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1話

 冬でも入りかけのこの時期は日向にいれば十分暖かい。むしろ空気が涼しい分、暑くなるってこともなくちょうどいい感じ。


 俺は馬に乗る必要もなく荷馬車の荷台に寝転がっているだけだから、昼寝するのには最適だ。程よい馬車の振動も眠気を誘ってくる。


 ヘルネも同じ荷馬車に乗っていて、至極眠そうに舟を漕いでいた。こいつの怪我もほとんど完治してはいるけど戦闘に参加することはもうないから鎧ではなく私服姿だった。


 最近は急激に冷え込んでいたから野外でこう悠長に昼寝なんてできなかったんだけど、どういうわけか今日はかなり暖かい。十八度くらいはあるんじゃないのかな。


 ご丁寧に偵察隊に同行していたらしいウェルクが馬を寄せてきた。


「なにかあったのか?」


「この先の村が王国側の傭兵隊に襲われたようです。まだ火は燻っていたので襲撃があるかもしれません」


「分かった。トルニにも報告して、奴の指揮に従ってくれ。基本的にはこの馬車を守るように」


「了解しました。トルニ殿の指揮下に入ります」


 敬礼して馬車から離れるウェルクを見送り、また横になった。一応銃代わりのボウガンはいつでも射てるようにしておく。今回は全弾炸裂弾を用意して貰った。正直なところ、射撃武器としては魔銃よりもこのボウガンの方がDPM上だし射程も大して変わらないから使い勝手はいいんだよなー。ルキウスの救出作戦の時も無理して銃を持ってかないでこっちを使った方が良かったかもしれん。

 過ぎたこと言っても仕方ないけど、状況に応じて使い分けは必要だなあって思いました、まる。


 現在地は帝都まで五日といった辺り。こんなとこまで敵が浸透してるとはなあ。まあ組織的な行動じゃないだろうから問題ないけど。大方食い詰めた傭兵隊が冬篭りの直前に一稼ぎってところだろう。この先の村って言ったらかなり大きいところだし、結構な規模の傭兵隊なんじゃないのかな。時期的に収穫はとっくに終わっていて冬ごもりの準備も済ませた頃だろうし、相当荒稼ぎしたんだろうなあ。

 となるといくら正規軍とはいえ数が少ないから俺たちも襲撃されるかもしれない。


 まあ相手の規模にもよるけど襲撃されたところで同数くらいまでなら余裕で撃退は出来るだろう。



 行軍の陣形が変わった。輸送用の馬車を中心に紡錘形の警戒陣形になる。騎兵は前方と後方にそれぞれ配置して周辺警戒。さらに偵察隊も組織して送り出したようだ。行軍速度は落ちるけど、これも仕方ない。全く無防備に襲われるよりかは大分ましだ。


「敵部隊を捕捉! 騎兵多数、前方で交戦中!」


 先行していた偵察隊のうち一騎だけが戻ってきた。


 報告を受けたアンドレイが戦闘態勢を指示したようで、あちこちから陣形の変更を指示する下士官たちの怒号が聞こえてきた。


「偵察隊を下げさせろ! 各隊は訓練通り方陣を組め!」


 方陣っていうのは防御用の真四角の陣形だ。これを二つ作り角と角を接続するとどんな方向からの突撃にも常に二辺以上が射撃出来るって寸法。今回は二百名足らずだけどもっと大規模になれば突撃で突き崩すのも不可能となり、防御側の射程外からの砲撃で崩すしかなくなる。この世界の場合は魔術師による攻撃かな。


 問題は全く進軍が止まってしまうことなんだけど、この場合はいいのかしら。ちなみに俺が乗っている荷馬車も含めて輸送段列は方陣の中に収まっている。


 やがて街道の向こうからぼろぼろの偵察隊が戻ってきた。十五名送り出したはずが今では四騎まで減っている。辺の接続部分がはずかに開いて彼らを迎えいれた。


「敵総数はおよそ百五十! 騎兵が主体の重装部隊です!」


 重装騎兵? となるとただの傭兵隊じゃなさそうだ。身体を起こし、ボウガンを構えた。


「隊長、私も援護します」


 ヘルネも同じようにボウガンを構える。


「総員着剣!」


 銃剣を取り付ける音が響く。


「各中隊は中隊長の射撃に続け、斉射一回!」


「隊長、お守りします」


 トルニ達が馬車の周りに集まってきた。ユレルミもフランベルジュを抜いて待機している。


「銃撃だけじゃ突撃は完全には止められない。方陣内部に突っ込んできた間抜けを狙え」


 フレギもウェルクも近接戦闘をするつもりで剣を抜いているけど、トルニだけは装填済みの銃を構えていた。


 地平線の向こうから砂埃と怒号が近づいてくる。


 今のところ、兵隊に動揺は見られない。よく訓練されていた。


 敵の姿がはっきり見える距離まで近づいてきた。


 全身を鎖帷子で固め、要所要所を板金鎧(プレートメイル)で補強した重装騎兵だ。旗手以外の全員が突撃槍(ランス)を構えている。こりゃ傭兵っていうか騎士だな。


()ぇぇッ!!」


 響き渡る銃声。銃弾では十五騎ほどの騎兵しか斃れなかったが、幾重にも重なった銃声の効果はそれ以上だった。


 初めて耳にする銃声に二十騎以上の騎兵が落馬し、その後から続いてきた騎兵も倒れた仲間に躓いて次々と落馬していく。落馬しなかった者は馬も人も完全に怯え切っていた。


「メイジャ! メイジャ!」


 怯えた声で仲間に警告する騎士もいる。魔術かなんかだと思ってんのかな。半分は当たり。正解者の貴方には帝国特産の鉛玉をプレゼントだ。


「白兵戦闘用ォ意!」


 軍団兵達が銃剣を取り付けた魔銃を槍のように地面に突き立てた。自前の剣を抜いて地面に突き刺してる兵士もいる。


 いくらかは速度は落ちているけどそう簡単に騎馬突撃はやめられない。怯え切った中途半端な速度で敵は突っ込んできた。


「うあっ、があああああ!?」


百人隊長(ケントゥリア)に続けぇぇ!!」


「グっ……」


「アシュトーイ・コンビア!」


 突撃を受け止めた中隊が一気に混乱状態に陥る。いくら敵が怯えて衝突力も半端になったとは言え、騎兵と歩兵じゃ戦闘力が違い過ぎる。だが、混戦になってもそれは変わらない。……敵が騎兵である限りは。


「馬から引き摺り下ろして囲み殺せ!」


 軍団兵はどんな状況でも命令に忠実だ。常に複数で騎士を囲み、地面に引き摺り下ろして撲殺している。魔銃は重い分、鈍器としても有能だ。


「来ます!」


 騎士が三騎、こちらに向かって来ていた。派手な鎧な辺り、指揮官かなんかだろう。


「派手なのは俺が相手する」


 トルニの射撃で一人落馬した。が、すぐに立ち上がって向かってくる。もう一騎をウェルク達が足止めする。


 ボウガンを置いて馬車の上で仁王立ちになる。それだけでもプライドの高そうな騎士には十分な挑発になったみたいだ。


 どんどん近づいてくる。


「撃て!」


 騎士の右肩が炸裂弾を受けて弾けた。突撃槍を取り落とす。さらに馬をトルニが撃った。


「ぬぅっ!」


 落馬しかかったところに飛び掛かる。がしゃん、と音を立てて落ちた。


「貴様、卑怯な!」


 帝国語が使えるって事はそこそこ教養があるようだな。


「誰も一騎打ちするなんて言ってねーだろバァカ!」


 馬乗りになり、頭を掴んだ。力任せに持ち上げ、地面に叩きつける。この一撃で騎士は動かなくなったが、まだ死んではいない。何回も何回も繰り返すと、ひしゃげた兜の隙間から血が溢れて来た。


 首の辺りを掴んで立ち上がった。方陣の外側では遅れてきたらしい敵の歩兵と乱戦が起きていた。数は圧倒的にこちらが有利で完全に包囲している。


 俺が騎士の死体を引きずっていく間に、抵抗を続けている敵兵は十人足らずに減っていた。


 その囲みの中に騎士の死体を全力投球する。


「うわあああ!?」


「コマンデ!?」


 ありゃ、何人かが押しつぶされてしまった。


 突然飛び込んできた指揮官の死体に動揺する歩兵たち。


「今だ、殺せ!」

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