無言の戦い
3人は直様戦闘態勢に入る。
ナオヤを先頭にしてその後ろにライジオと紫鬼が構えるという感じだ。
ナオヤ達は各々の武器を構えながらクワイエットナイトの動きを観察する。
「鎧の中には誰か入っているのか?」
「さあな、それも踏まえて攻撃したらわかるだろ、マジックチェイン!」
ライジオが先制してクワイエットナイトをスタンさせる。
それを合図にナオヤが走る。
マジックチェインは5秒だけ相手をスタンさせる魔法だ、時間は限られている。
「うおぉぉぉぉ!」
ナオヤは銅の剣を叩きつける。
金属と金属の甲高い音が響く。
体力ゲージを見ると僅かに減ったのが分かる。
続けて頭部、兜を攻撃する。
体力の減りが先程より少ない、どうやら頭は硬いらしい。
そこでマジックチェインが解けたようでクワイエットナイトが動く。
クワイエットナイトはナオヤを認識すると手に持つ剣で攻撃を開始する。
「急所鑑定!」
ライジオがクワイエットナイトの急所を探る。
結果は失敗のようで、舌打ちが聞こえた。
次は紫鬼がクワイエットナイトの後方へ移動して魔法を放つ。
「ファイアショット!」
直撃してクワイエットナイトの動きが鈍る。
クワイエットナイトは紫鬼を視界に入れようと体を動かすがナオヤがそれを阻止する。
「余所見するな!」
胴に痛恨の一撃が入ったのかクワイエットナイトの体がバランスを崩す。
「今だ、離れろナオヤ!」
紫鬼とライジオが魔力全開のファイアショットを放とうとした。
ナオヤは巻き添えを回避すべく後ろへ退避する。
ナオヤが安全圏に入ったのを見て2人が魔法を放った。
「ファイアショット!」
全魔力を使っただけに相当な威力が出た。
しかしクワイエットナイトもしぶとく、体力がまだ4分の1残っている。
「行けるぞ」
「ああ」
「ナオヤ、やってやれ!」
魔力を使い切ってしまったのでしばらくは後方に退避する2人。
ナオヤは剣を振るいダメージを与えていく。
しかしクワイエットナイトも中層ボスである。
ナオヤの体力をジリジリと削っていった。
2人の魔法のおかげもあって体力的には互角であるため、一切の隙を見せられない。
避けては攻撃し、受けては攻撃する。
どうやらクワイエットナイトは攻撃を負う毎に敏捷が上がっているようだ。
もしかしたら他のステータスも上がっているのかもしれない。
と、油断をしてしまった。
ナオヤは足を滑らして体のバランスを崩した。
だからと言って敵は待ってくれない。
クワイエットナイトは剣を両手で持ち、渾身の一撃を繰り出そうとする。
「マジックチェ…!?」
紫鬼がギリギリのところでマジックチェインを使用しようとしたが止まった。
何事かとライジオが紫鬼を見る。
紫鬼は口をパクパクと開閉していた。
ナオヤは近くに居たのでその理由がわかった。
クワイエットナイトだ、攻撃を出そうとしたクワイエットナイトに紫鬼が魔法を使おうとした瞬間、クワイエットナイトの兜の隙間から光が出たのだ。
結果的にはナオヤは避けることができた。
ナオヤは試しに喋ろうとする。
「…」
想像が的中した、奴、クワイエットナイトは体力が一定数減少すると敵を沈黙状態にするようだ。
そのせいで魔術師は魔法が唱えることができず、他の職業もアビリティが使用できないのだ。
クワイエット…そういうことか。
敵が無言なのではなくこっちの口を塞いできたのだ。
早々にこれはピンチである。
こうなっては持久戦を覚悟しなければならないのだ。
ナオヤは意を決して剣を握る。
両手から汗が出ている錯覚がして気持ち悪い、だが実際には出ていない。
そう錯覚を起こしているのだ。
ナオヤはクワイエットナイトに突撃を開始する。
クワイエットナイトもそれに反応して応撃してくる。
攻撃が攻撃を弾き、手が痺れる。
気を抜いたら剣を落としてしまうかもしれない。
そうなってはおしまいだ、気を引き締め直す。
ここでやられては門番など倒せるはずがない。
ナオヤはクワイエットナイトの攻撃を躱しながら敵の身体を観察し始める。
まずは胴体、攻撃を他の場所よりは通していた、攻めるなら胴体だろう。
手と足を見る。
ここらはあまり攻撃が通らなかった。
なぜだろう、敵はどういったモンスターなのか?
クワイエット、沈黙、静か。ナイト、騎士、夜。
ヒントは名前にあるのではなかろうか。
沈黙の騎士、沈黙の夜…他にも連想できるものを連想する。
もしかしてこれか?
ナオヤは一つの答えにたどり着いた。
答えと言っても仮定でしかない憶測である。
試すにも沈黙状態が続いているために紫鬼とライジオに伝えることもままならない。
ジェスチャーを取るしかない。
その為には眼前の敵をどうするか。
剣を構えてクワイエットナイトの動きに対応する。
銅の剣だ、前の階層で手に入れた剣。
ナオヤはイチかバチかの掛けに出た。




