鋏…?
空気椅子をしたまま動きがない化け物。
これは一体なんだというのだろう。
さっきまでの公務員の彼はどこに?
いや、でもとりあえず客なんだし切らなきゃならないし…
訳のわからないことを考えながら、周りを見る余裕も無くつい腰に着くシザーケースから鋏を取り出そうと手を伸ばす。
そして手にとった鋏…
「え?なにこれ?」
どう見ても鋏ではなかった。
綺麗なシルバーの輝きを放ち、無駄な装飾のない剣刃と呼ばれるタイプの長めの鋏を取ったはずのそれは、一般的にロングと言われる刈り上げたりする専用の鋏だ。
「ロングはロングだけど…長過ぎね?」
確かにシルバーだし、剣刃なんだけどこれは…
長さで言えば60センチ程だろうか。
明らかに可笑しなサイズの、しかもどう考えても剣にしか見えない。
もう剣刃とかじゃなくて剣なのだ。
「というより持ち手だけ鋏の持ち手なんですがこれはどーいう…」
逆手に持てば使えそうでは有るが、剣として持つにしては非常に持ちにくい持ち手の、刃渡り60センチの持ち手が鋏の剣。
いや、剣というよりナイフか?
本来それどころではないはずなのに何故かそんなことを考えていた。
「あの…カットまだですかね?」
…化け物にそう言われるまで、俺はずっとそのナイフを見つめていた。