心凍える冬は去り
嵐のようだったホワイトデーが過ぎ去り、春休みに入ると、僕はアルバイトを始めた。
職場はアパート近くの、行きつけのスーパー「ラッキーマート」だ。
千都世さんに贈ったネックレスが家計に深刻なダメージを与えており、その修復のために、短時間労働に従事する必要があった。我ながら不甲斐ない理由だと思う。
スーパーの仕事と一口に言っても、肉や魚を切ったり、弁当を作ったり、レジを打ったりといろいろあるが、僕の仕事は主に、売り場を巡回して棚の商品を補充する作業だ。もっとも経験の要らない業務である。
それに加えてお客様(と仕事中は言わなければならない、客、では駄目なのだ)を見かけたら笑顔であいさつ、お声がけなど、基本、ニコニコしていなさいと教わった。
業務にはレジ打ちは含まれていない。つまり現金を扱うわけではないので、そこまで気を張る必要はなく、コンビニと違って業務内容もシンプル。その分いくらか時給は落ちるが、とにかく家から近いという点がよかった。
期間も春休みの2週間だけ密に入って、新学期が始まってからは週3回などでも大丈夫という融通の利くところも気が楽でいい。
気楽だからって手を抜いたりはしない。
ダラダラと作業をしているのは、わたしはだらしなく能力の低い人間ですと、周囲に喧伝しているようなものだ。これは自分の部屋を極力きれいに保っておきたい精神――つまりは見栄だ――と共通するものかもしれない。
百代にはキレイすぎて逆にちょっとキモイと言われたりもしたけれど。
◆◇◆◇◆◇◆◇
アルバイトを始めて数日。
最初に教わった業務にも慣れてきたと思っていたころ、不意に事務所に呼び出された。
相手は副店長の長谷川さんだ。
30代前半くらいの、中肉中背の背格好の男性である。
相手に威圧感を与えない穏やかな容姿と雰囲気を持つが、気の強いパートのおばちゃんや、ガラの悪い客――お客様に、一方的にあれこれ言われているのを見たことがあり、ああ、これが中間管理職、ありとあらゆる方向からの板挟みになる人のことか、としみじみ思ったものだ。
思っただけで口には出していないので、それを咎められるわけではない、と思う。
「うーん、最近の若い子には、あまりない傾向なんだけどね」
おごりの缶コーヒーを受け取りながら話を聞く。
「昔の……、私よりもちょっと上の世代って、仕事に逃げている人が割といたんだよね。仕事から逃げるんじゃなくて、仕事が逃げ場所なんだよ。
私生活で趣味とかがなくて、休日に家にいても家族から雑に扱われたりして、余暇の過ごし方がわからなかったんだね。だから、やたらと職場での自分に存在価値を見出したがるというか」
「モーレツ社員とかの世代ですか。その話とどういうつながりが?」
「よく知ってるねそんな言葉。そこまではいかないんだけど……、君にはどうも、それに近いものを感じるんだよ」
「近いもの、ですか……」
「仕事をまじめにやっているというよりも、必死で仕事に逃げ込んでいる感じ。物語なんかでよくあるモノローグだろう? 忙しい方が余計なことを考えなくて済む、って」
「はい……」
確かによくあるやつだ。それも主に、主人公がひどく打ちひしがれているときに。
「ああ、真面目さを否定するつもりは全くないんだ。しっかり働いていくれているのは、とてもいいことだよ。君は仕事に対する意識がきちんとしている。そこは私も高く評価しているからね。
ただ、それで身体を壊されても困るし、8時間プラス4時間残業も行けますとか、異様なアピールをされても、こちらでは受け入れられないんだよ」
やんわりとした口調ではあったが、確かな否定だった。
それが思いのほかショックだったみたいで、僕は考えなしに「はあ……」と気の抜けた返事をしてしまった直後に無礼に気づき「あ、はい、わかりました」と遅れて付け加えた。
その取り繕いに長谷川さんは苦笑いを浮かべて、
「基本、パートタイマーに求められるのは、瞬発力ではなく継続力だからね。150%の力で大気圏突破してそのまま戻ってこなくなるよりも、80%くらいの力で安定飛行を続けてもらった方がずっといい」
「もう少し手を抜いていいということですか」
「いや、力を抜くのはいいが、手は抜いちゃいけない。力を抜いた分の余力をよそに振り分けるんだよ。何事にも言えることだが、スピードが速すぎると視野が狭くなる。アクセルを踏み込むときは状況を見極めないとね」
長谷川さんはゆっくりと、言い含めるように話をしてくれた。
雇って数日の学生アルバイトに対して、ずいぶん手厚い処方だと思う。
◆◇◆◇◆◇◆◇
僕は働き方を少しばかり変化させた。
商品を並べるにしても、ただ棚の端から順に埋めていくのではなく、商品の減り具合によって優先順位を考えた方が効率がいい。
作業に夢中になって周りを見ていないと、通路を塞いでしまったり、お客様が商品を取る妨げになってしまう。
そういった『力を抜いたぶんの余力をよそに振り分ける』ための具体的な方法を教わり、それを実践していった。
力は抜いて、手は抜かない、抜いた余力で視野を広く。
標語のように繰り返しながら作業をしていく。
お客様が通り過ぎるときには、意識して笑顔を作ってあいさつを。
「いらっしゃいませー」
「わぁ、すっごい作り笑い」
私服姿の百代が立っていた。
ホワイトデー以降、学校ですれ違っても軽く言葉を交わすくらいで、あの日の弁解もできていない。……まあ、言い訳するような後ろ暗いことはないはずなんだけど、喫茶店では千都世さんに引っ掻き回されたせいで、妙な感じで別れてそのままだったから、少し気にはなっていたのだ。
百代の機嫌はよさそうだった。
ブラウンのダッフルコートに青系のタートルネック、下は濃紺のデニムのパンツ。商店街のスーパーよりは市街地の百貨店を歩いている方が似合う装いだ。
「イ、イラッシャイマセー」
僕はそっと顔を背け、作業に没頭するふりをする。
「ね、店員さん、この商品って売り切れなの?」
百代が――お客様が棚の一角を指さした。
そう来られると、こちらも対応せざるを得ない。
見てみると、値札はあるが商品はなかった。
棚にないだけなのか、それとも、在庫もゼロなのか、僕には判断がつきかねる。
こういうときのための魔法の言葉を、僕は口にした。
「し、少々お待ちくださいませ……」
そしてバックヤードへ引っ込もうとする。
「じゃあやっぱりいいです」
「ぐっ……」
僕は周囲を見回した。
ほかにお客様がいないことを確認して〝仕事モード〟を解除。
「……なんで知ってるの、ここでバイトしてること」
「お姉さんが教えてくれたの。バイトするときって身元保証人とかが必要でしょ?」
「ああ、それで……」
バイトを始めることを千都世さんには伝えていない。
ただ、いくつかの書類は両親に書いてもらう必要があり、実家に郵送していたのだ。それを盗み見られたのだろう。そして、面白がって百代に知らせたと。
さっそく連絡先を交換しているあたり、さすがに手が早い。百代と千都世さんはノリが合いそうだし、厄介な二人が手を組んでしまったな……。
かすかに危機感を覚えていると、百代がこちらに一歩近づき、顔を覗き込んできた。
「ねえキョウ君」
「きょうくん?」
「名字だとお姉さんとかぶっちゃうから、名前で呼ぶね」
「あ、うん……」
僕は棚に手を伸ばして、乱雑になっている商品の整頓を行う。
棚の見栄えをよくする重要な業務だが、それ以上に、百代からさりげなく距離を取り、向き合っていた視線を外す意図があった。……本当にさりげなくできたかと自問すると、そりゃあもう不自然と言わざるを得なかったけれど。
「ね、どうしてバイト始めたの?」
「遊ぶ金欲しさに……」
「窃盗犯の動機みたいな言い方」
「実際、春はいろいろと物入りになるしね」
「自炊しててもやっぱり厳しいの?」
「自炊ってあんまり節約になってる感じがしないんだよね。1人前だけだと手間もかかるし、作り置きできる料理にも限りがあるし」
「ふーん」
「あと、僕は刺身が好物なんだけど、グラム当たりの値段で見ると国産牛並みに高いってことに初めて気づいたよ」
「え、そんなにするの? あたし魚全般キライだからどうでもいい情報だけど……」
百代はそこで言葉を切って、首をかしげる。
「ところで、今日の仕事って何時くらいに終わるの?」
「あー、バイトに入ったのが遅かったし、1人、急に来れなくなったみたいで、ちょっと長引くかな。夜の8時くらい」
「へー、けっこう遅くまでやるんだぁ」
「春休み中は積極的に使ってくださいって頼んでるから」
「基本、消極的なキョウ君がねぇ……、自分でお金を稼いだりして、大人の階段を上っちゃったんだね……」
そんな雑談に興じているうちに、別のお客様が通りがかった。
「いらっしゃいませー」
僕はすぐさま仕事モードに戻る。
百代も気を使ってくれたようで、そっと距離を取ると、「じゃあまたね」と片手を上げて帰っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
作業を続けながら、僕はホワイトデーのことを思い出す。
喫茶店を出た僕はバッティングセンターで時間をつぶし、自分の部屋に戻ると、千都世さんが料理を作っているところだった。
久しぶりの手料理のおいしさに改めて感銘を受ける。
そして、食べ終えたところで、千都世さんは恐ろしい質問を投げてきた。
「で、鏡一朗、アンタどっちがいいの?」
僕は真顔の千都世さんから目を逸らし、テーブル上のカラになった皿へと視線を落とす。
「この手ごねハンバーグもよかったけど、こっちのマリネっていうの? こんな味のドレッシング置いてなかったと思うんだけど、もしかして手作り? ちょっとレシピ教えてほしいんだけど……」
「そういうのはいい」
「ハイ」
僕は姿勢を正した。
「百代曜子ちゃんに、繭墨乙姫ちゃん。どっちもいい子じゃないか」
「どっちも、同級生、友達だよ」
「ま、アンタの性格ならそう答えると思ってたけどね」
「ただの事実だから」
千都世さんは呆れたという風に肩をすくめ、片目を細める。
「鏡一朗は、なんつーか、こう……、女に興味ないの?」
僕は絶句しそうになるが、何とか反論に転じる。
「いやいや……、そんなことはないって」
「性欲とかの話じゃない。それ系の雑誌がたっぷり詰まった段ボール箱が、実家の押し入れの中に眠っているのは知ってる」
「あぁ……」
「そうじゃなくて、アレだ、特定の相手とのおつきあい、ってやつだよ。実家にいたころの鏡一朗には、色恋沙汰の気配がさっぱりなかったじゃないか」
恥ずかしい秘密の暴露や、人間関係の詮索。
千都世さんの攻撃はいつも明け透けで容赦がない。
僕は羞恥に顔を伏せつつ、ボソリと反撃をつぶやく。もちろん、絶対に届かない声量で。
「……誰のせいだと思ってるのさ」
「ああ? なんか言ったか?」
「ううん何も」
本当にささやかな抵抗。小さい男だという自覚を深めただけだった。
「ま、とにかく、かわいい弟が恋愛不能者なんじゃないかと心配だったおねーさんとしては、少しホッとしてるんだ。こっちに越したプラスの影響が出てるみたいでよかったよ」
「何それ。今はあるってこと? その……、色恋沙汰の気配が」
問いかけると、千都世さんは「はぁ?」と顔をしかめる。
「気配なんて段階じゃないだろ、季節が変わってるレベル」
「季節が」
「そう。心凍える冬は去り、恋の花咲く春爛漫、ってな」
「まだ梅くらいしか咲いてないよ」
「じゃあ次は桜だな」
そう言って、千都世さんは花が咲くように笑っていた。
梅や桜なんていう控えめな花じゃなく、主張の強い向日葵の花のように。
◆◇◆◇◆◇◆◇
――実際、バレンタインの頃から兆候はあったのだ。
百代がやけに距離感を詰めてきていることは、自覚していた。
そこに千都世さんがあんなことを言うから、余計に意識してしまう。
僕はため息をついて気持ちを落ち着かせ、次の通路へ向かおうとする――
――商品棚の陰から長谷川さんが顔を半分だけ出してこちらを見ていた。
「阿山君。キミはあと30分ほどで退勤だったはずだよね。なぜあのような嘘を?」
さっき百代に話した内容を聞かれていたのだろうか。
僕が答えるよりも先に、長谷川さんは何かに気づいたかのように表情をこわばらせる。
「何? まさか……、キミが仕事に逃げている理由って、女性がらみ?」
ああうらやましい、畜生、私にはまぶしすぎるぜ、さらば青春の光……、などと、長谷川さんはわけのわからないことをつぶやきながら、バックヤードへ下がっていく。
「あ、そうそう、わかってると思うけど、ちゃんと定時で帰るようにね」
最後にそうやって釘を刺すあたりは、きちんとした上役っぽいんだけど。
◆◇◆◇◆◇◆◇
タイムカードを押して、従業員用の通用口から外へ出ると、外気の冷たさについ足が止まった。西の空はまだ明るいが、夕方になると一気に冷えてくる。
僕はコートの前を閉じ、やや前かがみになりながら家路を急ぐ。
やがて、アパート近くの自動販売機を通りがかったときだった。
「――お疲れさま、阿山君」
白っぽい筐体の陰から、黒っぽい繭墨がするりと歩み出てくる。
繭墨の服装は、コートも黒、スカートも黒が基調のチェック柄、ハイソックスも黒。白っぽいのはインナーのセーターのみで、全体的に黒っぽい。夜道だと危ない服装だ。
僕は時間のあいさつに少し迷い、
「……こんばんは、繭墨。どうしたの、こんなところで」
「阿山君が勤労少年になったと聞いたので、少し様子を見に来ました」
「勤労少年って言われると、僕のイメージだと新聞配達やってるような感じなんだけど」
「スーパーでのアルバイトだと違和感がありますか?」
「いや、単なる刷り込みじゃないかな。昔見た古いドラマとかのせいで、苦学生のバイトの定番っていうイメージができてるのかも」
「それは、少しわかります。日も昇らぬ早朝から、学校指定のジャージで自転車をこいでいるイメージですよね」
「そうそう、そういうやつ」
と、どうでもいい雑談がひと段落したところで尋ねる。
「で、なんで知ってるの」
「ヨーコから流れてきた情報です」
繭墨はスマホの画面をこちらに向ける。
『阿山君告発サイト・ヨコリークス』
というタイトルのメッセージがあった。
国際ニュースネタ、しかも対象は名指しで僕一択だった。
「それで、いかがでしたか?」
「まだ数日しか働いてないし、単純労働だけだから、なんとも言えないけど。普通に続ける分には問題なさそうかな」
「それは何よりです」
繭墨は自販機にお金を入れ、ディスプレイされた缶コーヒーを指さしながら訊いてくる。
「どれにしますか?」
「えっ? ああ、ありがとう。それじゃ……」
僕は缶コーヒーのラインナップを確認して、微糖タイプのものを選んだ。
続いて繭墨はブラックを。相変わらずの大人舌である。
「缶コーヒーってどうして微糖やら低糖はあるのに、無糖ミルクのみ、みたいなやつがないんだろうね」
「あ、それ、昔見たことがありますよ。どマイナーなメーカーの製品でしたし、しばらくしたらなくなっていましたが」
「ニーズが少なかったってことか」
繭墨の手から缶コーヒーを受け取る。
去年の年末にも、似たようなことがあったと思い出す。
商店街で焼き芋アイスをおごってくれたのだ。
あのときの繭墨は借りを返すためというニュアンスだったが、今回のこれには、どういう意図があるのだろう。
僕たちは缶コーヒーをすぐには開けず、しばらく手の中でもてあそんで暖を取った。
「日本に冬がある限り、自動販売機が無くなることはないでしょうね」
「機械のくせに、なんか風情があるよね、自販機って」
「ホットの缶コーヒーは季語として使えるレベルの存在でしょう」
「古いJPOPの歌詞ではすでにその兆候が見られるけど」
「未来の日本語学者が研究対象にするかもしれませんね」
「かじかんだ指先を温める缶コーヒーのぬくもり、みたいな」
「いい感じのベタさですね」
指先が温まってきたので、缶を開けてゆっくりと飲み始める。
甘ったるい液体はコーヒーと名がついているがほとんど別の飲み物だと思う。
繭墨もブラックの缶コーヒーを傾けている。
立ち上る湯気が顔を撫で、メガネをかすかに曇らせている。
中身が半分ほどに減ったあたりで、僕は思い切って問いかけた。
「あのあと、千都世さんと何かあった?」
繭墨はうっすら曇ったメガネでこちらを見据え、
「あのあと……というのは、お姉さんとの羞恥プレイに耐え切れなかった阿山君がトイレに逃げ込んだ、そのあと、という意味ですか?」
認めがたいことこの上ない確認の文言だったけれど、これも自らの落ち度が招いた事態だ――半分くらいは千都世さんのせいだけど――と反省の意味も込めて、僕は渋々ながらうなずいた。
「はいそうですよ」
「投げやりな返事。……わたしの方で自覚するような出来事はありませんでしたよ。逆に聞きますが、お姉さんから何か言われたのですか?」
「ん……、いや、特には」
『あの繭墨ってコには気を付けときなよ。なんつーか、目的のためには手段を選ばないっていうタイプに見えるからな』
千都世さんによる繭墨評だ。
繭墨は以前、戦争と恋愛ではあらゆる手段が肯定される、なんて大言をのたまっていたが、千都世さんがそれを知っているはずがない。
だから、僕の知らないところで、千都世さんが繭墨の本音・本質を知る機会があったのではないかと思ったのだ。
そして、本音というのは強い衝撃があったときに、ふとこぼれ落ちるものだ。
「そうですか……。阿山君が聞いていないのなら、それは執行猶予を与えられたということでしょうか」
「なんのこと?」
「それとも猶予ならぬ余裕、その程度で優越を感じるなど片腹痛いわ小娘が、という物言わぬメッセージでしょうか……」
「ちょっと物騒なこと言ってるけど、ホントに何もなかったのそれ?」
繭墨はこちらの呼びかけを無視して独り言を終えると、缶コーヒーを傾けて、残りを一気に飲み干した。
空き缶をゴミ箱に入れて、晴れやかな笑顔を向けてくる。
「はい。すべて、こちらの話です」
「あそう」
そう断言されると、これ以上、何も言えなくなる。
「では、今日はこれで」
「ああ……、コーヒーありがとう」
「どういたしまして。まだ寒いですが、新学期までには暖かくなっているといいですね」
「だね、冬は繭墨の嫌いな、忌まわしいイベントが盛りだくさんだったから」
「心外ですね、忌まわしいだなんて」
繭墨はわざとらしくショックを受けた顔を作る。その場で回れ右をしたので、その表情はすぐに見えなくなった。
「今のわたしは、見逃してあげてもいい、くらいには寛容ですよ」




