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3話

 トルニ達の所へ戻ると、敵味方の死体を並べてなにやらやっていた。中隊長が指揮をとっている。


 少し離れた所に大きな穴を掘っている。


 死体の様子は見るに耐えない状態のものが多い。腕やら足やらが切り飛ばされた死体もあれば、切り落とされた首を抱えるように寝かされているものもある。腹を割かれて腸が零れ落ちている死体もあった。


 どの死体も焼け焦げたり破裂したりしてないから、いつも俺が見てきたものと比べれば十分綺麗なものだった。それでも死体は死体だ。見ていて気持ち良くなるものでもない。別に旨そうでもないしな。


 丁寧に並べられているのは味方の死体だけで、敵の死体は貴重品を剥いだ後に適当に山積みにされているだけだった。


「隊長。敵の死体は百二十六体、こちらは六十二人が戦死したようです。負傷者も合わせれば全隊の半分近くが戦闘不能になっています」


 この損耗率は普通に全滅どころか壊滅認定されてもおかしくない。


「軍団旗手が戦死したのは痛いですね。兵が動揺しています」


「そこら辺の事を考えるのは俺の仕事じゃない。なに、お前達も士気下がってんの?」


「まさか。動揺しているのは帝国で生まれ育った兵だけです。私を含めて北方生まれのオルカは旗手を失った程度で士気は下がりませんよ」


「ふーん。……え、トルニって解放奴隷なんじゃないの? てっきり国内で奴隷狩りにあったもんだと思ってたけど」


「はは、私は奴隷じゃありませんよ。私の父はオルカ族の中の部族の一つで長をやっていましたからね、十二で成人した時にこちらへ留学しに来たんです。ラウリとイルマは私のいとこにあたりますね」


 二人とも、もういませんが。トルニはなんでもないことのように言ったが、その二人の死に俺は関わっている。ラウリは間接的に、イルマは直接的に。


「いいとこのお坊ちゃんだったんだな」


「族長の息子とはいっても、小さな村を一つ収めてるだけでしたからね。別に庶民と変わらない生活でしたから。古い事だけが取り柄の家柄です」


「何年続いたのかは知らないけど、長く続く家系ってのはその分積み上げてきたものがある。それだけでも十分さ」


 俺が乗った荷馬車にどんどん戦利品が積み込まれて行くのを見ながら、トルニと会話を続けた。


「隊長の家はどんな系譜なんですか? やはり代々続く戦士の家系とか?」


「さあ、詳しくはわからないな。父親は会社員……あー、商会で事務員みたいなことやってたけど、たぶん農民かなんかだろ。名のある武将の子孫を名乗っているわけでもなし、お前のとこと比べたらありきたりのつまらない家系さ」


「えっ、ご自分の先祖が何をやっていたかご存知ないのですか?」


「ああ、俺の家も含めて周りでそこらへん把握している奴はいなかったな。俺の国じゃ俺が産まれるずっと前に階級制度が廃止されててな、第一次産業に関わる人々以外はほとんどみんな都市に住んでいてただその日を生きるのに精一杯だった。自分のご先祖が土いじりをしていようが海賊やってようが今自分の利益にならない事はどうでもいい、って感じだったな」


「それは……なんとも奇妙な国なんですね」


「こっちと比べれば、な。だけど俺が元いた世界じゃほとんどの国がそんな感じだったよ。技術が進んでいる国ほどその傾向があった。そういう国は直接戦場になることはほとんどないから平和っちゃあ平和なんだけど。そうじゃない国は常に戦場になってたからな。

 物は溢れてたし、娯楽も溢れててなんの文句もないはずなんだけど、どうにも生きてる、って感じがしない国で生まれ育ったんだ。死んではいないけど、かといって生きているわけでもない。やり甲斐のない、生死に直接関わらない同じ作業を毎日繰り返して……。で、その事に文句は言っても変わることは望まないっていう国に嫌気がさして俺は国を出たんだ」


 トルニは俺の話を聞いてなにやら難しい顔をしている。出来るだけ分かりやすく伝えたつもりだけど、価値観が違いすぎて伝わってないのかな。


「隊長のおっしゃることの意味は良く分かります。私が留学していた帝都でもそのような雰囲気でした。発展を終え、停滞している。

 老人は地位に固執し、若者は諦めている。そんな場所でした。……正直、この程度なら留学などせず故郷で妻と暮らしていた方がマシだと思いましたよ」


 へえ、ここでもそうなのか。やっぱり長く続いた国ってものの末期症状は似てるのかな。……え、妻と?


「あれ、言ってませんでしたか? 成人した時にオルカと帝国人との混血の娘を娶ったんですよ。留学した時に一緒に連れてきたんですが、帝都の空気に馴染まず今じゃ郊外に暮らしてます。実に半年ぶりの再会です」


 えっと、確かトルニは十二歳で成人して留学したって……嘘だろ、俺が意味もなく走り回ってた時にこいつ結婚してたのかよ。すごい。


「待て待て、今お前いくつだ?」


「歳ですか? 今年で十七になりますが」


 わっか! まだ高二じゃないか! まじかよ……


 軽く落ち込む俺に、トルニはさらに追い打ちをかけてきた。


「子供もまだ小さいんで彼女の実家に世話してもらってるんです。あれぐらいの年頃は父親が教えなきゃならないことがたくさんあって……隊長?」


「……子供、いくつ?」


「えっと、今年で四歳になりますね」


 止めを刺したのは俺自身の質問だった。



 †



 敵兵の死体はまとめて穴倉に放り込み、火を放った。死体を放置してたら疫病が蔓延するし、当たり前の処置だ。


 味方の死体は街道沿いに纏めて埋め、塚を築いた。本当は個別に埋めてやりたいとこだったけど、時間も人手もないしで一番簡単な様式となったらしい。


 結局それだけの事をやり終わった頃には既に日はくれてしまったし、どうやら今夜は野営をするつもりらしい。


 少し移動して野営に適した場所を確保した。二時間ほどで簡単な防御陣地つきの野営場にが出来上がった。

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