7話
「八回? どんな戦だったか聞いてもいいかね?」
これも別に隠すようなことじゃない。なんかユレルミも聞きたそうにしてるし。
「とりあえず一番酷かった時の事を話そうか。俺はある国を占領した軍に雇われててな、輸送部隊の護衛をしていた。岩山と砂しかない糞みたいな国だ。輸送部隊がだいたい二百人前後、俺達護衛が八十人くらいだった。
場所は見通しの効かない岩山の間の山路で、そこで敵の奇襲を食らった。まず先頭にいた護衛の車両……馬車が地雷で吹っ飛ばされた。あ、地雷ってわかるか?」
わかりづらそうなところをこっち風に言い換えてやる。
「魔術師殿から聞いている。あの方も召喚者だからな。貴官らがいた世界の戦の事は知っているつもりだ。理解は到底できんがね」
あ、そうなんだ。なおさら俺を呼ぶ理由がわからないわ。
「じゃあ続けるぞ。先頭が吹っ飛ばされて、鎮後兵ばかりの輸送部隊は大混乱、護衛の俺達が下車して応戦しようとしたところで集中砲火を食らった。俺は上手いこと車両の陰にいたから怪我もなかったけど、護衛の大部分と輸送部隊の兵士がバタバタやられてった。
んで、その頃になってようやく冷静さを取り戻した指揮官が撤退を指揮して、連れてける負傷者だけ連れてとにかくその場から逃げ出した。
逃げ出した先には廃村があって、そこに立て篭もりながら救援を待つことになったんだ」
「敵はどれくらいいたんだ?」
「最初は八十人くらいだったと思う。廃村に逃げ込んだ時には三百を超えていたかな。んで、攻撃を最初は銃撃で凌いでたんだがどんどん村に侵入されてな、白兵戦になった。そんくらいにやっと救援部隊が着いたんだけど、包囲が厚くて突破できないからなんとかしてくれって伝えて来た」
「……そんな状況にはなりたくないな。降伏はしなかったのか? 貴官らの世界には捕虜の取り扱いに関する取り決めがあったのだろう」
「俺だって二度と御免だ。大金積まれたって断るね。確かにそんな条約はあったけど、敵はそんなもん知ったこっちゃねえって連中でさ。ふざけた狂信者どもだ。捕まったら確実に処刑される。
話を戻すが、弾もなくなっていよいよまずいって時に指揮官が突撃を決めた。もう動けない負傷者が足止めしてる間に本隊が突破を試みる事になったんだ」
「反発はなかったのか、そんな作戦で」
「志願だからむしろ士気は高かったよ。で、思い出したくもないが敵の砲火の真正面から突撃を開始、見事突破したってわけさ。まあ損害もかなりでかくて、突撃に参加した二十四人のうち四肢を失わずに友軍に保護されたのは俺も含めて六人だけだった」
「……やはり上手く想像できないな。というか、鎮後兵のくせにやけに質がいいじゃないか」
「人間後が残されてなかったらなんでも出来るんだよ。俺達よりひどい状況から生還した奴もいるし。そいつは怪我を治したい後また部隊に復帰してたけど」
俺が小学生の時にその人の生還が映画化されたりもしてたな。俺は後からDVDで観たけど。
「どんな男なんだ?」
映画の粗筋をざっと話す。髭面は感心したように何度も頷いていた。
「四人で三百人を相手に撤退を選ばないとは、まさに一騎当千の勇者じゃないか。貴官がいた世界にそんな勇者が何人もいるとは、実に羨ましい」
「そうか? こっちにもそれくらいの戦士はいるんだろ」
だってほら、剣と魔法の世界じゃん。英雄だとか勇者って言葉はこういうファンタジーな世界の方が似合っている気がする。
「帝国が安定していた五十年前にはまさに勇者と呼ぶべき戦士が大勢いたらしい。だが今はもうだめだ。まともに戦のことが分かる者が指揮を執るのは我が第一軍団のみだ。軍団の主力が生粋の帝国人で構成されているのもな」
「徴兵があるんじゃないのか?」
「あることにはあるが、帝国人はみな兵役を忌避する。徴兵官吏に腐敗が広がっていて金さえ出せば逃れることができるのだ。だから軍団の市民兵はそれを払えなかった貧民か軍団長個人に忠誠を誓う遊民共がほとんどだ。まあ軍団兵全部から見ればそれも極めて少数だがな。歩兵の八割は辺境の属州民から成っている」
忌々しげに髭面が言う。
「と言うことはあんたも属州民?」
「いや、私は帝都の出身だ。もっとも最初の兵役の時からずっと南方に配置され続けていたからほとんど属州民のようなものだが」
髭面の答えを聞き、今度は旗手に話しかけた。
「なあ、帝国の軍団て全部でいくつあるんだ?」