余剰の攻略者
現在ナオヤと紫鬼はギルエルキの街にある広場に居た。
広場にはベンチが至る所に設置されており、露店まである。
広場の周りを囲むように並ぶ木々がここだけを別の空間と言わんばかりである。
ナオヤは露店でクレープを二つ購入する。
ゲームの中なので味だけで特に効果は無いがこういうのも雰囲気である。
ナオヤは紫鬼が待つベンチへと戻る。
クレープを一つ渡して座る。
一口齧ると口一杯にクリームの甘さと果物の酸味が広がる。
そう、ゲームの食べ物も意外といけるのだ。
ゲーマーの中には現実ではエネルギー食のゼリーやクッキーだけで済ませてこっちでいろんなものを食べる人もいるぐらいだ。
まあ、わからないでもないけどね。
「この後どうする?」
先に食べ終えた紫鬼が質問してきた。
ナオヤも残ったクレープを頬張って飲み込む。
「元々僕らだけでって始めたゲームだし元に戻ったって言えば戻ったんだけどね。まあライジオともう会えないってわけじゃないし」
「世界迷宮ってどのぐらいで攻略できるんだろうな」
「さあな、そんな直ぐには出てこないと思うけど…」
紫鬼が何かの鍵片を取り出す。
現状、ナオヤと紫鬼はプリステラから譲り受けた鍵片を一つずつ所持している。
世界迷宮に挑むためには後二つ、計四つ必要である。
「とりあえず次の迷宮が出てくるまではレベル上げて進化とか探索が一番じゃないかな」
「だね。それじゃあ俺らに合ったモンスターのいる場所でも見つけてレベルをガンガンあげようぜナオヤ!」
紫鬼が立ち上がりうおーと気合を入れる。
そうと決まれば即行動がゲーマーである。
ナオヤ達はギルエルキの門まで向かった。
その途中で世界迷宮の横を通ると見慣れた男が居た。
銀髪黒瞳の男、ロイドである。
その両隣にはこの前噴水広場で見たことのある顔ぶれが居た。
しかし人数が前よりも少ない。
ロイドを合わせても5人だけである。
ナオヤ達は気づかれないように建物の物陰に隠れて盗み聞きを始めた。
「では実験第一だモンテス君、この鍵を持って扉の中に入ってくれ」
「了解」
モンテスという男プレイヤーが世界迷宮に入ろうとする。
すると見えない壁に阻まれて止まってしまった。
「なるほど、名無しでは入れないのか…」
どうやら世界迷宮に入れる人とそうでない人の違いを確かめているようだ。
これは興味深い、是非参考にしてから街を出よう。
「次はレティさん、お願いします」
「はい」
今度はレティという女プレイヤーが鍵を持っていく。
今度は驚くことに入れた。その証拠に鍵も消えている。
しかし直ぐに引き返しロイドの元へ戻る。
「ご苦労様ですレティさん、なるほど、ストーリー上での潜入は名前の有無に関わらずに入れるようですね」
そういうことか、レティというプレイヤーはストーリーを進めていたようだ。
通りでロイドの姿を講習会などで見ないわけだ。
それにしても他の2人はどういった実験をするのだろうか。
今のところSS持ちは当然入れるとして、SS無しは入れない。SS無しでもストーリー上の進行では入れると。
このまま帰ってもいいがどうせなので他の2人がどういった実験をするのか見てみることにした。
「ではイッセイ君。アガメルさん。行きましょう」
そう言うとロイドと呼ばれた2人が世界迷宮へ歩いていく。
「イッセイ君もアガメルさんも僕も名前持ちです。不安がることはありません。張り切って行きましょう!」
そう言ってロイド達は世界迷宮へ入っていった。
物陰を出てナオヤ達はギルエルキの門まで走っていった。
息を切らしてゼーハーするが直ぐに息を整える。
これでも昔は陸上部だったのだ。そこら辺は上手である。
「い、今の、聞いたか?」
紫鬼が聞いてくる。
無論だ、聞き間違いでなければだが。
「3人ともSS持ち?」
「確かにそう聞こえたよな?」
「確かにあのイッセイってやつとアガメルってやつのレベルもそこそこ高かったけど…」
イッセイもアガメルもレベルは40前後だったと記憶している。
「どういうことだ?」
疑問である。
初めて現れた迷宮は5つ。
騎士王、暴食、笑い、叡智、風間である。
つまり最高でも5人なのだ。
騎士王はライジオ、格好からして笑いはトリッピーで風間はエル、消去法で暴食がプリステラだから叡智はロイドである。
では先ほどの2人はなんなのか?
これは一度調べる必要が出てきた。
「紫鬼、叡智の迷宮について調べてみよう」
「そうだな、今後の為にもなりそうだし一度ネーデに戻ろう」
「いや、キュトスで大丈夫のはずだ」
「なんで?」
「迷宮の情報を知っているのは迷宮に潜ったやつだけだ。迷宮に潜ったってことはレベルが高いはず。レベルが高いやつがネーデに居続けるわけがない。つまり講習会もあるキュトスのほうが情報は多いと見た」
ナオヤの説明に紫鬼も頷いたようで一度キュトスに戻ることにした。
ナオヤ達は気づかない、その会話も全て第三者に聞かれていたことを。




