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13話

 食後には、傷の回復にいいという薬草を使った茶を飲んだ。にっがい。これはもう、茶というより薬だ。薬草使ってんだからそら薬だろう。


 不意に食堂の入り口の方が騒がしくなった。


「お、お前なんでここに!?」


 そちらを見ると、あのチビが剣を抜いて俺の方に向けてきた。抜き身の刀身の周りには何かキラキラしたものが舞っていた。あれも遺物(アーティファクト)の一つだろう。


「ナオト、やめなさい!」


 シェネルが制止するが、チビは耳を貸さない。ていうか、お前は俺が運び込まれてたのを知らないはずがないんだけど、そこんとこどうなのさ。


「この裏切り者が!」


 そもそも仲間になった覚えがないんですけどねえ。

 このまま誤解させといてもいいか、なんて一瞬思ったけど、やっぱりクラウディアみたいに突っかかってくるのはあいつだけで十分だ。


「ち、ちょっと待ってくれ。君は誤解してる、クラウディアさんから何を聞いたのかは分からないけど、俺は裏切ってなんかいない!」


 なるべく誠実そうな人格を演出。シェネルは奇怪なモノを見るような目で見てくる。うん、自分でも不自然過ぎるって事は分かり切ってるから、そんな目で見ないで……。


「うるさい! 誰が裏切り者なんかに耳を貸すか!」


「ナオト、いい加減に……」


「いや、いいんだ、シェネル。確かに中川を助けられなかったのも、脅されていたとはいえ帝国側に付いて彼と戦ったのは事実だ。裏切り者だと思われても仕方ないよ。クラウディアさんから嫌われてるのも、あの決闘で結果的にとは言え卑怯と言われても仕方ない勝ち方をしてしまったし、もう誤解は解けない」


 シェネルを制し、いかにもな口調と表情で咄嗟に出てきたセリフを言う。


 後悔と自責の念に苛まれてる感溢れる俺の名演技にチビは少し決まり悪そうにする。だからシェネルさん、そんな目で見ないでください……演技なんですってこれは。


「それに、彼もクラウディアさんも、俺がなにを言ったって言い訳としか受け取ってもらえないだろうし」


「い、いや、そんなわけじゃ……確かにクラウディアさんの言い分しか聞いてなかったし、あんたの話も聞くよ」


 ニヤリ。


 チビが見せた譲歩にそんな擬音が聞こえそうな笑みを浮かべてしまったが、俯いていたからシェネルにしか見えなかったはずだ。その証拠に、シェネルは呆れたようなため息をついていた。


「本当に、俺の話を聞いてくれるのか?」


「ああ、聞かせてもらう……ます」


 俺が歳上だと今更思い当たったのか、中途半端な敬語を返してくる。いやあ、こうまで簡単に騙されてくれると罪悪感が湧いてきちゃうなあ、ふふふ。


「ありがとう……。それじゃ、俺が召喚されたところから話すよ」


 さあ、ここからはストーリーテラー優一の実力の見せ所だ。


 ざっとこれまでの経緯を話す。もちろん俺が被害者だっとことを匂わす内容で、だ。


「……と、言うわけだ。もちろん俺は中川を殺してなんかいない。けど、あいつを助けるって大口叩いたくせに助けるどころか遺体も回収できなかったし、あげくに不本意とは言え敵である帝国に加わっていたんだ。クラウディアさんから、裏切り者だと言われても仕方ないさ」


 最後に自嘲気味のため息までついてみせた。今までの人生で最高の演技だ。


「お話は、分かりました。でも、それならなぜ二度の戦いで僕達に敵対したんですか。ちゃんと事情を話してくれたら……」


 まあ、そこをついてくるよな、当然。


「それに関しては申し訳ないと思ってる」


 心にもない言葉がすらすら出てくるあたり、俺も汚ない大人になったんだなあ、としみじみ思った。


「だけど、状況が許さなかったんだ。

 俺といたオルカ族がいただろ? そりゃシェネルやクラウディアだって大切な仲間だけど、帝国に来てから仲間になったあいつらも俺にとっては同じくらい大切な仲間だ。それにあいつらはもともと奴隷で、いやいや戦わされてるってとこでも同じだったし、こう言っちゃなんだけどあの時のクラウディアさんはとても冷静と言える状態じゃなかったからな。話しかける隙なんてなかったんだよ。


 敵にも味方にも同じように大切な仲間がいて、片方は俺を本気で殺そうとしてきている。いくら大切な仲間でも、いや、そうだからこそ俺は本気で戦ったんだ。だってさ、死んでしまったらこうやって誤解を解くこともできなかったんだ。それに手加減してなんとかなるような人じゃなかったしね」


 ふう、と息をつく。いやあ、物語を創るのって楽しいねえ。いっそ作家にでもなろうかしら。


 木製のコップに入った水を飲みながら聴衆(オーディエンス)の反応を盗み見る。


「うぅっううう!」

「うぐっ、き、貴様も、ひぐっ、苦労したんだなあ、うっく、すまないな、話を聞いてやらなく、っく、て」


 チビと一緒に、なぜかクラウディアまで号泣していた。バカかこいつら。つうかいつ来たんだ。


「はじめはふざけた、ひっぐ、戯言だと思っていたが、おま、お前が、そんなに私たちの事を大切に思って、うぐ、くれてたなんてな……」


「お、おう」


 がっしりと抱擁してくるクラウディア。鎧が傷に食い込んですごく痛い。


 助けを求めてシェネルを見る。が、白け切った目で俺を見返すだけだ。

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