不吉な予感
扉を抜けると部屋の眩しさに目が少し眩む。
前よりも財宝が増えたのではと思える程だ。
しかし誰一人として気を緩ます者は居なかった。
流石はライジオのギルドメンバーである。
伊達にもう迷宮をクリアしただけはあるということだ。
「で、ボスは奥か?」
「ああ、こっちだ。ついてきてくれ」
ナオヤはライジオ達をボスの居る所まで案内する。
長方形の長部屋を奥に進み階段を上がる。
そこには何事もなかったかの様に佇む黒い卵があった。
金銀財宝が目を引く中で最も異色なものが自身の存在感を主張する。
「これが噂のボスか」
そう言うとライジオは卵を小突いた。
「待てライジオ!」
ナオヤは止めようとしたが遅かった。
ライジオの小突きによって卵全体に亀裂が走る。
直様ライジオは後ろに飛んで様子を見る。
「ナオヤ、遅かれ早かれ戦うんだ、なら早いほうがいいに決まってる。時間は有限だ!」
そう言うとライジオは現れたばかりのオフィス・リザードマンに向かってアビリティを使う。
「ファイアショット!」
ライジオの上空に巨大な火球が出現する。
それは一直線に飛びオフィス・リザードマンを灰と化そうとする。
しかし状況を逸早く察知したオフィス・リザードマンは前方に転がることで回避をした。
更に転がった時に剣と盾を拾いこちらに迫ってくる。
向かうは一番近いライジオだ。
「キシャァァァァァ!」
オフィス・リザードマンは威嚇しながらライジオに迫る。
しかしライジオは避けることも杖を使うこともせずに立っていた。
ナオヤ、クロウ、ジャーフルが剣を構えて前に出ようとするが一班のパーティーリーダーであるドワーフのトルペが手で制した。
「まあ見てなって、あんたらライジオさんとは初期の頃の仲間だったんだろ?だったら今のライジオさんを殆ど知らないはずだ、あの人は凄いぜ?」
ナオヤはライジオの方に向き直る。
するとライジオは杖では無く、腰に下げていた剣に持ち替えた。
「そうか、中位種だから職業スロットが増えているのか!」
ナオヤはそう確信した。
つまりライジオは戦士を得ているのだ。
が、しかしそれは二班のパーティーリーダーであるクーシーのペルセによって否定された。
「残念だがハズレだよ、うちのリーダーの職業は今の所、魔術師と学徒と星契者だけさ」
ではなぜ剣を装備できるのか。
その答えは剣をよく見ればわかった。
あれは騎士王の剣である。
つまり騎士王の迷宮をクリアしたライジオには職業に関係なく騎士王の剣を装備できる権利があるということか。
ライジオは迫り来るオフィス・リザードマンの攻撃を騎士王の剣で受け止める。
オフィス・リザードマンが力任せに押し込んでいく。
しかしライジオは平然としている。
「これは驚いた。本当にレベルが上がってやがる」
ライジオはオフィス・リザードマンを力で押し込み後方に飛ばすと自身もこちら側に戻ってくる。
「とりあえずボスが如何に恐ろしいかはわかった。こっからは本気で行くぞ」
その言葉で一班と二班が動く。
一班のトルペとオルディナ、二班のベランシアとチャルラタが鋼の剣を両手に持って走る。
レントとレフィナド、ペルセとアドミラがいつでも回復できるように杖を構える。
そしてグラシアとシオンが四人の隙を見てアビリティを飛ばす。
「これが今の俺たちの戦い方だ」
「なるほど…」
ナオヤは関心した。
しかしオフィス・リザードマンもやられている訳では無かった。
その違和感は正直に言うと最初から、オフィス・リザードマンが現れてライジオと剣を交わした所からあったのだ。
最初は気のせいだと思っていたが違った。
そう、明らかにオフィス・リザードマンのレベルの上昇速度が以前よりも早いのだ。
「自分達も行くぞ!」
ナオヤの掛け声と共にジャーフルとクロウも走る。
紫鬼はグラシアやシオンと同様に隙を見てアビリティを飛ばし始める。
ライジオも剣を握って走る。
その足は早くナオヤ達を容易く追い抜いた。
直ぐに前線に混じりオフィス・リザードマンに一太刀浴びせる。
「さっきより硬いじゃねぇか」
ライジオはギザギザの歯を見せて笑みを浮かべる。
知らないうちに好戦的になったなとナオヤは思った。
オフィス・リザードマンは迫り来る八人の冒険者を捌くために盾を捨てて剣に持ち替えた。
二刀流となったオフィス・リザードマンは先程よりも攻撃を飛ばしてくる。
しかし圧倒的な数で戦うこちらに苦戦していた。
そして以前よりも早く進化が起こった。
オフィス・ハイリザードマンとなり一回り大きくなった迷宮ボスは両手の剣を大剣へと変えて攻撃してくる。
確かにレベルの上昇スピードが前よりも早かったがそれを上回る力が今はある。
ナオヤは勝てると確信した。
「うおぉぉ!気合の一撃!」
ナオヤの剣がオフィス・ハイリザードマンの左腕を切り飛ばした。
「ギギャァァ!」
絶叫が響くが容赦なく、それを好機と畳み掛ける。
そして遂に、後方の魔術師メンバーの同時ファイアショットによって大ダメージを負ったオフィス・ハイリザードマンはライジオの一撃を受けて倒れた。
「やった」
ジャーフルが嬉しさのあまり喜びを漏らす。
しかしナオヤはジャーフルを注意する。
「油断するな、ここは円環の迷宮だぞ。一回倒したぐらいでボスが死ぬか」
ジャーフルは緩んだ気を引き締める。
「ああ、それに倒したのにアナウンスが流れないのが何よりの証拠ってことだな」
ライジオが剣を構えて言う。
すると倒れたオフィス・ハイリザードマンの体が燃え始める。
しかもその形状を徐々に変えて。
「嘘だろ…」
誰の言葉か、楽園傭兵団の誰かが声を漏らす。
目の前の敵の名前はオフィス・ドラゴン。
紫鬼がアクアショットで攻撃してみるが通じておらず進化時には攻撃をしないし受けないようだ。
そして一つ、ナオヤは信じたくもない仮説を思いついてしまった。
「なあ、みんな、一つ聞いてくれないか?」
「どうしたんですかナオヤさん?」
ジャーフルは顔をボスから逸らさずに聞く。
「時間が来ても倒しても進化するこいつはもしかしたら神位種になるのか?」
神位種、その言葉を聞いた瞬間に周りが凍りついた。
そう皆も思ってしまったのだその可能性に。
「馬鹿言ってんじゃねぇよ、そんなのあり得るか、せいぜい最上位種だろう」
「それでも最上位種かよ」
ライジオの訂正に少し絶望する紫鬼。
ここにいるのはライジオ以外下位種である。
中位、上位、最上位と上がっていくので三つも存在が上の相手をしなければいけないのだ。
その差は考えるまでもない。
「いや、上位種で終わりと見た」
ライジオが不意にそんなことを言った。
「その根拠は?」
「考えてもみろ、今のゲーム状況で良くて上が中位種のプレイヤーしかまだいないのに最上位種はありえない」
「そうだけどこのゲームならなぁ…」
と、しゃべっている間に遂にボスが動き始めた。
オフィス・ドラゴン戦の開始である。
ナオヤはこれで最後と願いながら走るのであった。
種族の位のカタカナ表記。
下位種
中位種
上位種
最上位種
超位種
極位種
神位種




