16話
店に入ろうとすると、遮るように大男が俺たちの前に立ち塞がった。
「何用だ」
威圧感を込めて男が言った。剣は鞘に収まっているが、いつでも抜けるように右手を柄に置いている。
「出来合いの物でいいから武具を売って貰いたいのだけれど」
シェネルが答えると男は店の中をちらりと見る。
「……入れ。くれぐれもバカな真似はするなよ」
「そう。ありがとう」
男達はどいたが、じろじろとシェネルの事を見ている。実に不穏な気配だ。いつでも切りかかれるように、って感じ。
中は意外に広かった。カウンターの奥にある鍛治場にはそこそこの大きさの炉があるが火が入っているものは一つもなかった。
「王国の貴族様が何の用かね」
店主らしき老人が鼻をほじりながら言った。ちょっと、商売する気あるの?
「あんたらが搬入してる武器で事足りるだろうに」
「いくら貴族だからって物資を好きにできるわけないでしょう」
「まあいい。きちんと金を払うならあんたらは客だ。で、なにが入り用なのかね」
「短剣とナイフを見せて。革製の防具と片刃の剣はある?」
老人は俺の横の壁を指差した。
「今売れるものはそこに出とるだけじゃ。好きに見ていけ」
言われた通りに壁に掛けられた武器の中から選ぶことにした。
……上等そうな武器はほとんど残っていない。帝国で一般的なサクスは一つもなく、王国風の長剣が数本とダガーが十本ほど。防具は金属製のものが二つだけ。
「これだけ?」
「戦の時にこの町の代官が買い上げて下さってな」
どうする? とシェネルが目を向けて来た。
刃渡り八十センチくらいの剣をとり、握りを確かめてみる。柄はだいたい三十センチくらいか。ちょっとした護身用ならこれで問題ないかしら。ついでにダガーを片刃のものと両刃のものを一本ずつ選んだ。
「防具はいらないの?」
「いい。重いと動きが鈍くなる」
重いのは慣れてはいるんだが、あくまでそれは銃撃戦での話だ。白兵戦なら軽い方がいい。
「胸甲だけでもだいぶ変わってくるから買っておいた方がいいと思うけど」
シェネルが言った。剣での戦いに慣れているシェネルが言うなら買っといてもいいのかな。試しに胸甲の一つを手にとってみる。重さはだいたい七キロってところか。身に付ける防具ならこれくらいなら……って感じ。というわけでお買い上げ。
代金はシェネルが払った。代金は銀貨八枚。
「帝国の通貨なんてよく持ってたな」
店を出て館に帰る途中、そんな事を聞いて見た。
「これでも冒険者もやっていたからね」
「へえ。確かに考えてみればそうだよな。初めて会ったときも冒険者としてだったし」
帝国と王国の間に交流はほとんどないとは聞いていたけど、民間レベルではそれなりに交流があるってことか。いや、それも正確じゃないな。正式な国交はないし商人同士のやりとりもないけど外交と冒険者に関してはやりとりがあるって感じかな。
「ところでさ、本当に向こうに戻るつもりなの?」
「ああ。王国に寝返るにしたって帝国で働いてた分の報酬は貰わないとな」
それなりに人通りの多い街路を歩きながら答えた。
この雰囲気はよく知っている。占領直後の中東の街とそっくりだ。飛び交う言葉も建物も人種も、そもそも世界すら違うけど、この類の雰囲気はどこも同じらしい。
実にいやな雰囲気だ。楽しそうなのは占領軍の兵隊達だけで地元の住民は建物の陰から湿った視線を送っている。
「」