カット。
ピクリと俺は固まった。
それは鋏がナイフになってるだとか、周りが訳のわからない景色になっているだとか、そんなことではない。
目の前の化け物が俺にまだかと尋ねて来たのだ。
「いや、あの…失礼なんですがどこを切れば…?」
俺は馬鹿なのだろう。
何故こんなことが聞けたのか未だに謎だ。
だがその化け物は努めて紳士的に答えてくれる。
「この下の引きずってる触手を切りそろえて欲しいのです。初めて来店してお任せというのは少し適当過ぎましたかね?すいません…」
声を沈めて少し申し訳なさそうにいうこの化け物。
いや、そんなこと言っては失礼なのか?
よく見てみると、確かに触手は地に付くほどに伸びていて、触手に覆われ体は見えていない。
いや、むしろ触手が体ではなかったのか…
「いや、失礼しました。ところで、その触手は切っても痛くないのでしょうか…?」
俺は何故またそんなことを聞くのか。
自分のタフさ加減に呆れてしまう。
いや、テンパりすぎてこんなことになっているのだろうが。
「ここに来れば痛みなくカットしてもらえると聞いていたので、貴方を信頼していますから大丈夫です!」
あれ?
今なんて?
俺が切れば痛くない…?
ということは普通に切ったら痛いんだよね?
それ大丈夫なわけ無いよね?
というよりなんで俺がこんなに信頼されてるの?なんなの?馬鹿なのこの人…人?
だが、ここまできて切れませんなんて言ったら、この触手に絞め殺されるかも…もうやるしかない…
「では、あなたの肩?ぐらいにラフに切りそろえておきますね?」
意を決して、最早鋏でも何でもないロングを使い切り始めるのであった。