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18話

 頭痛は相変わらずだけどいくらかは疲れが取れてきた。森の中は常に薄暗いから気づかなかったけど既に夜は明けているらしい。不自然な体勢で眠っていたせいか、例の痛みとは別に身体の節々が痛んでいる。


 森の中心を目指して歩いていると、また頭痛がひどくなってきた。

 腐りかけの果実にも似た濃厚すぎる匂い(マナ)が脳髄を侵してくる。


 これ以上は危険だ。これ以上は耐えられない。この身体の何処かにある本能が警告してくる。だけど、足は止まりそうもない。


 一体なんのために俺は歩いてるんだっけ。そんな事もわからなくなってきた頃、ようやく自分が何処に立っているかに気付いた。いつの間にか頭痛もしなくなっている。


 空き地……なのかな。この結構広い範囲には周りにあるような大木はほとんど生えていなくて、陽光が靄に反射してスポットライトみたいに照らし出している。


 その空き地の真ん中辺りに何か建物の残骸らしいものが残っていた。外壁も部屋を仕切っている内壁もほとんど残っていない。まあ外壁はいくらか残っているんだけど、一番原型を留めているところでも二メートルくらいしかない。蔦が這ってたり苔が生えたりして元がどんな色だったのかすらわからない。


 ゆっくりと近づいてみることにした。辺りには俺が草を踏んで進む音しか聞こえない。とてもこの世のものとは思えないほど静かだ。

 今まで歩いてきた森も静かだったけど、あの吸い込まれそうな静けさと違って、なんていうかこう、ほら、あれだよ、なんつーか……躍動感? いや、違うな。なんて言えばいいんだろう。まあとにかく物騒な感じのしない静けさなんだ。


 自分のボキャブラリーの少なさに愕然としつつも、足は止めない。


 廃墟にはすぐに辿り着いた。適当なところに荷物を置いて、改めて廃墟の観察を始める事にした。


 広さはだいたい体育館くらいか。屋根は完全に落ちていて外壁にわずかに残っている程度。雑草の生え具合は外とそんなに変わらないけど、廃墟の中は細かい瓦礫やら倒れた柱やらが散乱している。


 俺が立っている側はほとんど壁は残っていないけど、奥の方は結構外観を保っているな。陽光の向きの関係で一番奥の辺りは壁の陰になっていた。ここからではよく見えない。


 残骸を漁りながら進むことにした。なにか面白いものが転がってるかもしれないし。



 一時間ほど掛けて一番奥の間まで辿り着いた。収穫はなし。瓦礫やら朽ちた倒木と一見見分けがつかないくらいに腐り落ちたテーブルの残骸やらしか見つからなかった。こんな辺鄙なところにあるんだから元々は神殿の類だったんだろうけど、それにしては宗教系の遺物が見当たらない。

 忘れられて朽ちていったんじゃなく、襲撃かなんかで逃げ出したとかならなにも残ってないのは頷けるけど。


 さて、一番奥のこの部屋はこの廃墟で一番大きい部屋だったようだ。仕切りとなっていた内壁の残骸もなく、外縁に沿って僅かに残骸が積もっているくらい。その代わりに床には薄く土が積もり雑草やら苔やらが茂っていた。


 試しに足元の土をがりがりと削り、床を露出させてみた。


 ……一見岩盤のように見えなくもないけど、こりゃモルタルだな。日本だとかで見るものよりもだいぶ暗い色だ。


 少し進んで別の場所の床を露出させる。ここもモルタル。

 しばらく間、広間のあちこちでそれを繰り返した。


「ほー」


 やがて、土に汚れた指先がモルタルとは違うものを掘り出した。


 タイルだ。だいぶ色あせてはいるけど、十分に綺麗な青いタイル。範囲をさらに広げる。今度は連なった黄色のタイルと緑色のタイルが見つかった。


 となるとこれはモザイク画かな? ほら、古代ローマ辺りの遺跡とかによくあるあれ。


 ああ、やっとそれっぽいモノを見つけられた。

 とはいえ露出しているのはまだごく一部だ。外縁部のモルタルの部分との境目辺り。

 両手を着いたまま辺りを見回す。


 奥のまだ外壁が原型を留めている辺りは土が薄いな。端の方はかなり土が積もっているけど、そっちに用はない。ここが宗教施設だろうとそうじゃなかろうと、核心のモノを端っこに描くはずがないし。


 そちらに移動し、土を掻き分ける作業に入った。

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