2話
最後まで生き残ってたくらいだから手練れだったんだろうけど、所詮多勢に無勢だ。一瞬で圧殺された。
「まだ攻撃があるかもしれん、隊形を整えろ!」
死体からいろいろ剥ごうとしていた兵士を、下士官が怒鳴った。略奪よりもやはり命の方が大事なのか、それともよく訓練されているからなのか、兵士達は特に反抗もせず陣形を組み直す。だけどまともに騎兵の突撃を受けたこちら側は密集度が少ない。
「十人隊長殿、軍団長がお呼びです」
馬車に戻る途中、若い軍団兵に呼び止められた。アンドレイはもう一つの方の方陣の中にいたはずだ。行き先を変更してアンドレイの方へ向かった。
「ああ、来たか。そちらの状況は報告を受けている」
「ならなんで呼んだんだよ」
「お前から見てどう思った?」
「どうって、なにが?」
アンドレイはオクタヴィアに陣形の変更を指示した後、俺に向き直った。どうやら周辺警戒用の陣形に組み替えるようだ。当然
「魔銃を用いた戦闘のことだ。損害は聞いた。だが私は直接様子を見たわけではないからな、忌憚のない君の意見が聞きたい」
「意見ねー……」
こういうのってうまく言えないから苦手なんだよな。事前にわかってれば頭の中でいろいろと組み立てられるんだけど。
「あれだな、魔銃自体の攻撃力と命中率が低い。五十人で斉射して、銃撃で殺せたのは十五騎くらいだった。ぱっと見た限り弾丸の大部分はとんでもない方向に飛んでったし、そうじゃないのも鎧に弾かれていた」
「なるほど。続けてくれ」
周りでは負傷した者を一箇所に集めて応急処置をしていた。治癒魔術が使えるのはヘルネだけだからほとんどが昔ながらの治療を受けている。正確な損耗はわからないけど再起不能になった軍団兵も多そうだった。
いや、死者よりも負傷者は少ない。重傷者はさらに少なかった。敵も味方も動けなくなった奴から殺されてったからな。
「あとは練度、というか経験不足だな。馬を狙った奴と騎手を狙った奴に分かれちまったのは問題だ。ただでさえ頭数少ないのに狙いがバラけたのは痛いな。
あとは銃声の効果だけど、想定以上の効果はあった。けど、到底満足できるほどではないな。おかげで多少なりとも突撃を許してしまったし、そのせいで槍兵がいないこっちはかなりの損害が出た」
「ふむ。ではそれらの問題を解決するために君は何か案はあるかね?」
む。なんか嫌な予感がするぞ。具体的にはメイドさんが遠ざかる予感がする。
「……一番手っ取り早いのは魔銃とそれを扱える兵士を増やす事だな。それが難しいならパイクとか近接戦闘を担当する部隊と一緒に運用するしかないだろう。
それもダメだってんなら魔銃の性能向上かな。ライフル銃が欲しい。あれがあれば射程は伸びるし斉射二回は出来る。全員が良く訓練されてたら三回はできるかもしれない。あと野戦砲による火力支援が欲しい」
最後の一言を、アンドレイはさらっと黙殺してくれた。
ちなみにドベル族に作ってもらった俺のライフルは機関部しか残ってない。帝都に行けば滑空銃には出来るかもしれないけど、期待はしてない。
「まあ、改良は無理だろうな。ドベル族はもういないし、費用が馬鹿みたいに高い。仮に生産できたとしても大量には作れないし極々一部にしか配備できない。それじゃ意味ないだろ」
「確かにその通りだ。しばらくは今まで通り槍兵との併用が必要だろう。騎兵部隊ももう少し大規模なものが欲しいが現在の帝国の状況はそれを許さない。
ところでユウイチ、ドベル族が八つの氏族に別れている事は知っているかね」
初耳でーす。
「あの山脈にいた部族は壊滅したが、帝国国内にはあと四つの氏族がいる。君にはその中の一つ、あの山脈の氏族の族縁に当たる氏族と交流を持ってもらいたい。ちなみにこれは正式な命令だ。後ほど文書で渡してやる」
はい嫌な予感的中。ゆっくりする暇もないのかちくしょう。病み上がりっていうかついこないだまで死にかけてたんだぞこっちは。
「まあすぐに、とは言わないさ。帝都は帝都でいろいろと問題があるようだし、少なくともこの冬の間は動きはないだろうさ」
ゆっくりできるのはいいんだけど、なんだかいま、凄く不穏な言葉を聞いたような……
「我々軍人は下された命令に従い、立ち塞がる全てを殲滅するのが存在理由だ。例えどんなにくだらない命令であろうとな。それに君は政治的な事で悩む立場にない。少なくとも選任百人隊長になってから悩みなさい」