6話
「なかなか得難い存在だという事は分かっているつもりだ。あまり無駄遣いはしたくないね」
「それに関しては同意しよう。用件についてだが、我が軍団に所属している魔術師がオキノ殿、あなたに会いたがっている。この先にある村に逗留しているのでご同行願いたい」
魔術師? 帝国の魔術師に知り合いなんていなかったはずだ。ていうか第一軍団ってうちの軍団と交代する部隊じゃないか。まだこんなとこでもたもたしてんのか。
「魔術師殿は貴官と同じく召喚者だ、十人隊長。来ていただけるかな?」
トルニがこちらを見た。
「トルニ、お前が小隊の指揮を執れ。俺は使者殿について先に行く。軍団長にはあとででいいから報告してくれ」
「了解しました。しかし誰か供をつけていってください」
「別に一人でも大丈夫だと思うけどな……ならユレルミを連れて行こう」
ウェルクが呼ぶと、ユレルミはすぐに来た。
「お呼びでしょうか?」
「俺は第一軍団の魔術師に会いに先行する。ついてこい」
「はっ! ……え、魔術師?」
「ああ、準備をしておけ。……使者殿、その魔術師のところまではどれくいの距離がある?」
髭面がヒゲを撫でながら答えた。
「歩きで半日程度だ。馬には乗れるな?」
「俺は乗れないがこいつの後ろに乗ってく。ラクダには乗れるんだけどな。ユレルミ、武器と必要最低限の装具を残してあとは馬車に置いていけ」
「はっ、了解しました!」
いまいち状況を飲み込めてないみたいだけど、ユレルミは迅速に行動を始めた。やっぱ素直なのは楽でいい。
†
「そういえばラクダには乗れると言っていたな」
道中、旗手の男と髭面が話しかけて来た。ちなみに俺は騎士団との戦闘で死んだ騎兵の馬にユレルミと二人乗りしている。二人乗り用の鞍は使者達が用意していた。
「ああ、元いた世界じゃそういう仕事もやってたってだけだ。とはいっても一年程度だし騎乗戦闘はしたことがないが」
「ラクダに乗れるなら馬にも乗れるはずだ。なにせラクダは気性の荒いのが多いし、馬よりも乗りこなすのは難しいんだ」
「こっちにもラクダはいるのか」
「大回廊の南に広がる砂漠地帯に野生のものが多くいる。大回廊南部の部族は馬よりもラクダを使う部族がほとんどだ」
あれ、大回廊って東西に細長い大陸なんじゃなかったっけ。
「ああ、大回廊と呼ばれているのは人が住めて安全に通れる地域だけだ。その南には果てのない砂漠が広がっているから地図には書かれていない事が多い。特に北方の人間が描いた地図に多いな」
なるほど。というかそれって正確な地図が少ないって事なのか。精密さはそれほど期待はしていないけど、少なくとも正確な地図が欲しい。地図にない川だとかがあると非常に困る。
「それにしても馬に乗れなくてラクダには乗れるとは、まるで最南の遊牧民じゃないか。向こうじゃどこかの国の軍にいたのか? 見たところ砂漠の出身には見えないから雇われってとこだろう?」
まだその話題を引っ張るか。とにかく質問には答えてやる。別に隠す必要もないし。
「まあな。独り立ちできる年になってすぐにそういう会社……商会に入った。要人警護とか正規軍の輸送隊の護衛とか占領地の巡察とかばかりやってたな」
「面白いことをやる商会だな。戦にはどれくらい行ったことがある?」
「四年間はずっと同じ場所に派遣されてた。元々荒事やる部署じゃなくて後方支援だったから最後の一年に八回くらいかな」
その八回が地獄だったわけだけど。