勝機の兆し
広場に移動すると早速二人を紹介することにした。
最初はクロウを紹介した。
「彼はクロウ、本当はクロウホーガンって名前だけど短くしてクロウって呼んでる。戦士だ」
「よろしくなクロウ」
「こっちこそ光栄だよ」
クロウとライジオが握手を交わす。
握手をし終わるとライジオがジャーフルを見る。
「こいつはジャーフル、ひょんなことから自分の舎弟になったんだ。泥棒だ」
「へぇ、それはまた稀有なことで。よろしくな」
「よ、よろしくっす!」
ジャーフルは両手でライジオの手を握る。
二人が握手を終えるとライジオのギルドメンバーを紹介してもらった。
男八人、女四人とライジオの十三人で構成されたギルド。
「もう結構ギルドってできてるのか?」
紫鬼が疑問を口にする。
そこは確かに気になっている。
ナオヤ達三人もライジオに注目する。
「そうだなぁ、俺が知ってる中じゃロイド、あいつは知っての通りギルド新世界を立ち上げたって話だ。それとプリステラにトリッピーだな、プリステラがギルド乙女の会、トリッピーが笑う角だったかな、あとは…名前は知らないがドワーフのプレイヤーが一槌工房っていうギルドを作ってたはずだ」
「なるほど、やっぱり少なからずいるんだな」
「ああ、って言っても俺が知ってるのは有名どころだけだプリステラもトリッピーもそれなりに有名らしいしな。その一槌工房も生産系のプレイヤーが結構集まってるって話だぞ?」
ギルドを立ち上げるプレイヤーはナオヤが思っている以上に多いようだ。
しかしそうなると新たな疑問が出てくる。
それは資金だ。ギルド結成の条件の一つ、物件の購入は高く、更に維持費もかかる。
ナオヤはその辺も聞いてみることにした。
「他のプレイヤーは金銭面はどうしてるんだ?」
その質問を聞いてライジオはニヤっと笑った。
なんだろう、なんか怖い。
「ギルド拠点、ホームに関して俺やプリステラなんかは元々金があったのと他のメンバーからの寄付でまかなってる。が、ナオヤが聞いた質問は簡単だ。ネーデの後ろ側をずっと進んでいくとそこに中規模の街があることが分かったんだ。つい最近までは無かったのに急に現れたらしい。しかし妙なことにその街、名前はルギルというらしいんだが、どうやらそこにはショップも神殿もないらしい」
「それはまた妙ちくりんだな」
「妙ちくりんってお前…」
紫鬼の既に日常会話から消えていった死語に等しい言葉にナオヤが呆れ半分驚き半分になる。
「ルギルって街にはどうやら物件しか無いようだ、行ってないから真偽はわからんが本当だと思う。そこは全部が格安の物件らしい、どんなプレイヤーでも頑張れば買えるぐらいの金額と聞いた、ただ」
「ただ?」
「安い代わりと言ってはなんだが狭い汚い暗いの三拍子が揃ってるらしい、おまけにネーデまで徒歩で行くのは正直疲れると聞いた」
「ルギルの周りに他の街は?」
「今のところ無いとのことだ」
それはなんともまあ極端なことで、つまり他の物件だと手が出せない、もしくは安いところは埋まっていて高いところしかない、なので救済措置として現れたのがルギルという訳だ。
「でもなんでそうまでしてみんなはギルドを作るんだ?」
「ん?なんだ知らないのか?」
おっとどうやら何か特典のようなものがあるようだ。
しかしそんな話を講習会で言っていただろうか?
既に記憶が曖昧であるので詳細は思い出せなかった。
「ギルドを作る利点はいくつかある。一つは役職ごとに設定されたステータス的恩恵だな、これはギルドの規模で変わっていくらしい。他には今後実装されるギルド戦争というイベントに参加できるとかだな今の所、あとはこれだ」
ライジオは左肩のワッペンのような紋章を指差す。
「それは?」
「これは自分のギルドを示すマークだ、百種類あるマークの中から三つ選んで組み合わせて作るんだ、これもギルドの規模で反映されるらしい。オリジナルの画像を使用できないかと聞いたプレイヤーがいたらしいがそれもギルドの規模で追加されるらしい」
「ふーん、結構手間なんだな」
「何言ってるっすかナオヤさん、紋章は大事っすよ!是非作るときは一声かけてくださいよ!」
「ハハッ、やる気満々じゃねぇか。まあ作っておいて損は無ぇと思うぜ、この際だギルド作ったらどうだ?」
「そうだなぁー」
ナオヤは腕を組んで空を見上げる。
別段渋るような事は無い。いつかは作るつもりなのだ。
しかし今は早すぎるのではないだろうかと言う考えがナオヤの中にはあった。
第一メンバーがいない。
ジャーフルは入ると言っているがそれでも二人だけである。
紫鬼は紫鬼でギルドを作ると聞いていたはずだ。
クロウはどうだろうか?彼は誘いに乗るだろうか。
パワー的には申し分ない。よし、聞いてみよう。
「クロウ、僕の作ったギルドに入る気はあるか?」
「無いかな」
即答で答えられた。
ちょっと悲しい。
まあそんな気はしてたけどね。
「ごめんなナオヤ、実はもう入りたいギルドがあるんだ」
「えっ、それは初耳だな、どこなんだ?」
今まで行動を共にしていてそんな情報は微塵も無かったので興味がある。
するとクロウはライジオに向き直り。
「ライジオ、自分を楽園傭兵団に入れて欲しい」
「良いのか?」
「もちろんだ」
「俺のギルドに入る条件として新規加入時に一万ギルを貰うことになってるが良いか?」
「…もちろんだ」
寄付ってそういうことか。
まあ維持費などかかるから必要経費ってやつですね。
クロウは一万ギル支払う。
ギルド加入申請を受諾したようで名前の左側に楽園傭兵団のマークが付く。
更にクロウの左肩にも同じマークが現れた。
なるほど、そういう仕組みなのか。
「ようこそ楽園傭兵団へ、といってもまだ仮名だけどな」
ということは後からギルド名の変更ができるのか。
「それとクロウ、毎月五千ギルも徴収するからな」
「…まあ、そのぐらいなら問題ない」
世知辛い世の中である。
まあ規模がでかければでかいほど維持費もかかるので当然といえば当然である。
ギルドの事ずっとを聞いて考えていたせいかどうやら自分自身も作りたくなったようだ。
既に迷宮での悔しさなど過去の出来事である。
「作ろうかなギルド」
「ナオヤさん!」
確かギルドは一人でも作れたはずだ。
今から物件の購入をして神殿で申請すれば完成である。
しかしそうなると物件の場所が問題だ。
「やっぱり後にしよう。そう、第八迷宮を攻略し終えた後とか」
「そう言えばお前ら会った時は浮かない顔だったけどどうかしたのか?」
ライジオに事の顛末を話す。
迷宮の仕組み、全八十階層で後半はモンスターが出ない代わりに体力などが減っていく事や中間に存在する謎解きのことを。
「…なるほどな、だったら話は速い。俺のギルドを使え、ただってわけじゃ無いがな。特別サービスだ安くするぜ?」
「だから傭兵団なのか」
「ハハッ、これは偶然だ、まあそれも悪くねぇかもな」
ナオヤはライジオの前に拳を出す。
ライジオはその拳に自身の拳をぶつける。
「よろしく頼むよ」
「ああ、初の依頼だ。しくじらねぇよ」
ナオヤ達に勝機が見えた瞬間であった。
これで円環の迷宮のボスを倒すことが出来るはずだ。




