって言ってないっすか?」


「当然ネ、みんな私の子供ネ!」


胸を張り鼻を伸ばすツツリ。

何を自慢げに言っているのだろうかこの人はと思う方もいらっしゃるだろうがあながち間違いでもない。

初期の頃からのプレイヤーで、新規プレイヤーを中心に育てて来たツツリにとっては皆似たような者なのだろう。

本当ならもっと上の順位でもいいくらいだが自分から辞退しているのだ。


『ギルド戦争開始まで一分を切りました。参加者は準備を整えて待機してください』


イベントのアナウンスが鳴り響くと皆の顔から緩みが消え戦士の物に変わる。

所々で聞こえていた談笑も消え、フィールドを静寂が支配した。


「じゃ、私も戻るネ、これ終わったらまたオフ会しようネ」


ツツリも声を落としながら手を振って大隊の中へと消えていった。


「オフ会自分も行きたいっす…」


「ギルドリーダー限定だからダメ」


「サブリーダーなのに…じゃあツツリさんのこと教えて欲しいっす」


「なんだ?気があるのか?ダメだぞツツリさんは人妻だから…と始まるな」


「ッ!?」


上空に三十秒前のカウントダウンが表示されたので言うだけ言って黙るナオヤ。

後は知らぬ存ぜぬを突き通す。

ジャーフルも観念したのか一度ため息をついてから気を引き締める。


カウントが十を切る。

皆一様に己の武器を握り締める。

静寂の中聴こえてくるのは脈打つ心臓の音だけだ。

それは錯覚ではあるが、鼓動はお構いなしに鳴る。

その鼓動が周りにいる仲間の者と重なって、まるでこの大隊が一つの心臓であるかのように錯覚してしまう。

カウントが一つ、また一つど減る度にそれは感じて取れた。


そして遂にカウントはゼロを表示した。


「突撃ィィィィィィ!!!!」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」


ライジオ、ナオヤ、紫鬼、キルルカの声が重なると同時に前衛のメンバーが雄叫びを上げて走る。

鼓膜を破らんとするその雄叫びはどこか心地よくて胸が高鳴る。

自分も彼らの同志なのだと強く感じられるからだ。


走りながらナオヤの近くにライジオと紫鬼とキルルカが近づく。

無論狙うのはロイドだ。

ロイドはと言うと神々しく輝きを放つ螺旋状の杖を左手に持ちこちらに向ける。

神位技(エロエディオス)が来るか!?と思ったが何かを唱えていた。


「詠唱?」


このゲームには魔法にもシークレットスキルにも詠唱がなかった。

なのに詠唱だと?ナオヤ達は突き進む足を止めることはせずに警戒だけを高めた。


ロイドは迫り来るプレイヤーの波を確認すると自身の後方に控えている数千のギルドメンバーを見つめる。

そのメンバーの中から一歩前に出るプレイヤーが七十二人。


「じゃあ見せてやろうか」


ロイドは己の杖を眼前に掲げると口を開いて暗記した呪文を唱え始める。


「素は力、素は智、素は富、素は称、素は秘」


一つ一つ唱える事に螺旋状の杖は解かれていき手元から五つに枝分かれする。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


ロイドの後方の一歩出たメンバー以外が雄叫びを上げて突撃していく。

両者のギルドは中央よりも少しロイド側でぶつかり戦闘を繰り広げ始める。

その間もロイドの詠唱は続く。


「零星なる私は力を得て一星となる。一星なる私は智を得て二星となる。二星なる私は富を得て三星となる。三星なる私は称を得て四星となる。四星なる私は秘を得て五星となる」


五つに枝分かれした杖がその先端から点を繋ぐように円を描き五芒星を描き始める。

そして杖は消滅して五芒星の陣だけが残り、ロイドが手を掲げた状態となる。


「大いなる力よ、紐解きの智よ、無量の富よ、崇まれし称よ、超常なる秘よ、十の光輪の下に我が糧となれ!」


次第に掲げていた左手が震え始め抑えるために右手で左腕を掴む。

五芒星の魔法陣はその前方に新たな五芒星の魔法陣が十個、大きさを広げて展開される。

十一もの魔法陣が回転を始めるとロイドはその勢いに負けて膝をつく。


「我は炉なり、()べるは我が七十二柱の魔神なり!」


その詠唱と同時に後方に控えていた七十二人のシークレットスキル持ちのプレイヤーが消滅する。

魔法陣が高速回転をし始める。

ここまで来たら何が起きるのかわかってきた。


「あれは大砲か?」


迫り来る敵をなぎ倒しながら呟くナオヤ。


「此処に(すべ)は顕現した。全てを消しされ!」


高速回転している魔法陣の周りに更に逆回転で高速回転する魔法陣がいくつも現れる。

それはこの戦場を飲み込むほどの大きさだ。


「まさか一撃必殺ってやつか!?」


どこからかライジオの声が聞こえるが構っている余裕はナオヤにはなかった。

そしてロイドはトリガーである最後の一言を口にする。


魔獄光(ゲーティア)!!」


その瞬間、辺りは白一色へと塗り替えられた。

意識が遠のく間際、ロイドの「え?」という戸惑いの声が最後に聞こえてきたのは偶然か否か。

それがなんだったのか、もうナオヤに聞き返す時は訪れなかった。

異世界へGO!

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