ドラシルの大魔樹
現在、ナオヤ達四人はフィールドを駆け抜けていた。
先程ギルエルキの街を横切ったのでまだ後ろを振り向けばギルエルキが見える。
しばらくすると世界迷宮が消えたように映るだろう。
言い忘れていたが偵察虫を使うと視界の右隅に1~5の数字が表示され、それを選択することで小さいウィンドウが現れて偵察虫の状況を確認できるようになっている。
確認と言っても偵察虫が映るわけではなく偵察虫が見ている景色が映るのだ。
放たれた偵察虫は合計で10、当初はナオヤと紫鬼の視界に5匹ずつ映るようになってたが、効率が悪いのでクロウとジャーフルに二枠ずつ譲渡したのだ。
これで確認作業が円滑になった。
途中で何体か初見のモンスターを倒しておいた。
草原に保護色で隠れるグリーンスライムやデカイ図体で空中を自在に動き標的を翻弄させるジャイアントビーなどである。
モンスターに乗りながらでも相手にできたので倒しておく。
そのおかげか早速ジャーフルのレベルが上がり10になる。
三人からしたらまだ弱いので今のうちにあと5ほど上げてもいいかもしれない。
15ならまだ安心できるというものである。
そうと決まれば即行動、三人の了承も得て近くのモンスターに突撃をする。
最初に遭遇したのはグリーンスライムLv.5が二体である。
正直、自分たちだとワンパンで終わるので今回は全部ジャーフルにやらせる。
残りの三人は敵が逃げないように囲む担当が二人と周囲を警戒する担当が一人と分けて行動することにした。
迷宮でもないので早々強い敵はいないだろうがこのゲームは最初にあんなことをやらかした前科があるので気が緩めない。
とりあえずクロウと紫鬼が囲む係で自分が警戒をすることにした。
しばらくして声が掛かる。
ジャーフルがモンスターを倒したのだ。
レベルを上げるために次の獲物を探しに行く。
今度は近くにあった森に入ってみた。
名前はドラシル森林と言うらしい。
森林というだけあってモンスターも植物系が多かった。
トレント、エルダートレント、ファイアトレント、マタンゴ、ポイズンマタンゴなどである。
因みにまだ入り口付近でこれだけいたのだ。
トレント、マタンゴといった初期モンスターに該当するやつは問題ない。
エルダートレント、ファイアトレント、ポイズンマタンゴが問題なのだ。
特にエルダートレント。
まずトレントとマタンゴは見た目木ときのこのお化けといった感じである。
ファイアトレントは体中から炎を噴出する黒い木炭のようなトレントだ。
近づくだけで熱い、しかも確率でこちらにやけどを付与させる。
攻撃しても攻撃されてもだ。うざい。
ポイズンマタンゴもほぼ同じである。
付与するのがやけどか毒の違いだけだ。
そしてお待ちかねのエルダートレントである。
こいつに遭遇した時のことを話そう。
僕たち四人はレベル上げも丁度良さそうだったので少しの間ここで狩りをしていたのだ。
三人のレベルはまだ上がらないにしてもジャーフルはもう13レベルにまで上がっていた。
マタンゴが他より多く出現するのでマタンゴメインで倒していた時のことだ。
トレントを丁度10か15匹倒したときにそいつは現れたのだ。
大木の様に大きいトレント。
名前を確認してみるとエルダートレントと表示された。
レベルは30である。
そう、エルダートレントはオーガロード・リッチほどではないにしろ、強敵なのだ。
少なくともジャーフルにとっては。
クロウ的には丁度いい感じだ。
ここはサポートに徹して二人に戦わせることにした。
二人もそれで良いと言った。
さらにはどんなピンチでも助けないで欲しいとも。
大きく出たものである。
ナオヤと紫鬼は頷いて後ろに下がる。
まあ、クロウもいるし大丈夫だろう。
相手は一体だけである。
ここらのモンスターは結構片付けてしまったので次に出現するのもまだ先のはずだ。
それを見越しての先の発言だろう。
ジャーフルは泥棒のアビリティ『サインズブロック』にて姿を隠してから短剣で斬りつける。
ダメージは少ないが通っているので問題ない。
サインズブロックは衝撃などがかかると直ぐに解除されるのでジャーフルは直ぐに下がる。
流石に泥棒だけあって足が速い。
エルダートレントの拳の攻撃を避ける。
クロウはスキル【飛行】を使用して空から剣を斬りつける。
ダメージもそこそこ通っているので二人でやってもそう時間はかからないと見た。
しかし今度はエルダートレントが地面から攻撃を仕掛けたのだ。
突然地面から槍のようなもの、そう根っこを使って攻撃してきたのだ。
攻撃をする前に土が動くモーションがあるのでわかるのだがジャーフルは遅れて攻撃を食らってしまったのだ。
だが敏捷が高いのが幸いして大ダメージにはならなかった。
ジャーフルの体力ゲージは黄色に変わってしまったが問題ないだろう。
根っこの攻撃は空を飛んでいるクロウには届かなかったようだ。
クロウはすかさずもう一太刀入れる。
すると先程よりもダメージが高かった。
それに伴ってエルダートレントの体力ゲージも黄色に変わった。
クロウがクリティカルを出したのだ。
しかしエルダートレントも黙ってはいない。
両手を地面に突っ込むと自ら手を折ったのだ。
その折れた手は四体のトレントへと姿を変えたのだ。
「なんと…」
思わずクロウが呟く。
トレント達は地上のジャーフルに狙いを定める。
仕方なくクロウは地上に戻って応戦する。
生まれたてのトレントはどれもレベル5と弱いが油断できない。
と言うかエルダートレントの手が徐々に伸びているのだ。
急いで片付けなければ。
そしてエルダートレントの手が戻ると同時に四体目のトレントを倒した二人。
「泥棒のアビリティは他にないんですか?」
クロウがジャーフルに質問をする。
ジャーフルは苦い顔をして答える。
「これぐらいしか使えそうなもの持ってないんですごめんなさい!」
これとはサインズブロックのことだろう。
あれも直ぐに解除されてはしまうが使い方によるだろう。
再びクロウが【飛行】にて空中に舞い戻る。
エルダートレントも手を伸ばして今度は攻撃をする。
クロウは剣でそれを切っていく。
ジャーフルがエルダートレントが上を見ているのを確認すると走って後ろに回る。
そして短剣を強く握り締めて連続で斬りつけ始める。
「うおぉぉぉぉ!」
当然エルダートレントも気づいて体をジャーフルへ向ける。
すると今度はクロウが空中から大ぶりに剣を振りかざした。
クリティカルは出ないにしても大打撃だ。
「エルダートレントがハマったか?」
「そんなわけ無いでしょ」
ナオヤが紫鬼に聞くとバッサリと切られた。
事実そうだった。
エルダートレントは両腕を伸ばすと鞭のように使って全体攻撃を仕掛けてきた。
これに直撃してクロウは地面に叩きつけられジャーフルは後方の木に叩きつけられた。
そして悪夢は続いた。
「二人共麻痺食らってる…」
紫鬼が二人の体力ゲージ上にバッドステータスがあるのを確認する。
先の攻撃でジャーフルの体力は橙色に、クロウは黄色になってしまった。
早くしなければジャーフルはやられてしまう。
幸運にもエルダートレントはクロウに向かった。
クロウ的には不運だが体力もまだ残っているので幸運である。
エルダートレントが迫るのをただ見るクロウ。
エルダートレントはそれをあざ笑うかのように新たな攻撃を繰り出す。
エルダートレントは両手を先程と同じように地面に突き刺してへし折る。
それは普通のトレントとして復活する。
しかしそれだけでは終わらなかった。
エルダートレントは魔力を使ってアビリティを繰り出したのだ。
その瞬間四体のトレントに火がつく。
そう、ファイアトレントの完成である。
こんなのありかよと思うが現に起こっているのでありなのだろう。
ファイアトレントはクロウを囲み始める。
が、突然一体のファイアトレントが消滅したのだ。
ジャーフルが麻痺から復活したのだ。
ジャーフルはアビリティを使って姿を消してエルダートレントの横を通ってクロウの救助に来たのだ。
ジャーフルはクロウを掴むと後方にかける。
敏捷が高いのでファイアトレントでは追いつけない。
距離を取ってからクロウに回復アイテムを使って麻痺毒を消す。
これでクロウも準備万端である。
クロウも流石に本気を出すようだ。
戦士のアビリティを重複して発動する。
一気に駆け抜けて普通より弱いファイアトレントを三体同時に葬る。
続けざまにエルダートレントに突進。
『気合の一撃』が炸裂。
ジャーフルも負けずに短剣で連続切りをする。
幸運にもクロウの攻撃がまたクリティカルを出したので一気に削れた。
最後はジャーフルが止めを刺して決着はついたのだった。




