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居場所を探して…  作者: 桜氷
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狼衛家

「兄さん、頼むからこの時間から酒を飲もうとしないでくれないか?」

十数年前に天使によって作られた空中都市こと、リベルタスに狼衛おいもり家は住んでいる。

現在太陽が真上にある時間帯。この時間から兄さんと呼ばれた男、この家の当主“天翔てんしょう”は酒を飲もうとしている。

「えーー別にいいじゃねぇかよぉ。そんな毎日仕事あるわけでもないんだからさー。」

「もし今仕事来たらどうするの?お酒呑んでたらまともに仕事できなくなるでしょ?」

次男“奏詩そうし”の言葉に天翔は頬をぷくぅと膨らませ、嫌だと言わんばかりに奏詩を睨みつける。

「……」

しかし、そんな兄の扱いに慣れてる奏詩は笑顔で兄を見返す。

「そんな顔で見ても変わらないよ。」

「……」

「……」

しばし無言の攻防が繰り広げられる。

彼らの言う仕事というのは簡単に言うと、更生施設、または監獄から逃げ出した大地人や天使を捕縛する事だ。その仕事は簡単な事ではなく、捕縛対象が重罪を犯した人であるため、常に命の危険にさらされている。

すると、そんな静寂を打ち破る者が現れた。

「兄貴!暇なら剣の稽古をしてくれ!」

この家の三男、“陽向ひなた”だ。

「おうおう!今日も元気がいいな、陽向は。」

「元気なのが俺だからな!兄貴!ほら、早くっ!」

「えぇー…」

暇を持て余し、酒を飲もうとしていた天翔にとって奏詩は丁度良かった、と呟いて兄から酒を取り上げた。

「兄さん、稽古の相手してやってよ。どうせ今は暇でしょ?」

「あ、おいっ!……ったく、しょうがねぇな。」

「よっしゃ!ありがと、奏兄ぃ!」

気怠げに承諾する兄とは対照的に下の弟は嬉しげで、稽古に使う木刀を二本振り回している。

「頑張って強くなるんだよ。」

「奏兄ぃよりは俺強いもーん!」

「………」

「……あっ…」

急に辺りに静けさが訪れた。

陽向は「やっちまった」と言わんばかりにあたふたし始め、奏詩は1度目を見開いてから俯いてしまった。

「…えっと…あのね、奏兄」

「そうだね。」

何とか弁解しようとしていた陽向に、奏詩はまた完璧な笑顔をして見せて黙らせてしまった。

「おーい陽向〜。早くしねぇと相手してやんねぇぞー。」

いつの間にか玄関に消えていた天翔が声を上げる。

「今行く!…奏兄ぃ、行ってきます。」

咄嗟に答えてしまったが、陽向は後ろ髪引かれる思いで玄関に向かった。

「行ってらっしゃい。」


…バタン。

ドアが閉まるとこの部屋には外でさえずる小鳥たちの声が聞こえてくる。

「俺より強い……か。」

ハハ…。

と、奏詩は乾いた自傷の声を零す。

陽向の言ってることは間違ってない。

僕は、あの日から刀を抜けないでいる。どうしても…無理なんだ…。

そんな僕が周りから“足手まといの臆病者”と呼ばれてるのは知っている。兄さんと陽向も知ってるけど、…僕は知らないと思ってる。

そして兄さんと陽向は、

「奏詩、お前はお前のままでいいんだよ。それがお前ってもんなんだからよ!」

「奏兄ぃ大好き!」

って言ってくれる。嬉しかったなぁ〜。


…でも、やっぱり情けないと思う。

僕は仕事の時、2人より一歩引いた視点で状況を把握し、指示を出す事が役目。

刀を抜けない僕は…

足手まといな僕は…

「ミャーオ!」

奏詩の思考を遮るように1匹の黒猫が鳴き、奏詩の足元に擦り寄る。

「ミャ〜オ!」

「どうしたの、ミーちゃん。」

「ミャ〜〜オ」

「ご飯かな?もうお昼だもんね。ちょっと待っててね。」

「ミャー♪」

この猫は2年前、雨に打たれて弱っていた所を奏詩に連れて来られ猫で、一番奏詩に懐いている。そして、唯一奏詩が本心を見せられる相手だ。



所変わって、自宅の近くにある広場に向かっている天翔達。空は重い雲で覆われていて、土の匂いを運んでいる。

「…兄貴、ごめん。」

「陽向が謝ることじゃねえよ。…でも、次は言うんじゃねえぞ?」

落ち込む陽向の頭に天翔は手のひらを乗せてぐしゃぐしゃする。そして陽向の目の前にしゃがみ込んで顔を下から覗き込んだ。

「兄貴、一つ聞いてもいい?」

「いいぜ!」

天翔は陽向の頭から手を外し前を歩き始めた。その横を陽向も歩く。

「どうして、奏兄ぃは刀を使わないんだ?」

「…っ⁉︎」

その言葉を聞いた途端、天翔は歩みを止めた。

天翔の隣を歩いていた陽向は急に止まった天翔に困惑し、

「どうしたの?」

そう問いかける。

天翔は額に手をあて、「もういい歳だよなぁ…」と呟いて、陽向に向き直る。

「陽向、これはかなり大事な話だ。時が来たら絶対教えるから、その事も奏詩に聞いちゃダメだぞ?」

「…わかった。」

「よぉし、いい子だ!さ、稽古するぞ!全力でかかってこいよ!」

「今度こそ兄貴に勝つ‼︎」

そう言って2人は広場に向かってどちらが先に着くか、競争し始めた。

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